バトロワ編 その6


 戦闘をした場合その時に使った魔法や剣で攻撃する音が周辺に響き渡るので、早くここから逃げないと私達が戦っていた時の音を聞きつけた他のチームがここにやってくる可能性があります。

 ですので一刻も早く場所を移動しないといけないのですが、まずはその前に…………。



「とりあえずやっつけた人達のアイテムを回収しましょうか」

「だね~」


 私達が倒した相手の人たちは体力ゲージが無くなった瞬間に光に包まれながら消えていき、その場には宝箱が2つ出現していました。

 このゲームでは血が出たり怪我をしたりはせず、体力ゲージが0になった瞬間、謎の光に包まれて自分の所属する国に離脱するといった設定になっているので、バイオレンスは表現はかなり少なめのゲームとなっていて、血を見るのが苦手な私みたいな人でも気軽に始める事ができるVRゲームなのです。


 ですのでゲームの対象年齢は全年齢となっていて、これもプレイ人口が多い1つの要因となっているのです。

 子供でも大人でも気軽に楽しめる大人気ゲームのブレマジを皆さんも是非、是非、是非に始めてはいかがでしょうか。


 っと、説明よりもまずは戦利品の確認をしませんと―――――。

 私達はお互いに別々の宝箱を開いて中を確認する事にします。


 私は中にはいっているアイテムのリストを上から順番に見ていったのですが…………。


「…………微妙です」


 倒した人は特にこれと言ったアイテムは持っていなくて、弓矢も矢のストックが殆ど残っていなかったので弓使いになる場合は矢を集めないといけません。

 ちなみに矢を集める方法は素材を使ってのクラフトで作るかマップ上に落ちている物を拾うのが一般的な入手方法になっています。

 なので連戦の可能性を考えると武器を弓に変えるのは得策では無いかもしれません。


 ひとまず装備を修理する素材をもらって壊れてしまった盾を修復しておいた方がよさそうです。


「桜~。何かいいのあった~?」

「素材と回復アイテムが少々といった感じです」

「そっか。こっちも似た感じかな~」

「では、回収が終わったら早く移動しましょう。早くしないと―――――っと早速誰か来たみたいです」

「えっ!? どこ?」


 忍さんは目の当たりに手を水平に当てて、どこだろ? といった感じでキョロキョロと辺りを見回し始めました。


「足音はしなかったので、すぐ近くでは無くてあそこです」

「あそこ? あ~、結構遠いね」


 私達の少し先でこちらに向かっている人影が2つありました。

 恐らく好戦的なチームの人が戦闘の音を聞いてやってきたんだと思います。

 このゲームでは臆病な方が上の順位を取れる確率が高いので、私は好戦的なのはあまり良くないと思っています。


「ともかく位置がばれてしまったので、この場所からスタコラサッサしましょう」

「あれ? 逃げるの?」


 …………ここにも好戦的な人がいました。


「避けられる戦闘はなるべく避けた方が生存率はあがりますのでここは逃げましょう。それにわざわざ正面から戦う必要もないでしょうし」

「そっか。まあさっき戦ったばかりだしね」

「ではそこの階段から神殿内部に入って1階を目指しましょう」

「りょ~かい」

 

 私達は屋上から下り階段を使って下を目指す事にしました。

 下に隠れている人を警戒しながらアイテムを見つけたら回収するのは少しだけ怖いのですが、今はそれをやるしかありません。

 それに多分後ろからは先程私達に向かってきたチームの人達が追いかけて来ていると思うので、少し急いで降りていかないと。


 ――――私達は周囲に誰かいないか気を張り巡らせながらコツコツと石で出来た階段を下っていくと降りた先には誰もいない長い通路が広がっていました。

 パッと見た感じでは隠れられそうな場所は見当たらなかったので、たぶん誰も隠れてはいないと思います。


 通路の左右にはいくつかの扉があってそこを開けるとアイテムの落ちている部屋があるのですが、全てしまっているのでもし誰かが入っていたとしても扉をあける音ですぐに分かるので不意打ちされる可能性はかなり低いと思います。


