バトロワ編 その10

「――――な!?」

「桜。早く避けないと――――こっち来て!」

「いえ、ちょっと待って下さい――――」 


 私は少しだけ横にずれて確認してみると、岩の後ろには更に沢山の大岩が私達を押し潰そうと横一列に並んで坂を転がってきていました。 


「忍さん。岩は1つだけじゃありません!」

「えっ!? ――――あ、あんなに沢山きたら避けるのなんて無理じゃない!?」

「とにかく下に向かいましょう」


 私達は急いで坂を降りて行ったのですが、転がってくる岩のスピード以上に早く走る事なんて出来るはずもなく、このままでは押しつぶされるまで時間の問題かもしれません。

 走っている最中に相手の魔法や矢をかわすのに遮蔽物として使える岩がいくつか見えたので忍さんから声がかかりました。 


「ねえ桜。あれの後ろに隠れない?」

「多分あの大きさの岩だとバリケードにはならないと思います。もっと大きな物――――それか隠れる事が出来る場所があれば――――」

「じゃ、じゃああそこに隠れるってのはどうかな?」

「――――あそこ?」



 忍さんが指を指した先には直径10メートルはあるかなり大きな洞窟の入り口がありました。

 場所も私達がいる位置から左手にあるので、岩をやり過ごすには絶好の場所みたいなようです。



 ちなみに何で入り口が大きい洞窟があるのかと言うと、召喚獣などを隠して奇襲をする戦法に使われたりするからのようです。

 まあ、今は私達とトラップマスターさん達のチームしか残っていないので、誰かが隠れているのを警戒する必要はないので、そのまま飛び込んでも問題は無さそうなのですが、はてさてどうしたものか。 



「桜。もうすぐセーフエリア終わっちゃうよ?」


 このまま下まで行くと、やがてセーフエリアの外に出てしまうのでエリアダメージを受けてしまいます。

 エリア外には確か崖があったので、多少のダメージを覚悟でそこまで行けてもこの状況をなんとかする事が出来るのですが、今は回復アイテムを少しでも温存したいですしここは―――――。 


「忍さん。ここは洞窟に――――」

「解った、じゃああっちに行くわね!」 



 私達は道を左に曲がって洞窟へと向かっていきました。

 けど、本当にこれで良かったのでしょうか…………。

 マッパーならあそこに洞窟がある事なんて解っているはずなので、私達があの場所に逃げ込んでやり過ごす事も予想出来たと思うのですが…………。



 ダメージ覚悟でエリア外に行くよりノーダメージで危機を打開出来るなら大半の人は後者を選ぶはず…………。



 何か見落としは無かったでしょうか? 私達が今戦っているチームはマッパーとトラップマスターのクラス……………おや?

 もしかすると、マッパーで私達の位置を把握してトラップを起動する事が出来るのなら、トラップを使って私達を目当ての場所まで誘導させる事も可能なのではないでしょうか…………。




 そうなってくると、この岩なだれ自体がオトリで本命は別の場所にある可能性も…………。

 けれど、岩が上の方から来たと言う事はトラップマスターさんは少なくとも私達より上にいます。



 そして、そんな遠くの場所から時限爆弾系のトラップを発動する事は出来ないので、地雷系のトラップを仕掛けている…………と思ったのですが、地雷系はよく見ればすぐに仕掛けれられている事がわかるのでもっと別の何かでしょうか?



 切羽詰まって足元を確認している暇なんて無いかもしれませんが他にもっと確実は方法は何か――――。



 私は改めて転がってきている岩を観察すると、何故か一箇所だけ転がってきている岩のすぐ後ろに2つ並んで落ちてきている岩があるのを見つけました。

 どうして2つも転がして来たのでしょうか?

 何かのミス? いえ、これには何か理由があるはずです。私の直感が警報しているのがなによりの証拠。



 私は頭の中でガイドブックに書かれているトラップマスターの使用する罠一覧のページを思い浮かべる事にしました。

 トラップは攻撃に使うだけでは無くて、防御や移動に使える物もあったはず…。


 その中に何か今の状況で使える…………いえ、今だからこそ生きてくるような物が何か――――あっ!?


