バトロワ編 その11

「…………ん?」


 ――――格好が紛らわしい?

 これは何かに使えないでしょうか。


「ねえ、桜。さっきから私の服をジロジロと見てるけど、どうかした?」

「……忍さん。確か、さっきやれる事なら何でもやると言いましたね?」

「い、言ったけど。私まだこのゲーム始めてそんなに経ってないから、難しい事言われても出来ないわよ」


「安心してください。忍さんに高度なプレイが出来るとは思っていませんから」

「――――それはそれで、少し心外なんだけど」

「そんな事より木材を集めましょう」

「あれ。木材いらないんじゃなかったの?」

「予定変更です。ある程度集まったら身を隠せる場所まで移動しましょう」

「りょーかい」


 それから私達は地面に転がっている沢山の木材をいくつか拾い集めてから相手から姿が見えない場所へと移動して、私は忍さんに作戦を説明するのでした――――。


「嫌、嫌嫌、絶対にそんなの嫌~~~~」

「忍さん。嫌と言われても、もうこれしか作戦は無いのですが――――」

「だいたいそんな作戦成功すると思ってるの?」

「はい。絶対に成功するので安心してください」



「……何で桜はそんなに自信満々なのよ」

「ガイドブック巻末にあったオマケ4コマのネタを使った作戦なので大丈夫です」

「最後までガイドブック頼りかい!」

「……その……駄目……でしょうか?」


 この作戦は忍さんに頑張って貰わないと出来ないので、忍さんが乗り気でないのなら他の作戦を考えなければいかないのですが、どうしましょう――――。

「あーもう、そんな顔しない。――――今はそれ以外に手は無いわけね?」


「はい。成功する確率は2分の1だと思うので確率的にはそこまで高くは無いですが、このまま何もしないと確実に負けてしまうので、現状では一番高いです」

「ふぅ、仕方ない。その作戦で行きましょ」

「いいんですか?」


「けど、こんな事するの今回だけだからね! 次はもう少しマシな作戦考えてよね」

「次は別の4コマのネタを使います!」

「それも禁止ーー!」


 ―――と、いうわけで。


 まずは作戦に使う道具を用意する事にします。


「――――それでは始めます」


 私は装備していた剣を横に投げ飛捨てると、くるくる回転しながら飛んでいき地面にグサリと突き刺さりました。

 本当は誰かに再利用されてしまう可能性があるので使わなくなった武器は目立ちにくい場所に隠すのがいいのですが、残っているのは2チームだけですし何より今は少しでも時間を無駄にはしたくないといった理由もありました。


 装備が無くなった事によりクラスが対魔剣士からデフォルトの冒険者に戻った私はメニュー画面を開いて、その中にある項目の1つを実行しました。


「――――クラフト」


 私はクラフト。アイテム作成の項目を選びました。

 錬金術士やトラップマスターなどに比べると作れる物はかなり弱い物になるのですが、冒険者のクラフトには1つだけ利点があります。


 それは素材で剣士、弓使い、魔法使い――――いわゆる基礎クラスの武器を作れる事。

 基本的には落ちている物と比べるとかなり弱めの武器――――つまり普通の木の剣や木の弓といった武具しか作れないのですが、好きなクラスになれる事が出来るのです。


「――――ふぅ、なんとか出来ました。――――それでは私のこれと忍さんのアレをトレードしましょう――――」


 私達はアイテムをいくつか交換した後にマップを開いてお互いに向かう場所の位置にマーカーを設置しました。

 向かう場所は今いる場所から二手に分かれてトラップマスターさん達のいる場所の後ろ側です。


 この作戦で重要な事の1つは、まずこの場所から同時に左右に展開する事でトラップを受けるのを片方にする事――――おそらく相手は忍さんを狙ってくると思うので、回復アイテムは全て忍さんへと渡しました。


「致命傷を受けるトラップは教えた通りに回避してください」

「解ってるって。それと、なるべく素材を使わせるように頑張るから」

「――――それでは忍さん、行きましょう!」

「おー」


 私達は同時に飛び出して、二手に別れてお互いに目的地に向かって走りだしました。

 私はなるべく相手から見辛い物陰を通り、忍さんには少しだけ見通しの良い場所を走ってもらっています。


 ――――しばらくして、忍さんの向かった方向からトラップの発動する音が聞こえてきました。

 どうやらトラップマスターさん達は忍さんを標的にしたみたいです。 


 …………ここまでは予定通り。

 二手に別れて挟み撃ちするような行動に出たら相手は各個撃破を狙ってくるはず。

 そして、近距離攻撃しか出来ない相手より遠距離攻撃が出来る魔法使いだけに集中すればダメージを受ける心配はほとんど無く、万が一私に近づかれてもマッパーの能力ですぐに居場所が解るので、私は放置してもいいと判断してくれたみたいです。

 ――――ドカン、ドカン。とまたもや忍さんの方から連続する爆発音が聞こえてきました。


「――――けど、ちょっとトラップが発動する音が多いような気がします」


 トラップマスターさんは出し惜しみをせず、ダメージ量の多いトラップを多く設置して勝負を決めに来ているみたいです。


「…………忍さん。もうちょっとだけ頑張って下さい」


 忍さんの体力をしてみると、爆発してもダメージをあまり受けていなかったのでトラップの解除は上手くいっているみたいです。そして体力の3分の1以上減ったら即座に回復アイテムを使ってくれているので、まだしばらくは持ちこたえてくれるはず――――。