「誰も――――いない?」

「遠くで戦っている音はするのでこの階には何人かいると思います。誰かに見つかる前に早く次の階段の場所に急ぎましょう」

「う~ん。けどせっかく神殿に来たんだし、もうちょっとアイテムを探してみない?」


 確かに神殿はアイテムが沢山落ちていて、その分良いアイテムが手に入る確率は高いのでアイテムを探すのも1つの手ではあるのですが――――。


「そうですね。今後の事を考えると、もうちょっと装備を強くしておいた方がいいかもしれません」

「んじゃ、まずはすぐそこの部屋を探してみよっか?」

「はい。軽く部屋を周ってみましょう。確かアイテムが落ちている部屋がこっちにあったはずなので、ついて来てください」

「オッケー」


 私達はに並んでいる部屋の1つに入る事にして一応誰かが待ち構えている可能性を考えて警戒しながらゆっくりと歩いて近づいていく事にします。

 部屋の扉の前に辿り着いた私は忍さんと呼吸を合わせて木の扉を開いて一気に中へと入っていきました。


 ――――けれど中には誰もいなくて、アイテムも何1つとして落ちてはいませんでした。






「――――おや? アイテムが落ちていると思ったのですが…………ハズレみたいですね」

「う~ん、残念。桜、次いこ、次」

「そうですね」


 …………妙です

 確かこの部屋にはアイテムが落ちてるとガイドブックに書いてあったと思ったのですが、誰かに先を越されてしまったのでしょうか?


 その割にはこの辺りに人がいた形成がありませんし、ガイドブックの記入ミスでしょうか?

 あの本にミスがあるとはあまり考えたくは無いのですが、実際にアイテムは落ちていなかったので謎は深まるばかりです。


 ――――しかし、迷宮入りするかと思われた謎だったのですが、その謎はすぐ直後に判明する事になったのでした。

 私が部屋から出ようと扉に向かおうとした瞬間、少し違和感に気付いて足を止める事にして周囲を見回す事にしました。


「あれ? 何もないから出るんじゃなかったの?」

「……………………そこです!」


 私は先程の戦いで手に入れた戦利品の1つである石ころをアイテムストックから取り出して手に持ち、おおおきく振りかぶって野球選手のようなオーバースローで渾身のストレートを何もない壁に向かって投げつけると、私の投げた150キロオーバーの速球は――――っと流石にちょっと大げさでした。


 …………コホン。


 えっと、私の投げたおそらく90キロくらいの速度の石は石壁に当たったにもかかわらずカンとまるで何か金属に当たったかのような音を出して壁から跳ね返りコロコロと床を転がっていきました。


「ククク。よく分かったな」


 壁の模様が少しゆらめいたかと思うと、そこから全身真っ黒な服に身を包んだ忍者が現れてきました。

 服の下には鎖帷子が見えたので恐らく音の正体はこれだと思います。

 そこそこ防御力にすぐれていて、なおかつ素早さもあがる、なかなか強い装備の1つでもあります。


 忍者の人は背中に帯刀していた忍刀を抜くと私達に向かって刀を構えて向き合って、斬りかかろうとしてきましたので私も武器を構えて応戦する事にします。


「上忍クラスになると判別はかなり難しいですが中忍なら慣れていれば何とか隠れているのを見破る事が出来ますから」


 ちなみに下忍クラスだと風呂敷で隠れる事しか出来ないので、かなりバレバレな感じになっています。

 ただ暗い場所だと案外気付かなかったりする事もあるので結構厄介だったりもします。

 誰もいないと踏んで歩いていたら急に出てきた下忍に何度後ろを取られてやられてしまった事か――――。


 今思い出しただけでも汚い、やっぱり忍者は汚いです。

 ちなみにどうして私が隠れている所にいきなり斬りかからないで小石を投げて確認したかと言うと、忍者は罠を仕掛けている場合があって迂闊に攻撃してしまうと罠に引っかかり毒などの状態異常や大ダメージを受けてしまうのでまずは牽制するのが基本となっています。


 中忍以上になると結構見破るのが難しいのですが、私は公式ガイドにあった忍者が隠れている場所を探す間違い探しを何度もやっているので見破る事にはかなり自信があるのです!


