バトロワ編 その7

 周辺に他の人の姿は見えませんが近くで戦っている音は聴こえているので、なるべく早くここを離れた方がいいかもしれないですね。



「忍さん。少し適当な部屋に入って武器だけ回収してもいいですか?」

「そういや桜の持ってた武器って壊されちゃったんだっけ?」 

「はい。さすがに丸腰だと戦う以前の問題ですので――――」

「オッケー。強い武器でも落ちてたらいいなぁ~」

「では、あそこの扉がしまっている部屋に入りましょう」



 私達の近くには扉の開いた部屋と少し離れた扉のしまっている部屋があるのですが、私は遠い方の部屋に入ろうとすると忍さんがどうして近くの部屋には入らないの? と言った顔をしたので説明する事にします。



「扉の開いている部屋は誰かがアイテムを回収した後の可能性が高いので急いでいる時は入らない方がいいみたいです」

「なるほど~。それもガイドブックに書いてあったの?」

「はい。しまっている部屋ならアイテムが残っている可能性が高いです。けれど、さっきの忍者さん達みたいにあえて扉を閉めて待ち伏せしている人もいるので注意は忘れないでください」

「わかってるって。じゃあ武器持ってる私が先に入るね」

「お願いします」



 忍さんは一足先に小走りで閉まっている部屋の前に向かっていき、

 ――――バタンと勢いよく扉を開いて中に入っていきました。



「警戒してない!?」

「桜~。大丈夫みたいだよ~」


 安全を確認した私は忍さんに続いて部屋の中に入る事にします。


「あの、忍さん。待ち伏せしてるかもしれないので警戒してくださいと言ったのですが――――」

「敵がいたら魔法でババーっとやっつける予定だったからね~」

「今回は誰もいなくて良かったですが次からは気をつけてください」



 部屋を見回すと奥にまだ開けていないアイテムボックスが設置してあったので、私は部屋の奥にある箱を調べに行く事にしました。


「忍さん。私が武器を探している間に、誰も入ってこれないように警備をお願いします」

「オッケー。それじゃあファイアーウォ―――――」

「ストーーーーップ。また閉じ込められてしまうのでファイアーウォールは禁止です」

「え~。この魔法結構気に入ったんだけどな~」

「それは次の機会でお願いします」



 私は部屋のアイテムボックスを開くと、中には武器と防具が一式はいっていたので新しいクラスにチェンジ出来そうです。

 私はさっそくメニュー画面を開いて新しく手に入れたアイテムを装備すると、服が光に包まれながら新しい衣装へと変化していきます。



「桜~。なんか良いのあった~?」

「はい。そこそこ良い装備が手に入ったと思います」

「ふ~ん。――――ってなにそのクラス?」


 私は剣を構えて忍さんに今のクラスの特徴を説明する事にしました。


「対魔ソードと対魔服があったので対魔剣士です。剣士の強化版――――といった感じですね。なかなか良い装備が残っていて良かったです」

「そうなんだ~。けど、ざ~んねん」

「――――どうしてですか?」

「だってさ~。さっきの忍者の装備があったらソードと組み合わせて対魔忍になれてたじゃん」

「まあ、確かに対魔ソードと忍装束があれば対魔忍のクラスになる事が出来るのですが、残念ながら私では対魔忍になる事が出来ません」


「……ふぇ? どうして?」

「…………年齢制限です」

「……ねん? …………れい?」


「はい。対魔忍のクラスを使えるのは年齢が18歳以上にならなくてはならないので、今の私が装備を揃える事が出来ても対魔剣士のままですね」

「ええっ!? なにそれ?」

「なにそれと言われてもゲームの仕様なので仕方がないです」


 ――――ガキン。


 と、突然近くで武器がぶつかりあう音が聴こえてきました。

 あまり長居をしたら危険なようです。


「忍さん。装備も手に入ったので早くここから出ましょう」

「あれ? もう戦わない訳?」

「物資もそれなりに良い物が手に入ったのでこれ以上欲張ってもやられてしまうだけだと思うので、それにマップを見てください」


 私は忍さんにも見えるようにメニュー画面からマップを眼の前に立体表示すると、現在私達が戦っている島の全体図が現れてその右上の方にある一部が丸い円に囲まれていました。