「桜。もうちょっとで助かるよ!」

「忍さん。ちょっと待って下さい、あの洞窟は罠です!」

「え、罠って何か仕掛けられてるってわけ?」

「――――はい、全て繋がりました。そうなると多分あそこに別のトラップが仕掛けられていると思うので、ついて来てください」

「え、ちょ、ちょっと桜!?」

 

 私は洞窟の手前で足を止めて岩の転がってくる方向へと走り出しました。

 どうやら忍さんも私の言うことを信じてもらえたようで、後ろについて来てくれています。 


「ここです。忍さん今から石を投げるので、その場所にファイアーボールを放って下さい」

「ファイアーボール? う、うん、分かった―――――――いつでもいいよっ!」


 忍さんは杖をかざしながら魔法の詠唱に入り、私は近くに落ちている小石を拾い上げて少し前にある茂みの1つに向かって石をホオリ投げました。


「忍さん。あそこです!」

「オッケー。ファイアーボール!!」


 私の投げた小石がコツンの何かに弾かれた直後忍さんの放ったファイアーボールが同じ場所に直撃して、カチッと何かのスイッチが入る音が聞こえたと思ったら、その場所から鋼鉄の壁が少し斜めの角度で飛び出して来ました。


「桜!?」

「大丈夫です忍さん――――たぶん」

「た、たぶんって――――ええっ!?」


 落下してきた岩は鋼鉄の壁に当たるとガコッと鈍い音を立てながら転がる向きが代わり、

 ちょうど私達が隠れようと思っていた洞窟の中へと吸い込まれるように転がっていき、しばらくしてからドゴンと壁にぶつかったような音が周辺に鳴り響きました。



「ふぅ、助かっ―――」

「忍さん、まだです!」

「…………ふぇ?」


 ――そう。岩は2つ転がって来ているのでもう1つの岩も鋼鉄の壁で向きが変わってくれないといけません。

 最初の岩は問題なく方向を変える事が出来たのですが、その衝撃で鋼鉄の板もかなりのダメージを受けてしまったようで、今にも壊れてしまいそうなくらいギギギと低い音を立てながら持ちこたえているみたいです。



「もうちょっと―――お願いっ!」

「ここさえ凌げれば――――」



 突然バコンと大きな音がした思ったら、鋼鉄の壁は大岩の衝撃に耐える事が出来なかったみたいで、鉄の板が私達の少し横を凄い勢いで通過していきました。



「わっ!? 危なっ!?」

「忍さん伏せてください! 少しだけ岩の軌道がずれたので隙間からやり過ごせるかもしれません!」

「ええっ!? そんなの無理でしょ!?」

「無理ではありません!」


 私は忍さんを地面に叩きつけるように無理やり伏せると、私は忍さんが暴れてしまわないように、忍さんに覆いかぶさるように伏せました。


 ――――後は運を天に任せるしかありません。


「キャーーーッ! 桜! 岩っ! いわァあああああああああぁ!?」

「忍さん。下手に動いたら危ないのですが――――」


 やっぱり暴れました。どうやら上に覆いかぶさって正解だったみたいです。

 ゲームなので痛みとかは無いのですが迫力がありすぎるので、あまり慣れていないとこうなってしまうのも否定できないのですが――――。


 そういえば、私も始めたばかりの時は忍さんみたいに大騒ぎをして不用意に走り回っていた事がありました。


 その時はどうすればいいのか解らずにすぐにやられてしまったのですが、ある日ふと立ち寄った本屋さんでこのゲームのガイドブックを見つけたのでした。

 最初はカッコいいキャラやかわいいキャラが沢山いる表紙に興味を持って買ったいわゆる表紙買いという物で、このゲーム自体は時間のある時にちょくちょく軽く遊ぶ感じだったのですが、パラパラと本を読み進めている時に目についたあるページ――――。


 そこに書かれていたマウマウ先生の今日から始める脱初心者講座と言う文字に私はページをめくる手を止めて読み始めると、なるほどあの場面ではこういった行動をするのが正解だったのかと対策を知っていくのが楽しくなっていき、早速ゲームでこの対策を試してみようとゲームを起動してソロプレイのフィールドにログインしてみると、まるでパズルのピースが全部1回でハマっていくかのように迫りくるピンチを回避する事が出来るようになって、最終的には初めての1位を取ることが出来たのでした。



 偶然が重なった結果のラッキーでの勝利だったのかもしれませんが、それでも1位を取るきっかけになってくれたのは変わりはないので、今でもガイドブックに書いてある通りのセオリー通りで効率のいい動き方を続けているのでした。