 忍者の見破り方がわかりたい人は今すぐ五千円を持って本屋さんに走りましょう。

 恐らく大半の本屋さんにはブレマジ公式ガイドが何十冊も山積みになっているはずなので好きなだけ買う事ができます!


 ――――さて。

 忍者は潜伏も強いスキルの1つなのですが、持っている忍具にも注意しないといけません。

 厄介なのは毒や遠距離攻撃の手裏剣、後は目くらましなどでしょうか。

 ここは火の神殿なので、相手の人が火の石を手に入れていた場合は火遁(かとん)の術を使われる事にも注意しないといけませんね――――。


 とりあえず相手の攻撃を受け止めてから忍さんにサポートしてもらいながら戦うのがよさすです。

 私はこれから相手が繰り出す攻撃に集中するのでした。

 ………………。


「―――――おや?」


 何かおかしいです。

 臨戦態勢に入ったというのに相手は武器を構えたままで全く攻撃を仕掛けてくる素振りを見せてきません。

 まるで私達を自分に引きつけておいて何かが起きるのを待っているような―――――。


 そう言えば、この人は1人の様ですがもう1人の仲間はどこにいっているのでしょうか…………。


「桜後ろッ!」 

「……忍さん。今考えごとをしているので急に話しかけないでくだ…………っとと!?」



 私は後ろにいる忍さんの声に振り向くと、そこには真っ黒な姿の人物が私に向かって剣で斬りかかろうと走って来ていました。

 私はなんとか攻撃が命中するギリギリで盾を構えて攻撃を防ぐと運良くジャストガードが決まってしまった様で、盾がキンッと白く光るエフェクトを発した後に相手の武器を大きく弾き返したので私はそのまま構えでいる盾を相手に叩きつけるいわゆるシールドバッシュを行い、ひとまず距離を離す事に成功しました。


 ――――このゲームの近接武器を使うクラスでは相手の飛び道具に攻撃を当てて弾く以外にシールドで防ぐ事も出来るのですが、相手の攻撃が当たる直前のわずか数秒で盾を構えるとジャストガードというのが発生して相手の武器を少しだけ弾く事が出来てこっちが少しだけ状況的に有利になるシステムがあります。

 

 ――――だだし。

 剣で反撃を与える事が出来るくらいのスキは発生しない為、バックステップをして距離を離すかシールドバッシュで相手を弾き飛ばすくらいしか使いみちは無いのですが、まあ突然奇襲で襲われた時に少しだけ状況を整理する時間が稼げるくらいに思っていた方がいいですね。

 あまり狙いすぎて防御が遅れると直撃を受けてしまいますし。


「――――なるほど、後ろからの不意打ちを狙っていたわけですか」


 私が背中を向けた瞬間、忍者の人も同時に斬りかかって来ていたようですが、忍さんがファイアーボールを使って足止めをしてくれていたみたいでなんとか前後から同時に攻撃される事にならなかったようです。


「もうっ。周りにはちゃんと注意しときなさいよね!」

「すみません忍さん。まさか後ろに隠れていたとは思いませんでした」


 相手の不意打ちはなんとか防ぐ事が出来ましたが、挟み撃ちにされている事には変わりがないのでかなりピンチな状況は変わってはいません。

 部屋の奥には忍者の人。

 そして入り口の方には――――。


 そういえば、急の出来事でもう1人の人のクラスをまだ確認していなかったですね。

 横目で忍さんを見てみると、なんだか少し困惑している様でした。

 序盤にそんなに強いクラスになっている人はいないと思うのですが何があったのでしょうか?