「今いる場所はセーフティエリアから外れてしまっているので、早くこの円の中にあるエリアに向かわないとダメージを受けてしまうので急ぎましょう」

「あ~。そういやそんな設定もあったっけ」

「――――このゲームの基本設定なので出来れば次からはエリアを注意しておいてください」

「けど、まだこの辺りで戦ってる人結構いない?」


 私は耳をすますと、まだ火の神殿では結構な人数の人が戦っているみたいでした。


「まあ最後の1チームになるまで戦って落ちているアイテムをなるべく独占したいと考えてる人もそれなりにいますから。――――けどあまり欲張って残りすぎてもエリア外ダメージでやられてしまっては元も子もないないので、私達は程々のアイテムを持って程々のタイミングで脱出するのが無難だと思います」


「ま~、ゲームオーバーになるよりはいっか~」

「はい。それに効率とセオリー通りの行動――――それが少しでもこのゲームで長く生き残る為の秘訣だ―――――と、ガイドブックにも書いてあったので間違ってはいないと思います」


 それから私達は入り口の扉を少しだけ開いて誰もいない事を確認してからそーっと部屋を抜け出して、そのまま一気に神殿の出入り口までダッシュして向かって行きました。


「桜~。ちょ、ちょっと待って」

「忍さん。急いで下さい」

「急いでって言われても。こっ、これが全力だから~」


 あまり先行しすぎると忍さんを置いていってしまうので、私は少しだけ走る速度を緩める事にします。

 ちなみに忍さんが遅れているのは剣士と魔法使いの移動速度の差から開いている訳であって、決して忍さんの走る速度が遅いという事ではないです。

 

 ――――まあ、リアルの忍さんは無駄に足が早くて運動会で1番を量産する体育会系少女なのですが、ゲームの世界ではそんな事は関係ないですね。


 むしろ普段は私が歩くのが早い忍さんを追いかける立場なので、なんだが新鮮な気分になりました。


「ねえ桜? 今なんか悪いこと考えてたでしょ?」

「……え? か、考えてません」


 ふぅ。疲れているのに心を読んでくるなんてやっぱり忍さんは侮れませんね。

 その後は他のチームと戦闘になる事は無く、なんとか忍さんの走るペースで出入り口まで到着する事が出来たのでそのまま神殿を後にセーフエリアへと向かう事にしました。


「それにしても、エリアまで結構遠くない?」

「そうですね。徒歩だと少し時間がかかりそうなので、乗り物を使う事にしましょう」

「――乗り物?」

「はい。確かこの辺りに馬小屋が――――っと、ちょうど見えてきました」


 私達の前には木で出来た少し小さめの小屋があって、小屋の窓からは馬が一頭顔をだしていました。


「あそこに行って馬に乗りましょう」

「ねぇ桜。私、馬に乗った事ないんだけど?」

「……忍さん。ここはゲームの世界なので乗馬の技術とかは不要なのですが」

「あ~、そういやそうだっけ」

「小屋に近ずいたらメニューが出てくるので乗馬を選んでください。乗馬中の操作はある程度オートで進むことが出来るのでそんなに難しく考えなくてもいいです」

「ふ~ん。それなら私にも出来そうかも」

「でも馬にはスタミナがあって、あまり長い距離を走ったりスピードを上げ過ぎたりしたら馬がバテて走れなくなってしまうので注意だけはしておいて下さい」

「――ん。分かった」



 馬小屋の周りには乗馬可能エリアを表示する青い円が表示されていて、そこに入った私達はメニュー画面を開いて乗馬を選択すると、ポン!という効果音と共に床から煙が立ち込めて気がついたら私達は馬に乗馬していました。


「私の乗っている馬は青毛なのでブルーノ、忍さんが乗っているのは毛並みが茶色いからチャッピーですね」

「へ~、このゲームって馬にも名前とかの設定あったんだ」

「今つけました!」

「ゲームにのめり込んでる!?」


「どんな時でもゲームの世界観を楽しんでプレイする、それがこのゲームで勝つために必要な事の1つだ―――――と、ガイドブックにも書いてありました」

「そ、そうなんだ。それにしても桜ってかなり本気でこのゲームやってるよね」


「――忍さん。私にとってこのゲームは本気という言葉だけでは表せません。言うなれば故郷でしょうか。朝起きて学校に行って帰ってきてからブレマジを起動する。この行動はもう日常の一部となっていて他の事が介入する余地はないのです。私もたまには他のゲームがやりたくなってこのゲームを少しだけ休憩する事もありますが、気がついたらこのゲームに戻ってきている帰ってくる場所。つまり――――」