 ――――――と、昔を思い出している内にいつの間にやら大岩は私達の横を通り過ぎて下へと転がっていったみたいでした。

 服の端っこに少しだけ小石がくっついて、擦れてしまっていたのでかなりギリギリを通過していったのだと思います。



「――――忍さん。もう大丈夫です――――――って、おや?」

 忍さんから返事がありません。私の下にいたのでダメージは受けてはいないと思うのですが――――。


 疑問に思った私はメニューを開いて仲間の状態を確認してみたのですが、体力は減っていませんでした。



「…………もしかして、気絶してしまったのでしょうか?」


 困りました。体を揺すっても現実の忍さんの体が揺れる訳では無いですし、VRゴーグルを外して電話をかける訳にも――――。


「仕方ありません。――ここは」


 私はボイスチャットのボリュームの設定を開き、音量をMAXまで大きくしてから思いっきり息を吸い込んで―――――。


「忍さーーーーーーん!! 起きてくださーーーーーーー!!!」


 出来る限り大きな声を出して呼びかけました。


「ひゃうっ!?」

「どうやら気がついたみたいですね」

「桜。えっと、私どうして―――――あっ!? 岩は? 岩はどうなったの!?」

「落石は忍さんが気絶している間に通り過ぎました」

「――ふぅ。なんとかなったんだ。それにしても桜はよくあんなのが転がってきて冷静でいられたわね?」

「――見慣れてますから」


 忍さんには、実は他事を考えてて気が付いたら通り過ぎていた事は内緒にしておきましょう。


「そう言えば桜。何で突然地面から壁なんて出てきたんだろ?」

「アイアンウォールの罠が仕掛けてあったからです。1つ目の岩の重さで地面に仕掛けたトラップの起動スイッチをおしてから、2つ目の岩が来るまでにアイアンウォールが飛び出してきて岩の転がる方向を変えたといった使い方をしたみたいです。本来は敵の攻撃を防いだりするのに使うのですが、あんな使い方もあったんですね。あのまま洞窟に入ってたら岩に潰されてゲームオーバーになる所でした」



「――――えっと。つまり、起動スイッチ代わりの1つ目の岩がスイッチを押す前にファイアーボールで無理やりトラップを起動させたってわけ?」

「はい。忍さんのおかげてなんとかノーダメージでピンチを逃れる事ができました。――――けど、まだ油断は出来ません」


「それより、セーフエリアギリギリまで戻されちゃったけどこれからどうしよっか? もっかい高台を目指す?」

「おそらくもうあの場所は相手に取られてしまったと思うので諦めましょう。それより見てください――――」



 私達は岩が転がってきた方向を見ると、そこには森の木が岩で破壊されて木材の山が出来ていました。

 これはマップにあるオブジェクトは破壊すると素材アイテムになり、普通は剣や斧で攻撃して素材にするのですが、今回は転がってきた岩のダメージで木の耐久値が0になって素材に変化したからです。



「多分トラップマスターさん達があの高台にいるなら、私達の姿は丸見えになってしまったのでいそいで隠れませんと」

「あれ? 相手にはマッパーがいるから位置はわかってるんじゃなかったっけ?」

「中級マッパーが解るのはあくまで位置だけなのですが、これだけ見晴らしがいいので私達の装備がバレてしまいました――」


 私は近接特化なので今後は遠距離攻撃出来る忍さんが集中的に狙われてしまいますね。

 忍さんがやられてしまって、私だけが残ってしまったら後は罠を周辺に張り巡らせて待っているだけで勝てるでしょうし。



「桜。とりあえず木材を回収しない?」

「忍さん。私達は弓を使わないのでこんなに沢山の木材は必要ないのですが――――」

「なんかの役に立つかもしれないじゃん。それに、ここまで来たらやれる事は何でもやらないと!」

「――――そう言われても」



 ここは木材を集めて小屋か見張り台を作るべきでしょうか。

 けど小屋を作ってもさっきみたいに大岩が転がってきたら木の小屋なんて一瞬で壊れてしまいますし――――。


 とりあえず忍さんを守りながら戦うことを考えるなら、鎧や盾をクラフトするべきなのですが木の鎧や盾だと耐久に問題が――――。


 それに忍さんの服はデフォルトアバターが魔女のような姿をしているので、これではまるでこっちを狙ってくれと言っているような物です。

 せめてもう少し紛らわしい格好をしてくれていたら撹乱が出来たと思うのですが―――――。 


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