 私は入り口側にいる人のクラスを確認する為に振り向き相手を見ると、私も忍さんと同じように困惑してしまいました。


 なぜならそこには全身真っ黒な人物が立っていたからです。

 全身黒い服に身を包んだ忍者の人と違い、こっちの人は目の部分以外が全て真っ黒だったのです。

 まるで黒い全身タイツを体に纏っているようなこの人からは、これから何か事件を起こしそうな、そんな怖さが伝わってきました。


「ねえ桜。このクラスって――――――何?」

「えっと、これは――――」



 こんなクラスなんてあったでしょうか。

 全身真っ黒で何をするのか解らないクラス――――。

 そう言えばレアクラスの一覧に何かあった記憶が――――。


「あっ!?」

「なにか思い出した?」

「はい。この人は犯人です」

「…………は? 何の犯人?」

「いえ、ですから犯人のクラスです」

「な、何よそれ?」


「犯人――――それは全身黒タイツに身を包んだ特殊なクラスです」

「そんなの見れば解るわよ!」

「――忍さん。説明の途中で話を折らないでください」

「いいから、続きを早く!」

「――まったく」


 ふぅ、とため息をついた私は説明を続ける事にしました。


「特技は物陰に潜んで相手をやっつける事です」

「――ふ~ん。って、あれ? それって忍者と変わらなくない?」

「微妙に違います。――犯人の能力は犯行に及ぶまで――――つまり武器を構えるまで姿が見えないのです」 

「ええっ!? それってかなりズルくない?」

「――はい。とてもずるい―――――と見せかけて実はそこまでズルくは無いです」

「何で? 見えないとかずるいじゃない!」


 ――やれやれ。

 まったく忍さんは最後まで話を聞かないのですから。


「なに? その「やれやれ忍さんは?」 って顔?」

「すみません。顔にでてしまったようです」

「まったく、失礼しちゃうわね」

「では次からは顔に出さないようにやれやれと思いますので安心してください」

「思うこと自体禁止!」


 やれやれ、まったく忍さんはワガママな人ですね。


「――それで、なんでズルくないわけ?」


 どうやら今回は顔に出さない事に成功したみたいです。


「犯人の能力は自分が犯人だとバレていない事が前提。つまり自分が犯人だとバレてしまった瞬間、あの人の誰からも見つからない能力は無くなり、ただの全身黒タイツの人になってしまうのです」

「そうなんだ。――――そういえばさっきから犯人さん達は黙って私達が会話してるのを待っててくれてるんだけど何でなんだろ?」

「忍さん。犯人は探偵が喋っている時に攻撃するのはタブーなのです。ですので攻撃されないのは基本中の基本なので覚えていてください」

「――――桜って探偵じゃないよね?」

「忍さん。無粋な事は言わないで欲しいのですが――――」


 なにわともあれ私達の会話が終わった瞬間に相手の人たちが襲いかかってきました。

 私は部屋の奥の方に振り返って忍さんに指示を出します。

 

