バトロワ編 その12

 と、いう訳で一方の忍さんはどうなっているかというと―――――。


「だいぶ罠の解除に慣れてきたかも。――――そこねっ!!」 


 私は不自然に地面が盛り上がっている場所に向かって矢を放つと、その場所からズササッと何かが崩れ落ちるような音がしてから、ひとりくらいなら余裕で落っこちそうな穴が現れた。


「ふふん。余裕、余裕」


 今の私は魔法使い――――――っぽい服を着ている弓使い。

 このゲームは相手の持っている武器で相手のクラスを判別するのが基本なんだけど、ゲームアバターに自分が得意だったり使いたいクラスっぽい服を設定して、なりきりプレイみたいなのを楽しむ人も結構多いかな。


 ――――さっきまでの私みたいにね。

 桜は私が魔法使いっぽい服で杖を使ってたから装備を交換してもそう簡単にはバレないって言ってたけど本当に大丈夫なのかな?


 武器は罠を壊す時に一瞬だけ出してすぐにしまってるから多分大丈夫だと思うんだけど、少しだけ心配かもしれない。 


 そういった訳で桜に魔法の杖と火の石を渡しちゃったから、今は一番弱い木の弓と矢が私の武器だ。

 弱いと言っても罠の解除にはこれでもじゅうぶんな威力みたいだし現状は特に問題はないかな。


 さっき手に入れた木材で矢を大量に作ったからストックは必要十分。

 というかこんなに使いきれないでしょってくらい持ってるし。

 直接戦闘になってたら私が魔法使いのクラスじゃない事がバレちゃってたけど、相手が2人とも近接で戦えるクラスを使っていなかったから、しばらくは相手に罠を沢山設置させて素材を消費させる事に専念できた。


 最初はトラップの判別なんて無理って思ってたけど、コツが解ってくると、誰かこんなのに引っかかるんだろって感じのかなりバレバレなやつも結構あるみたいだし、宝探しみたいな楽しさも感じてきた。 


「ふっふー。なんかこのままアイツ等の所まで行って倒せちゃうかも」


 といってもアイツ等のいる場所はおおよその位置しか解らないから直感に頼って行くしかないんだけど、今の私ならなんとかなるかもしれない。

 別に私が倒せるならそれで問題無いわけだしねっ!


「…………ん?」


 ――――トラップの起動する音で聞こえづらかったけど、一瞬だけカサカサと近くで茂みが揺れる音がした。


「もしかして近くにいる!?」


 確か桜がトラップマスターは近接攻撃は出来ないって言ってたし、近くにいるならこのまま一気に攻めれば私達の勝ちじゃん!!

 これは、私の時代が来た? 来ちゃった?

 よしっ。桜には悪いけど、最後の美味しい所はいただいちゃおっと。


「とるりゃ~!」


 私が茂みを抜けた瞬間、

 ――――パキッ。

 と足元から木の枝を折ってしまったような音が聞こえてきた。

 それと同時にやってきた全身を包み込むような謎の浮遊感。


 けれど何か飛んでいるのとは少しだけ感じが違う――――なんと言うか、足元だけ消えちゃったみたいな? そんな感じが――――――。


 私は足元を見ると、そこにあるはずの地面が私の周りだけ何かでスパッと切り取られたかのように無くなっていた。

 何かにしがみつこうと手を伸ばそうにもギリギリの所で掴めそうな物まで届かない。


「しまっ――――きゃあああああああっ!?」


 伸ばした手が何もない空間を掴みきれずに私は暗闇の穴の底へと落下していき、目の前が真っ白になっていく。


 ――――そして数秒して目が慣れて来た頃にまぶたを開くと、私はさっきまでいた場所とは違う広場のような場所にいるみたいだった。


「……あれ? …………ここは?」


 ――――周りが凄く騒々しい。

 それになんだか皆、私がいる事に気が付いていないみたい。


 ――――ううん。

 気が付いてないと言うか…………何かに夢中でそれどころじゃない?


「……何があるんだろ?」


 みんな無心に上を見上げていたので、私も周りにいる人達と同じように上を見上げてみると、そこには巨大なモニターが空中に浮かんでいて、画面には私がさっきまで走り回っていた場所の映像が映されていた。


「…………あ」


 そっか。やられちゃったんだ。

 私のグーに握られた左手から、さっきまで持ってた弓の感触が無くなっていたのに気が付いて手を開く。

 画面には私を倒したヤツ等のチームが映されていて、横に付いているスピーカーからはゲームを盛り上げようとるす実況の声がけたたましく聞こえてきた。

 不正防止の為にロビーにいるプレイヤーはプレイ中の人とはゲームが終わるまでチャットは出来なくなるんだけど、特に心配とかはしてない。


 何故なら桜にはとっておきのアイテムを渡してあるんだから――――。


「あ~あ。けど本当ならアレは私が使う予定だったんだけどな~」


 まっ。多分すぐにこのモニターで見る事が出来ると思うから今回はそれで満足する事にしますか。


 ――――モニター画面は観戦モードの為かキャラの下にプレイヤー名が表示されていて、どうやら私を倒したヤツのプレイヤーネームはキャメルって言うみたい。

 実況が一段落ついた所で、大型モニターからはトラップマスター達のボイスチャットが聞こえてきた。


「ふっふっふ。後1人は剣士だから、もうこのゲームの勝利はもらったかもです」

「トラップに使う素材が少なくなってるから倒した奴から回収するんゆ」

「確かにそうかもです。早く回収してすぐに勝負を決めるかもです」

「それじゃあ早速いただくんゆ…………んゆゆっ!? こいつ微妙なアイテムしか持ってないんゆ!」

「――――本当かもです。こうなったら使える物だけでも持ってくかもです」


 私から奪ったアイテムを素材にして桜をやっつける罠を作ろうと思ったんだろうけど、そうはおあいにく様。

 宝箱からアイテムを回収しているのは画像的に地味なのか、画面は桜のカメラに切り替わり桜の声が聞こえてきた。

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