「あ~、もう解った解った。それより桜、エリアは大丈夫なの?」

「―――――コホン。そうでした。では話はひとまずここで終わっておいて、ブレマジの素晴らしさについてはまた後日にでも――」

「え、えんりょしとく」

「そうですか? では、忍さんが聞きたくなったらいつでも言ってください。それではセーフエリアまで移動しましょう。――――と、その前に」


 私は再びメニュー画面を開いて、そこから全体マップを選んで私達の手前に表示しました。

 そして私はマップの一部を指でタッチすると、その場所にマーカが設置されてその場所までのルートが赤い線でつながりました。


「途中までは比較的安全だと思うのでオートモードで向かいましょう。マーカーの場所までは自動で進んでくれますから、忍さんメニューからオートモードを選んでください」

「もぅ。そんな便利なのがあったら最初っから教えなさいよ」

「忍さん、あくまで途中まではです。セーフエリア付近はみんな集まってくるので、そこからは自分で操作をしないとただの的になってしまいます」

「それもそっか。じゃあそれでいいわよ。あ~あ、楽が出来ると思ったのにざ~んねん」


「忍さん。何事も楽に行ったら苦労はしません。本来は馬での移動はオートモードに頼らずに全て手動で行くのがいいと――――」

「それもガイドブックに書いてあったわけ?」

「むぅ。先に言わないで欲しいのですが」


 私達はひとまず馬に乗りながらオートモードを使ってセーフエリアの少し前の場所まで向かう事にしました。


 ――――そして少し経ち。

 私達は火の神殿の前にある森の中を、整備された道から少し外れた脇道を馬に乗って走っていました。

 けれど、なんだか忍さんは馬の上で少しだけ不安そうな顔をしています。



「うぅ。……ねえ桜? この馬って樹にぶつかったりしない?」

「その為のオート移動です。馬が全て自動で障害物を避けて移動してくれるのでそんなに心配しなくても大丈夫です」

「本当? なんだかスピードも出てるし少し怖いんだけど――――」

「まあ普通に走るよりかなり早いですからね。ここは景色でも見ながらのんびりと目的地につくまでまったりするのがいいと思います」

「……景色って言われても、ここには樹しか無いんですけど?」


 周りにあるのは木、樹、木、樹。

 と、ここは樹以外の物は存在しないと思えるくらいの森です。

 

「では樹の数を数えながら向かいましょう」

「……ここはいつからシベリアになったのよ!」

「むぅ、やはり雪が無いのでシベリアにはなれませんか」

「雪があっても違うでしょうが!」


 私は馬に乗りながらまったりと樹の本数を数えていると、突然頬に何か冷たい物が触れました。

 手で頬を触ってみると、何やら冷たい水滴が私の指を伝って下の方へとピチャンと滴り落ちて行きました。

 これは雪? …………でしょうか?


「ほら忍さん。やっぱり雪が降っているのでここはシベリアで間違い無さそうです」

「あ~、はいはい。桜がそれでいいならそれでいいわよ」

「むぅ、忍さんノリが悪いです…………それにしても何で急に雪が降ってきたのでしょうか?」

「さあ? 私に聞かれてもわかんないんだけど」

「雪……雪…………あっ?! 忍さん、ちょっと止まって下さい!」

「止まる? 止まるってどうやって?」

「メニューを開いてオートモードの場所をタッチするだけでいいです。とにかく早くっ!」

「う、うん。分かった

 私達は急いでオートモードを停止して、馬をその場に留まらせながらメニュー画面から全体マップを開きました。


「忍さん。ちょっとこれを見て下さい」

「マップ? マーカーの場所に行くんじゃなかったの? ――――って何か私達のいる周辺の色がちょっと違うわね?」

「これは誰かが天候魔法を使った時に表示される物です」

「てん――こう――?」



「名前の通りマップの一部の天気を一時的に変える魔法ですね。天候と同じ属性を持つ魔法の威力を上げる――――つまり、日照りにしたら炎魔法の威力が上がるみたいな感じですね」