「私は忍者の人を相手にするので、忍さんは犯人さんをお願いします」

「オッケー、桜」


 狭い場所での戦いは近接がメインになるので流石に忍者と正面から魔法職の忍さんが戦う訳にもいかないですしここは戦士の私が相手をするのがセオリーですね。

 犯人は戦いの素人という設定からかあまり強い武器も装備出来ませんから魔法職の近接でも、そこそこには戦えるでしょうし。 

 私は忍刀で斬りかかってきた忍者さんの刀を剣で受け止めるとキンという音と共に剣から軽い火花が飛び散って、重厚な衝撃が私の体を突き抜けました

 ――――けれど、


「これならっ!」


 私は力任せに剣を押し付けると忍者さんは押し負けると思ったのか、軽く後ろに飛んで距離を開けました。

 どうやら忍者は隠密行動と近接が強いのですが、近接専門の戦士に正面から挑むのは少し分が悪いみたいです。

 けれどこちらも迂闊に近づいたら忍具で状態異常を受けるかもしれしれないのでここは身長にせめないといけません。


 ――――とりあえず今の私達の取れる行動は2つ。

 このチームをやっつけるか、扉を開けてここから逃げるかです。


 ――そう。

 なぜだか蹴り飛ばして入ってきたはずの扉がいつの間にか閉じてしまっているので、扉を開けてでなければなりません。

 まあ、扉を閉めた犯人は犯人の人だと思うのですが――――って何を言っているのかこんがらがってきました――――。


 ここは軽く深呼吸をして気持ちを落ち着けないと。

 すーはー、すーはー。


 ――――ふぅ。少しだけ落ち着く事が出来ました。

 ともかくこの扉をあけるというのが曲者で、まず扉を開けるアクションをしている間は背中が無防備になってしまう為その間に攻撃を受けてしまいます。

 入る時は押して入るタイプだったので蹴って一気に開ける事が出来たのですが、出る時は引いて開けるのでそうもいきません。


 入る時と比べてワンテンポ遅れてしまう動作。

 時間にしたら数秒の事なのですが、その数秒は相手に攻撃の隙を与えるには十分な長さになってしまうのです。

 何かの弾みで扉が開いてくれたらいいのですが、ここはゲームの世界なのでそんな都合のいい事は起こるはずもなく――――こんな事なら誰かが扉を壊してくれないでしょうか。

 

 ――――それともう1つ心配事があって、それは忍者さんが扉に罠を仕掛けている事です。

 つまり開けるのに時間がかかるとかかからないでは無く、ドアノブに手を触れた瞬間に罠が発動してダメージを受けてしまう可能性があるので迂闊に触るのも危ないのです。


 ――――ですが危なそうならある程度のダメージは覚悟して強行する事も考えておいた方がいいかもしれませんね。


 ―――――とりあえず、

 今は数で有利になる為にも一刻も早く目の前の忍者さんをやっつける!

 戦闘不能にしてしまえば仕掛けた罠も全て解除されるので、これが今取れる中で一番確実な行動だと思います。


 私は剣を構えて再び相手に突撃して―――――、


「ファイアーウォール!」


 ――――行こうかと思ったら、忍さんの声と同時に後ろからゴウゴウと炎が燃えているような音がしたので足を止めて振り返ると、燃え盛る火の壁が部屋の扉を塞ぐようにそびえ立っていました。


「――し、忍さん。いったい何を!?」

「あちゃー。ごめん桜、避けられちゃった」


 どうやら忍さんの放った魔法は相手に避けられてしまったみたいです。

 ただ、避けられただけなら良かったのですが――――問題はその場所。

 相手をやっつける為に放たれた魔法はまるで私達がこの部屋から出るのを通せんぼしているかのように、ちょうど出入り口の部分に蓋をしてしまいました。


「そんな事よりこれでは部屋から出られないのですが――――どうしましょう」

「ならやっつけちゃえばいいじゃん!」


 ――――これは困ったことになりました。

 ファイアーウォール自体は数秒で消えるのですがそれまでの間は逃げるという選択肢が選べなくなったので、もう何が何でも全力でやっつけるしかありません!


「――――ッ!?」


 私は突然飛んできた2つのクナイをなんとか剣で叩き落として、クナイを投げてきた忍者さんへと向き合います。


「――――むぅ。普通はよそ見をしてて良いのか? って言ってから攻撃するのに無言で攻撃してくるなんてやっぱり忍者さんは汚いです」

「ククク、俺は忍者だからな」


 ――――それにしても、やっぱり飛び道具も隠し持っていたようですね。

 けれど、ここは室内で距離を取る事は難しいと思うので飛び道具はそこまで驚異にはならない事が救いでしょうか。


「――これ以上、撃たせません」 


 私は忍者さんが懐からまた何か武器を出そうとしたので、また飛び道具で攻撃される前に距離を一気に詰めようと走り出します。

 すると忍者さんは怪しい笑みを浮かべて懐に入れた手を戻したのですが、何とその手には何も持っていませんでした。 


「――えっ!? なんで!?」 


 その笑みを見た瞬間、私は何か尖った物を踏んづけてしまい足の裏にチクチクとした痛みが私を襲いました。 


「――――痛っ!? これは――――マキビシ!?」 


 どうやら私は相手の動作に気を取られ足元の確認を疎かにしていたせいで床にまいてあったマキビシを踏んづけてしまい、不覚にも中ダメージを受けてしまったようです。


 必要無いダメージを受けてしまったせいで私の残り体力は3分の2といった所でしょうか。

 体力を回復するポーションを使うのには待機時間が数秒必要で、その間は無防備になってしまいます。

 なので、相手が近くにいる時にはポーションを使うことが出来ないのでこちらがかなり不利になってしまいました。 


「けど、これ以上余計なダメージさえ受けなければ――――」 


 こうなったら相手の攻撃をなるべくかわして、こっちの攻撃をなるべく当てる丁寧な立ち回りをすればまだ何とかなる――――――はず!

