バトロワ編 その5





 部屋の中にあるアイテムと比べると強力なアイテムが手に入る事は少ないのですが、それなりの武器が手に入るだけでも序盤では心強いのです。 


「えっと、多分このマップはこの辺りにアイテムがあると思うのですが―――――あっ、ありました」 


 私は道に落ちていたロングソードとウッドシールドを拾うと早速装備欄を開いて装備する事にします。 


 装備ランク的にはどこにでも落ちているような最低クラスなのですが、最初はこのクラスの武器を持っている人が多いと思うのでまあ普通と言った所でしょうか。 

 私が装備を終えた所で忍さんからボイスチャットが入って来ました。

 私が通話ボタンを押すと忍さんの声が聴こえてきます。

 

「もしもし桜? こっちに火の石とロッドがあったんだけど何に使うんだっけ?」

「――火の石ですか? えっと、確か装備に火属性を付与する道具ですね。それを使った武器を装備すると炎の剣を使う赤騎士か火の魔法を使うフレイムウィザードにクラスを変更出来るようになります」

「ん~と、どうしよっか?」 


 このゲームでは装備にサポートアイテムを取り付ける事によってクラスが決定され、それによって攻撃力が上がったり、武器から火が出るようになる特殊な効果を追加したりする事ができるのです。

 剣や弓に炎属性を付けて攻撃力を上げたり、杖で炎属性の魔法を使えるようにする感じですね。 


「そうですね――――私は剣と盾を拾ったので最初は戦士で行きますから、忍さんは後ろから火の魔法でサポートをお願い出来ますか?」

「ん、りょーかい。じゃあ私が火の石を使うね~。それとこっちの探索はもう終わったから回復薬を分けるからこっちに来て」

「――――わかりました、すぐに向かいます」


 私は忍さんの元へ向かいながらデュオプレイの役割を確認する事にしました。 

 えっと、確かデュオプレイの役割の組み合わせは基本的には3種類に分類されたはずです。 


 ――――まずは2人とも近接武器を使う攻撃型。

 ゲームになれていないと対戦相手に近付くのが大変な上級者向けの組み合わせなのですが、噛み合ったときの爆発力は最高クラス。

 一瞬で相手を倒せる場合だってあるんです。

 それに近接型だと盾や重い鎧が装備出来るので、防御力もあり不意打ちをされても生き残る事が出来る確率も高いですね。 


 ――――次に近接武器と遠距離からサポートするキャラで組むバランス型。

 今回の私達がこのタイプでどんな相手にも無難に立ち回れる初心者向けの組み合わせです。

 1人が前衛で戦ってもう1人が後ろから攻撃魔法やサポート魔法でバフをかけて戦う戦法が一般的ですね。

 魔法使いは魔法を使うたびにMPを消費するので、MPを回復するアイテムを使うのを前衛が守ったり詠唱に時間がかかる強力魔法を使う為の時間稼ぎを前衛が担う感じになってます。

 魔法使いの他に弓使いやガンナーが後衛を担当する事もありますね。 


 ――――最後に2人が遠距離の防御型。

 これは2人で遠距離武器を使って相手を近付かせない戦い方をする組み合わせです。

 遠くから一方的に攻撃出来るのでハマれば相手に近付かれる前にやっつける事もできるのですが、MPや銃弾などに気を付けて戦う必要があります。

 それに防御力の高い盾や鎧が装備出来ないので近接キャラに一度近付かれてしまったらかなり不利になってしまいます。

 なのでMP切れの時に回復アイテムを使っている時に距離を詰められるみたいな事が無いような立ち回りが求められているみたいです。 


 ――――後は例外的にどれにも属さない特殊なクラスの組み合わせがあるみたいですが、その組み合わせをしている人は会った事が無いので私にはよく理解りません。

 始めたばかりで対策がよく解らないのならお互い最後の1チームになって戦うしか選択肢が無い場合を除いて逃げるのがいいと思います。 


 私が忍さんと別れた場所に戻ると、そこには赤いローブに身を包み赤い杖を持った忍さんが待っていました。

 赤いローブからは小さな火の粉がスカートからこぼれ落ちるように舞っていて、赤い杖の先端からは炎がメラメラと燃えています。 


「あっ、桜~こっちこっちぃ。クラスチェンジってこれでいいんだっけ?」

「はい。属性付きのクラスになると服がその属性のカラーになるので解り易いですね」

「ふっふ~。大魔法使い忍ちゃん誕生って感じかなぁ~」 


 忍さんは杖を空に掲げてポーズを取りました。

 これはかなり調子に乗っている様子なので注意をしておかないといけませんね……。 


「――――あの、まだ初期クラスで強い魔法を使うことは出来ないので大魔法使いまではまだまだ先だと思うのですが」

「いーじゃん、いーじゃん。こういうのは雰囲気が大事だって」 


 先程はゲームの設定とかどうでもいいみたいな事を言っていたような気もするのですが、水を差すのもなんなのでここはスルーしておきましょう。

 