「……はあっ……はあっ」


 私は忍さんを信じて坂道をひたすらに走ります。

 あえて相手から見えにくい木が沢山生えている場所を走っているので、私自身も周辺の視界があまりよく見えなくて、何度か木にぶつかりそうになってしまったり枝が体をかすって軽微ダメージを受けてしまっていますが今は回復している余裕なんてありません。


 ――というか、忍さんに持っている物を全部渡してしまったので回復アイテムがありません。


「1個くらい持っておけば良かったですね…………」


 流石に小枝がかすっただけのダメージが蓄積して倒れてしまっては洒落になりません。

 でも、ゆっくり進んでいたら忍さんの回復アイテムが無くなってやられてしいます。


「…………集中しないと」



 私はふぅと1回深呼吸をして持っている杖を構えると、杖で枝を振り払いながら足を進める事にしました。


 回復が出来ない今の私に出来る事は速度はなるべく落とさずにダメージを受けてしまうようなオブジェクトを極力避ける事でした。

 1つだけ心配なのは、速度を上げた状態で樹にぶつかってしまうとかなり痛いダメージになってしまうので、それだけは絶対に避けないといけません。

 なので私は杖が樹に当たった瞬間に足を止めるか横にかわすかの判断をする為に私は杖の先に意識を集中して足を進める事にしました。 


 ――――コツン。 

 杖の先に感じた違和感が私の体を通り抜ける前に、私は即座に走る方向を変えて木に激突するのを回避しました。

 ふぅ。この感覚を忘れなければ何とかなるかもしれません。


 ――それから私はなんとか獣道を走り抜けて、目的の場所まで到達する事が出来ました。

 忍さんの位置をマップを開いて確認すると、どうやら忍さんも無事に目的地に到着する事が出来たみたいです。 


 今私は忍さんのいる場所から少しだけ離れた崖の下に身を隠しているので、お互いの姿は見えませんがマップで位置だけは確認する事が出来ますし、トラップマスターさんとマッパーさんはお互いの能力をフル活用する為に常に一緒に行動しているので、私に攻撃をする人はいないだろうと安心して呪文の詠唱に入る事が出来るのです。


 私は忍さんと別れた時に炎の石を受け取ったので、今持っている石の数は合計3個。


 ――――そう、今の私のクラスはロードフレアを使えるフレイムマスターになっているのです。

 マッパーは相手の位置は解るのですが、クラスまでは解らないので相手はまだ私のクラスが対魔剣士だと思っているはず。


 もしくは矢や杖をクラフトで作っていたとしても相手が見える距離に詰める必要があるので、普通ならばこの場所にいる私は無視しても問題ありません。



 …………けれど、フレイムマスターの放つロードフレアは例外。

 炎系魔法最強ランクのロードフレアはマップ指定スキル…………つまり、基本的な相手のいる方向に向けて魔法を放つのでなく攻撃する地点をマップ上から選び、その地点に魔法が出現するといった感じの魔法なのです。

 

 ――――本来は物陰に隠れて相手のいる場所を確認してから使う技なのですが、今回の状況では相手にマッパーがいるので私の姿を見せる訳にはいけないのです。

 詠唱にそれなりの時間がかかるこの魔法は相手に詠唱しているのがバレてしまうと、詠唱が終わる前にその場所から移動されてしまったり、遠距離攻撃が得意なクラスの場合は魔法を発動する前に狙撃される可能性もあるのです。


 更には近くで足の速いクラスに発見された場合は一瞬で距離を詰められて、無防備な状態で攻撃されるなど…………まあ、いろいろと使いづらい場面も多いのですが――――。


 それでもこの魔法を使う理由、―――それはなんと言っても火力です。

 防御力の低いクラスなら一撃で、高い相手でも致命傷は免れない程の高火力――――。


 そして一番外せないのは何と言っても、ド派手な魔法演出!!

 このフィールド上のどこに居ても見る事が出来るくらいの、まるで天まで届きそうな高い炎の柱が一瞬で出現するので、初見では驚かない人なんていないんじゃないかと思うくらい凄いのです。


 私も最初に見た時はあまりの光景に平原の真ん中だったにも関わらず、しばらく立ち止まって魔法を見ていました。

 まあ、しばらく立ち止まっていたので魔法が消えるより前に私が狙撃されて消えてしまったのですが…………。


 それに、プレイ中に火の石が3つ揃う事はそうそう多くないので、忍さんはどうしてもこの魔法を撃ちたかったみたいですが、相手に魔法使いは忍さんだけだと思わせる為にはこうするしか無かったので次の機会まで我慢してもらう事になりました。

 という訳で、忍さんには今回はオトリ……では無く、え~っと………的? ……でも無くて………その…………。そ、そう! 相手の場所を教える偵察の役割を担当してもらっているのです! 


「――――ふぅ。後は待つだけですね」 


 私は自分の準備が全て終わったので、相手が動くまでマップ画面を凝視しながら待つことにしました。

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