「えっと、それで雪はどうなるの?」

「もうすぐ吹雪になるので寒さにより継続ダメージを少しづつ受けてしまいます。そして氷属性の魔法の威力がアップします」



「継続ダメージ?」

「少しづつHPにダメージを受けていくと思って下さい。そして今の私達に一番厳しいのは炎魔法の威力が下がってしまう事です」

「炎魔法の威力が下がる? ――――――えっ!? それって」

「はい。炎魔法を使う忍さんには致命的な天候です。おそらくこの魔法を使った人たちは火の神殿で炎魔法が使えるようになって出てきた人を狙い撃ちしようとしているみたいですね」



「どうするの桜? 大ピンチじゃない!?」

「忍さん、落ち着いて下さい。まだ見つかった訳では無いので慎重に行動すれば見つからずにやり過ごす事が出来ると思います。まずは馬だと音が周りに響くのでここからは徒歩で行きましょう」



「えっと、馬で早く逃げた方が良くない?」

「それも1つの手なのですが相手も馬に乗っている可能性もあるので、ここはなるべく音を出さずに逃げるのを選びましょう。幸いまだエリアが来るまでには結構余裕があるみたいなので」

「りょーかい、桜がそれでいいならいいよ。――えっと、どうやって馬から降りるんだっけ?」

「メニューから下乗を選んで下さい」

「えっと――――これね?」


 忍さんがメニューを開いて下乗を選ぶと馬が光に包まれながら消えていき、忍さんが地面に着地しました。


「あれ? 馬はどこに行ったの?」

「最初にいた馬小屋にワープして帰っていきました。――――それでは、私も」


 私も続いて馬から降りると、私のブルーノも馬小屋へと帰って行きました。


「それでは忍さん行きましょう」

「う~ん。本当に気づかれないかなぁ」

「大丈夫です」


 私は地面を靴でトントンと叩いて忍さんに足音を聞かせました。


「ほらっ、地面が土なのでさっきまでいた神殿よりも足音が響きません」

「おぉ~。これなら見つからずに逃げられそうね」

「はい。ただ偶然ばったりと誰かに会ってしまう可能性もあるので、一応周りの警戒も忘れないようにしておきましょう」

「それもそうね」

「――では、私は近くを警戒するので、忍さんは遠くの方を見ておいてください」

「オッケー。警戒は私にまっかっせなさ~い」


 それから私達はしばらく警戒しながら雪が降る森の中を進んでいったのですが、私達の警戒も虚しく誰とも出会わずに雪が降っているエリアを抜けられそうな位置までやってきました。


「ちょっと吹雪が激しくなってきたので、継続ダメージが痛くなってきましたね」

「う~ん。体力もつかな~」

「仕方ありません。ちょっと勿体無いですがリジェネポーションを使ってこちらも自動回復の効果を得ましょう。吹雪のダメージより回復の方がちょっとだけ高いので継続ダメージでやられる事は無くなります」


「こっちは残り2個あるけど、桜は何個残ってる?」

「えっと――――私も2個ですね。吹雪対策に1つ使っても戦闘に1つ残せるので特に問題は無いと思います」

「分かった、じゃあ早速使おっか」


 私達はアイテム欄からリジェネポーションを選択すると手の中にポッと青い液体の入ったビンが出てきたので、ビンの蓋を開けてごくごくと飲み干すと体力が少しつづ回復していくようになりました。