「ただ初期はマジックポイントが少ないですし回復するアイテムもそんなに無いので乱発だけは注意してくださいね?」

「解ってるって! 敵が出てきたら私の魔法でババーンとやっつけちゃうんだからっ!」 


 ……これは微妙に解っていない気がします。

 まあ初期はMPが少ないのですが、使える魔法もそこまでMP消費の激しいものは無いのでよほどの無駄打ちをするか連戦でもしない限りは自動回復だけでもなんとかなるとは思うのですが。 


「――そういや炎魔法って普通の魔法とは何が違うの?」

「炎属性がついていると属性をつけない初期のロッドの魔法と比べて火力がちょっとだけ高いです。それに低確率で炎症の状態異常を相手に与えたり、クラスが上がっていくとマップにあるオブジェクトに魔法を使ってマップを変化されたりする事も出来るようになったりしますね」

「へ~なるほどね~」

「それと後は――――――いけない!? 忍さん隠れてください!」

「え、ちょ、ちょっと桜!?」 


 異変を察知した私は忍さんの手を取って近くにある瓦礫へと身を隠すと、次の瞬間忍さんの頭があった場所の後ろの壁にどこからか飛んできた矢が突き刺さりました。 


「なっ!? 一体何があったの?」

「中距離からの狙撃ですね。矢を放った方向から考えると恐らく―――――――いました。忍さん10時の方角です」

「10時? えっと、10時って夜の10時?」

「――忍さん。それだと22時の方角です」

「ふぇ? 別にどっちでもよくない?」

「ダメです。夜だと寝ないといけない時間です」

「――それもそうね。オッケー、じゃあ朝の10時の方角ね」

「それでは相手の位置の確認を急いで下さい」 


 忍さんは瓦礫から少しだけ顔を出して横目で相手の位置を確認しました。 


「ん~どれどれ~。あ、2人いるわね」

「デュオなので2人1組で行動するのが基本ですから。幸い近くに他のチームはいないようなので、ひとまずあの人達との対戦を優先しましょう」

「そういや桜。どうして私が狙われてるって分かったの?」

「――――それは足音です」

「――ほえ? 足音?」


「神殿の床は石で出来ているので地面と比べてコツコツと足音が響くので解り易いんです。それに弓使いも初期だとショートボウを使っている人が多いのでかなり相手に近付かないと狙いがつけにくいのも幸いしました」

「ふ~ん、そうだったんだ~」

「ですので――――――っと、またっ!?」 


 相手のもう1人が今度は私に向かって矢を放ってきました。

 けれど瓦礫がバリケードになってくれているので私には当たりません。

 恐らく隠れて中々出て来ない私達にしびれを切らして牽制の為に撃ってきたんだと思います。 


「――どうやら相手は2人とも弓を使っているようですね」

「えっと、両方弓って強さ的にはどうなの?」

「おそらく初期の中距離で最強―――――とガイドブックに書いてありました」

「ええっ!? なにそれ、絶対勝てないじゃん」

「忍さん。あくまで「中距離では」です」

「――ん? つまりどういう事?」


「近距離まで距離を詰めてしまえば何とかなる――――かもしれません」

「かもしれないって? ――――つまりどういう事?」

「すみません。ガイドブックで対策は調べてあるのですが、あの組み合わせのチームと実際に対戦するのは始めてなので……」

「なるほど、そういう事。――――それで桜、対策は?」

「頑張って相手に近づく事が出来たら近距離は苦手なので近距離武器で簡単にやっつけられる――――と書いてありました」


「解った。――――それで? どうやって相手に近づくの?」

「えっと―――――「頑張って近づく」――――です」

「ふぇ? だからどうやって相手に近づくの?」

「その――――「頑張って」――――でしょうか?」



「……頑張ってでしょうか? じゃ無ーーーーい! 大体なんなのその対策。桜のガイドブックって本当に役に立つ訳?」

「――忍さん。私の魂の書物(ソウルブック)をあまり悪く言わないで欲しいのですが――――」

「じゃあその本に書いてある知識でなんとかやっつける方法を考えてよね!」

「――――そうですね」 



 おそらく無策で近づいて行ったら弓で狙い撃ちされてゲーム終了です。

 装備が揃っている後半ならともかくとして、まともな防具の無い前半だと一瞬でやられてしまうと思います。


 こうなったら、取れる方法はアレしか無いようですね。  


「――――忍さん。あの人達に近づく方法が浮かびました」

「ホント? それでそれで? どうするの?」

「まず忍さんが相手に向かって突撃します」

「――解った。――――それから?」

「弓は一撃の攻撃力は高いのですが一部の例外を覗いて連射は出来ません。なので忍さんが相手の攻撃を受け止めている間に私が一気に近付いてやっつけます」

「…………」


「なにか作戦に理解らない所はありますか?」

「――――その。――――ねえ桜? もしかしてその作戦って私に囮になれって言ってるの?」

「――――? もしかしなくてもそうなのですか、何か作戦に不備でも――――」

「があああああああああっ。却下よ、却下。そんな作戦不備だらけじゃない。大体なんでゲームが始まったばかりなのに私だけ速攻ゲームオーバーにならなくちゃいけないわけ!?」 