 これまで忍者さんが使ってきた忍具はクナイとマキビシです。

 たしかに忍具は強力な物が多いのですが、その分アイテムボックスを圧迫するので他に持っいたとしても1人の忍者が持てるのは全部で3種類か4種類が限界――――と、ガイドブックに書いてありました。


 攻撃だけでは無く移動などに使う忍具を1つは常備しているのがセオリーなのでそれで枠が1つ減ります。

 更に扉に忍具で罠を仕掛けていると考えたら―――――これ以上の忍具は持ってないはず! 


 ――――これはあくまで私の予想で確信などは全くないのですが、下手に持っているか理解らない武器を警戒するくらいなら私は自分の予想を信じます!

 この忍者さんが戦闘に全力な人だったら終わり、そうで無ければ行ける。 


 ――――それだけっ!


「やああああっ!」 


 走って向かっていく私を牽制する為に忍者さんはまた懐からクナイを取り出して私へと投げつけて来ました。


 ――――――けど、


「知ってます」 


 私は剣を横に薙ぎ払い難なくクナイを叩き落として距離を詰めます。

 剣でクナイを弾くとカキンと金属同士がかち合う音がしたと同時に軽い火花を放ってから、石の床にクナイがカランカランといくつか転がり落ちる音が響き渡り、そして――――直後クナイは爆発を起こしました。 


「爆薬を仕込んだ爆裂クナイ――――どうやら3種類目の攻撃用忍具を持っていたようですね――――当たっていたら結構危なかったです」


 運が良かったです。飛び道具はクナイだけだと思っていたのでなんとか対応出来ましたが、クナイ系以外の手裏剣や吹き矢などで攻撃されていたらタイミングが掴めなくて危ない所でした。


 次にもう投げられるクナイが無くなったのか忍者さんは私を足止めする為に床に追加のマキビシをまきました。 


 ――――けど、 


「それも知ってます!」 


 私はマキビシを軽くジャンプして避けると、そのまま跳躍した勢いをつけながら剣を構えて忍者さんに斬りかかりました。

 忍者さんも忍刀を構えようとしたのですが――――、 


「遅いです」


 私は忍者さんが構える前に忍刀を弾き飛ばして、弾き飛ばした忍刀はそのまま部屋の壁に突き刺さりました。


 ――――もう忍者さんには手持ちの武器が何も残って無いはずっ!

 私は勝利を確信して最後の一撃を繰り出した瞬間、突然忍者さんの口がハリセンボンの様に膨らんだかと思うと、何と! 忍者さんは口から火炎を吐いてきたのです。 


「かかったな。喰らえっ、火遁の術ッ!」

「――――しっ、しまっ」 


 私は何とかかわそうとしたのですが一度振り下ろした剣はそう簡単に軌道を変える事は出来ず、私への直撃は何とか防げたのですが火遁の術が剣に直撃してしまい、衝撃で剣が壊れてしまいました。 


「ククク、形勢逆転だな」

「――――くぅ」 


 私の武器が無くなってしまいました。

 戦士は手裏剣などの飛び道具は使えないので他に武器は何も持っていませんので、今の私には攻撃手段が皆無です。


 ――――というか武器が無いので今の私のクラスはただの村人なのですが、何とか盾は無事だったので忍さんが何とかしてくれるまでシールドバッシュで時間を稼ぐくらいは出来るかもしれませんが、状況はかなり厳しくなってしまいました。 