「うへ~。なんかあんまり美味しくな~い」

「ポーションですからあまり味は期待しない方がいいかと」

「けど桜はあんまり顔に出してないけど、この味が好きだったりするの?」

「私はさっき拾ったハチミツを組み合わせてハニーリジェネポーションにしたので甘くて美味しかったです」



「ちょ、ちょっと! そんなのが作れるなら先に言いなさいよね!」

「すみません。複数あれば良かったのですが、あいにく今は1つしか手持ちになくて…………。次に見つけた時は忍さんにあげますので今回は我慢してください」

「うぅ。まあそういう事なら許してあげるけど、次からはちゃんと言ってよね?」

「言ってもハチミツはあげませんでしたよ?」



「――――う。こ、こういうのは誠意が大事なのよ! 誠意が!」

「誠意ですか? …………あっ!? あんな所に誠意がありました!?」


 私は忍さんに「ほらっあそこです!」と指をさして教えると、そこにはチョンマゲに真っ黒の着物を着て右手にしゃもじを持った人物が立っていました。


「ふぉっふぉっふぉっ。余の事を呼んだかの?」

「……えっと、なにあれ?」

「――征夷大将軍です!!」

「ちがーーーーう! 誰もあんたなんて呼んでなーーーい!」

「すみません征夷大将軍さん。忍さんがこう言っているので一旦帰ってもらえますか?」

「――ふむ、まったく仕方ないのう」


 せっかく出番を待っていたのにすぐに出番が終わってしまった征夷大将軍さんは残念そうにトボトボと戻っていきました。 


「――――仕方ありません。取っておきなののですがコレをどうぞ」 


 私は懐から巻物を出して地面に置くと、巻物から聖なるオーラが放たれて魔物が入れなくなりました。 


「それでは乗って下さい」

「――なにこれ?」

「聖域です。これは結構レアアイテムなので――――って、ああっ!?」 


 忍さんは怒りに任せて巻物を2つに引き裂いてしまいました。

 せっかくのレアアイテムだったのに勿体無いです。 



「ちがーーーーう! それより何よ聖域って!」

「――魔物に攻撃されなくなります」

「魔物なんてどこにもいないでしょ!」

「むぅ、コレもダメですか」 


 仕方がありません。また偶然にもちょうどいい人がいましたのでこれで最後にしましょう。


「忍さん。今度こそ誠意を見せます!」 


 私は少し遠くの木の陰を指差すと、そこには右目に眼帯をした征夷大将軍さんの別カラーの人物がいました。


「なんじゃ? 今度はマロに用でおじゃるか?」

「忍さん。征夷副将軍人です。副将軍は大将軍の次に偉い人です」

「……あ~。もう桜の誠意は分かったから先に進むわよ」

「せっかく見つけたのですが、――まあ忍さんがそれでいいならここは進みましょうか」


 私達は雪の降る中を更に進んでいくと遂に吹雪になってしまい、森の木々がざわざわと風に吹かれて揺れていました。

 そして地面も雪に完全に覆われてしまい、足を進める毎にズボズボと雪に足が沈んでしまうようになって、かなり歩き辛いです。



「忍さん。吹雪が強くなってきたので継続ダメージが少し多くなりましたが、まだ大丈夫ですか?」

「うん。こっちはまだなんとか平気」

「あと少しで抜けられると思うので頑張りましょう」

「だねっ。――それより桜? 雪もかなり積もってきたし、かなり歩き辛くない?」

「そうですね。けど、風の音で足音がほとんど聞こえなくなっているので、もう誰にも見つからずに行けると思いま―――――」 



 ――――あれ?

 何か重要な事を忘れているような―――――。

 確かに吹雪は音で足音を消してくれます。

 けど、ガイドブックに何か1つ注意事項が書いてあったような気が――――。

 そう、あれは確か――――。


「――――あっ!?」

「ん? 桜、どうかした?」

「忍さん。少し隠れて様子をみま――――くっ!?」



 何かが飛んでくるのを察知した私はソレを剣で横に振り払うと、弾かれた物がくるくると回りながら私達の近くに生えている木の1つにザクッと突き刺さりました。

 そして、忍さんは木に刺さった物を手にとって確かめると、少しだけ驚いた顔をしました。


「これは――――しゃもじ? けど桜、何で私達の場所が敵に見つかっちゃったの!?」

「忍さん。足跡です」

「足跡――――って、ああ~っ!?」


 私達が振り向くと、私達の歩いてきた道には雪に刻まれた足跡がくっきりと残っていて、まるで私達の場所へと導く道標の様になっていました。


「吹雪では足音はほぼ聴こえません。けど雪で足跡が残ってしまうのでした――――」

「な、なによそれ!?」

「このゲームでは尾行抑止の為に基本的には足跡はつかないのですが、一部例外があってその例外の1つに雪が積もっている場合があるのですが――――すみません、ゲームの仕様を忘れていました」