 これからどうするべきか考えていると突然後ろから何かが崩れ去るような音がして、それとほぼ同時に忍さんの驚いた声が後ろから聴こえてきました。


「あっ!? 桜、扉! 扉ッ!」

「――――扉?」 


 私は何が起きたんだろうと忍者さんを警戒したまま一瞬だけ後ろをチラ見すると、なんと扉が燃え崩れていたのでした。

 扉があった場所の下には炭になってしまった木の扉の残骸がいくつか転がっているのが見えました。 


「――――どうやら、忍さんのファイアーウォールで扉が燃えてしまったみたいですね」 


 ――――けど、これなら。 


「桜、今なら部屋から出られるわ!」

「忍さん、急いで脱出します」


 これは武器を無くしてこれ以上戦闘を続けるのが困難になった私に現れた千載一遇のチャンスです。

 あの扉の向こうに行く事が出来れば今の戦闘を回避する事が出来るのですが。

 ――――ただ、問題点が1つだけ。 


「逃がすかっ!」 


 そう、私達は囲まれていたので扉側にはもう1人の犯人さんが私達が出るのを阻止しようと待ち構えているのでした。

 今の私は武器を持っていないので犯人さんをやっつける事はできないのですが、どかせるくらいなら――――。


「シールドバッシュです!」


 私は盾を構えたまま犯人さんに体当たりをすると、そのまま壁まで吹き飛ばしてしまいました。

 まず忍さんが先に扉があった場所をぐぐり抜けたのを確認してから、私も続いてスライディングをしながら扉の隙間をくぐり抜けました。

 私は部屋からでた瞬間、持っていた盾をフリスビーのように投げつけると相手は少し怯んだので――――、


「忍さん。扉にファイアーウォールです!」

「まっかせなさ~い!」


 先に部屋から出て魔法の詠唱を始めていた忍さんは私が出るのを見計らってから扉のあった場所にファイアーウォールを放って部屋に蓋をしてしまいました。 


「――――ふぅ。いっちょ上がりってね」

「忍さん。ファイアーウォールが解けたらすぐに追いかけてくると思うので、早くこの場所から移動しましょう」

「そうね。――――って、桜向こうから誰か向かって来てるよ!?」


 私が耳をすますと、どうやら階段から誰かが2人降りてきているみたいでした。


「おそらく屋上で私達を追いかけて来た人たちですね」

「ど、どうするの?」

「たぶんあの人達がここに到着するのはファイアーウォールの魔法がきれる頃だと思うので、あの人達の相手はここにいる忍者さん達に戦ってもらう事にしましょう」

「ま~今はそうするしかないか」

「それでは忍さん。階段はこっちなのでついて来てください」

「オッケー、桜。それじゃあ案内ヨロシクー」


 私達は追いかけて来た人達がここに到着する前に急いで階段まで走って、更に下の階層へと降りて行くことにします。

 さっきの戦いが終わって緊張の糸が解けたのか、階段を降りながら忍さんが何かを思い出したようで私に話しかけてきました。


「――――そう言えば、桜。さっきの真っ黒な人のクラスとかゲームの世界観的に大丈夫なわけ? てかこのゲームの世界観は大丈夫なの?」

「――――忍さん。物には上限があると言うのをご存知ですか?」

「ふぇ? なにそれ?」


「例えばこのゲームの初期に発売した第1段のガイドブックに載っていた近接クラスは剣士、魔法剣士、龍剣士などと言ったファンタジー的なクラスだけだったのですが――――――その――なんというか。このゲームはアップデートされていく度にクラスが増えていく事も売りにしているので、剣士や騎士だけだと種類がですね――――」


「えっと、つまり――――ネタ切れ?」

「――――ありていに言えばそうですね。最初の頃は戸惑っていたプレイヤーも多かったのですが、今ではこのゲームの特徴になって皆楽しんでます。それに上級職はファンタジー的なクラスしか無いので終盤で変なクラスが出てくる事は無いと思います」


「確かに一番盛り上がってる時に変わったのが出てくるとなんとも言えない空気になりそうかも」

「はい。マニアしか喜ばない展開にはならないようになっているので安心してください」

 

 忍さんへの世界観の解説が終わった所で、ちょうど私達は火の神殿の1階へと辿り着きました。

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