「こうなったら仕方ない。桜撃退するわよ!」

「そうですね。攻撃された方向を考えると―――――あっ!? 忍さん私達が歩いてきた後ろの方に誰かいます!」

「私達の足跡を追いかけて来たってわけね。――――え~っと、どれどれ――――あ、あれはっ!?」


 私達の後方に見えた人影、白い雪が降り積もる中でよりいっそう目立っている真っ黒な服を着たその人物は――――――。


「ふぉっふぉっふぉっ。余じゃ!」

「って、大将軍!?」

「……忍さん。誠意が足りてませんよ?」

「ええい。そのネタはもういいでしょ! それに字も違うし! そんな事より、アレもプレイヤーだったの!?」

「――――まあ、基本的にこの世界にいる人物は誰かが操作していますのでそうなりますね」

「大体何でしゃもじなのよ。普通持ってるのは笏(しゃく)でしょうが!」

「その、なんとなく似ているからいいのではないでしょうか?」

「全く癪に障る奴よのう」



「だああああ。特に上手くない所もムカッとくるーーー」

「忍さん落ち着いて下さい。相手のペースに飲まれてしまったらダメです」

「それにしゃもじも投げたりする物じゃないでしょ!」

「ちなみに投げるだけじゃなくて叩いて攻撃する事も出来ます」

「そんな事するくらいなら、ご飯でもよそいなさいよ!」



「――――忍さん」

「な、何よ?」

「征夷大将軍のクラスにはちゃんとしゃもじでご飯を食べるスキルもあるので安心してください」

「うがああああああああ」

「し、忍さん落ち着いてください」


 私は今にも突撃して行きそうな忍さんを後ろから羽交い締めにするようにして押さえつけると、忍さんは私の手の中で少しだけジタバタもがいた後に何とか平静を取り戻してくれました。


「――――ふぅ。――――桜、落ち着いたからもう離してもいいわよ」


 私は忍さんを開放すると、私達はひとまず木の陰に隠れながら相手の次の攻撃に備える事にしました。


「…………で、これからどうするわけ?」

「――――そうですね」


 吹雪の継続ダメージが増えたのでリジェネポーションの自然回復をダメージが上回ってしまったので一刻も早くこの場所を抜けないと厳しいです。

 しかし手持ちの回復アイテムも心もとないので、大将軍さん達をやっつけて物資を手に入れる事もありだとは思うのですが――――。

 えっと、そうですね、ここは――――。


「忍さん、ここは安定を取って逃げましょう」

「えっ!? 逃げるって、後ろから追撃されたりしないの?」

「それは多分大丈夫だと思います。なぜなら――――」


 私は大将軍さんを指差しながら言い放ちました。


「あの服では動きづらいので、あまり早く走れないからです!」

「な……なんですって~~~~~!? ――――って、それ本当なの?」

「はい。速度のパラメーターはそんなに高くないクラスなので忍さんより遅いと思います」

「そうなんだ。…………それより桜。私より遅いって何よ!」

「すみません、間違えました。――えっと、魔法使いのクラスよりも走る速度が遅いので追いつかれる事はないと思います」




「でも後ろから攻撃されたらどうするの? 狙い撃ちされたら厳しくない?」

「――――それは大丈夫です」


 私は再び飛来してきたしゃもじを今度は避けずにあえて当たって見せると、ライフゲージがほんの少し1ミリだけ減少しました。


「――――しゃもじは当たっても誤差レベルのダメージなので」

「……そ、そうなんだ」


 私はマップを開いて逃走ルートを作って忍さんのマップに送信しました。


「このルートで行きましょう。――忍さん、準備はいいですか?」

「いつでもオッケー!」

「それでは――――逃げましょう!」


 私達は一目散に逃げ出すと後ろから大将軍さんの声が聞こえてきました。


「な……ま、待つでおじゃる!」

「ふっふ~。誰か待つもんですかって」

「…………忍さん、後ろを向いて走ると木にぶつかってしまいますよ?」

「木にぶつかるとか、そんな人いるわけ無いで―――――ぐふっ」


 ――――やっぱりと言うか、忍さんは木にぶつかってしまい少ダメージを受けてしまいました。


「あの、忍さん。お約束もいいのですが出来れば余計なダメージは控えて欲しいのですが…………」

「こ、これくらい誤差よ誤差! それよりアイツ1人だったけど、もう1人はどこかにいるのかな?」

「ああ、それなら大丈夫です。あの人の少しだけ後ろを見て下さい」

「――――後ろ? ―――――あ、誰か倒れてる」


 大将軍さんの後ろにはよく似た装備を持った人物が倒れていました。

 しばらくして光に包まれながら消えていったので、ちょうど体力が無くなってしまったのだと思います。


「副将軍のクラスの人です」

「って、アレもプレイヤーだったのね……」

「副将軍は大将軍より能力が全体的に低めに設定されているので早くライフが尽きてしまったようですね。――――それにしてもあの2つのクラスは両方ともレアアイテムを見つける事が出来ないとなれないのですが、珍しい事もあるものです」

「う~ん。私はレアアイテムが手に入ってもあのクラスにはなりたくないかも」


 ――それから私達は必死になって走り続けて、なんとかギリギリで吹雪エリアから脱出する事が出来ました。

 体力も残り僅かだったので回復アイテムを使って体力を回復させながら現在の状況を確認する事にします。


「どうやらエリア改変魔法を使った人たちとは会わずにすんだみたいですね」

「……変なのには会ったけどね」

 

 私はマップから残りの人数を確認する事にしました。

 

「――――えっと、残り人数は20人みたいです。ペース的には普通くらいでしょうか」

「ここまで来たら出来れば一番になりたいわね」

「そうですね。。回復アイテムが厳しいので次に誰かに会ったら逃げずに全力で向かって行きましょう。流石に今のままだと最後のチームと直接対決になった時にアイテムの差でやられてしまいそうなので、後1,2回は戦う事になるとは思いますが――」

「おっけ~。それじゃあ残りも頑張ろ~」

「では次に向かうのは――――」


 現在私達がいる地点は途中で予期せぬチームに出会ってしまったので少しだけ予定していた場所からずれてしまいました。

 残りは私達を除いて恐らく9か10チームだと思うので、激戦区は避けつつ遠距離からの狙撃にも対応出来そうな場所は――――。


「――――ここです!」


 セーフエリアギリギリのラインに一軒だけの小さな小屋があったので、ひとまずその場所へ向かう事にします。

 運が良ければ小屋の中に回復アイテムが落ちている可能性もあるので、もしあったら終了ギリギリまで小屋に隠れる事も出来るので今の私達が向かう場所としては最適ですね。


「あれ? ここだとちょっと遠くない?」

「近くにある大きめの建物に行ってもいいのですが、終盤の大きな建物は他のチームも沢山集まってくると思うので、なるべく人の来なそうな小さい小屋へいくのが生き残る為の秘訣だ――――とガイドブックに書いてあったので間違いないと思います」

「いいアイテム残ってるかな?」

「小屋にアイテムが無かったら、そこのもう少し先にも別の小屋があるのでそこに行きましょう」

「りょーかい。――――あっ!? 急がないとエリアがやばいかも」


 私は忍さんに言われてマップを確認すると、ダメージエリアがかなり近付いてきていたので急いでセーフエリアに向かわないと危なそうです。


「忍さん急ぎましょう!」


 私達は小屋へ向かって走り出しました。

 途中で3階建ての建物が4、5軒並んでいる場所がありましたが、そこからは誰かが戦っていると思われる大きな爆発音と家の中から煙が上空へと立ち上っていたので、すでに何チームかで戦っているみたいです。


「やっぱり集まってきてるようですね」

「けどあそこで勝ち残れたらアイテムがいっぱい手に入りそうじゃない?」

「確かにそうなのですが、今回のゲームランクはノービスなのであまりアイテムを手に入れても最上級職にはなれませんよ?」

「――――えっ!? なにそれ?」 


 忍さんはそんなの聞いてないと言った顔をして驚きました。

 一応エントリーする時に説明が出ていたはずなのですが。


「まったく。ゲームを始める時に確認しなかったんですか?」

「あ~、えっと、ゲームが始まるのが楽しみでよく見てなかったかも」

「今の私達は初心者向けのランク帯でゲームをしているので、今回私達がなれるのは中級クラスまでです。その代りクラス差があまり出なくて初級クラスでも1番を取れる可能性がある為、スキルなどの使い方がよくわからなくても最後まで戦う事が出来るランクですね」


「それじゃあ派手な魔法とかって使えないの?」

「火の石をあと2つ手に入れる事が出来たらロードフレアが使えるのですが、今回は後1個手に入ったらいい方だと思うので今回は諦めてください」

「ええ~っ!? せっかくやる気マックスだったのに~」

「なので今回は攻撃より回復アイテムをメインに探しましょう。素材アイテムを沢山集めても宝の持ち腐れになります」


 ……まあ中級クラスにも一応、素材アイテムを沢山集める事によって真価を発揮するクラスがあるのですが、あのクラスを使う人なんてまずいないでしょうし今は気にする必要は無いでしょうね。

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