 忍さんは立ち上がって私の立案した作戦に不満を打ち明けると、瓦礫から頭がはみ出してしまいました。

 このままだと相手から丸見えになってしまいます。

 

「忍さん。あぶないっ!?」 


 ――――ストン。


 私は無理やり忍さんを座らせると、即座に相手の弓が忍さんの立っていた場所を通過して後ろの壁に突き刺さりました。 


「ふぅ。間一髪です。全く、突然立ち上がらないで下さい」

「全部桜が変な作戦を考えたからじゃないの!」 

「――むぅ。いい作戦だと思ったのに残念です」

「全然いい作戦じゃなぁーーーーい!」 


 はてさて、さてさて、この作戦が却下になるとこれからどうすればいいのでしょうか。

 相手も他のプレイヤーが来る前に場所を移動したいでしょうし、私達もできれば他の場所で装備を整えたいのですが――――。

 そうこうしている内に相手プレイヤーは少しづつ距離を詰めてきていて、このままだと瓦礫のバリケードで防げない場所まで移動されて狙い撃ちされてしまいそうです。


 忍さんの魔法で応戦しようにも相手より射程距離が少しだけ。そう、本当に微妙にほんのちょっとだけ弓の方が長いので遠距離戦をしようにもこちらがかなり厳しい状況になっているのです。 


「――――仕方ありません。ここは最後の手段です」

「その――――一応聞くけど、この状況でどうするわけ?」

「私の盾なら何発か弓を受け止める事が出来るので、私が突撃している間は忍さんはサポートをお願いします」

「――――えっと。――――ねえ桜? それって最初の作戦とあまり変わらない気がするんだけど?」


「そんな事は無いです。魔法使いの忍さんは3発くらい当たるだけでゲームオーバーになってしまいますが、戦士の私なら6発くらいなら耐えられると思います」

「……は?」

「盾の耐久値はウッドシールドなので3、4発といった所でしょうか? ですので相手までたどりつけるかは五分五分の勝負かと――――って、おや? 忍さんどうかしましたか?」

「どうしたもこうしたもな~~い!」 



 またもや突然立ち上がった忍さんをめがけて相手の矢が襲いかかってきたので、私は再び忍さんを座らせました。 



「大体そんなに攻撃を耐えられるなら最初から桜が行けばよかったんじゃないの?」

「いえ。実はそう出来ない重大な事情があったので――――」

「――事情って?」

「遠距離2人に突撃するのは少し怖いです」

「私ならいいんかい!」

「最初から火の神殿に突撃した忍さんだったら相手に突撃するのも好きなのかと思ったのですが――――」

「それとこれとは話がちがーーーう」

「――――っと。忍さん、そんな事より相手が来ます」



 足音が少しづつ大きくなってきていて、相手チームが決着をつけようと私達に近付いて来ているようです。

 相手チームは私達の少しだけ手前で立ち止まり、様子を伺っているみたいです。

 

「忍さんは私の後ろについて来てファイアーボールを相手に撃って牽制してください」

「オッケー。――――けど、動きながらだと当てにくいと思うんだけどいいの?」

「はい。相手の矢を放つタイミングを少しでも遅らせてくれるだけでいいです。それに遠距離攻撃同士がぶつかったら相殺されるので運が良ければ何発か消えてくれると思います」

「解ったわ」


「――――それと、絶対に後ろから私に当てないでくださいね?」

「わ、解ってるわよ!」

「あとマジックポイントに余裕があればファイアーウォールで壁をお願いします」

「了解。覚えとく」

「それでは――――――行きます!」

「おー!」 


 私達は呼吸を合わせて相手に向かって一気に距離を詰めて行きました。

 相手も予想していたようで先頭の私に向かって矢を放って来たのですが――――最初の攻撃をなんとか盾で受け止めて矢を弾き返します。


 ――――この距離なら! 


「忍さん。この距離なら攻撃が届きます!」

「理解ってるって! それっ、ファイアーボール!」 


 忍さんが私の後ろから相手の隠れている場所に向けて炎魔法を放ちました。

 真っ赤な火の玉が真っ直ぐに相手に向かって飛んでいき、相手の隠れている瓦礫にぶつかった瞬間、バンッと音を立てて軽い爆発を起こしました。


 相手に当たった時に運が良ければそれなりの確率で炎症の持続ダメージが入るようになるのですが、今回は走りながら狙っているので直接当たることにはあまり期待しない方がよさそうです。 


 ――――しばらくして弓矢の第二波がやってきました。

 次も同じように。 


「―――――うっ!」 


 今度は2人同時に矢を撃ってきたので1本は盾で防げたのですが、もう1本が体に直撃してしまい私の体力ゲージが少しだけ減少してしまいました。 


「桜、大丈夫?」

「――はい、まだまだ余裕です」

「そっ。私も頑張って相手に攻撃当てるから期待してて!」

「――はい。適度に期待しています」

「てっ、適度ってなによ!」

「――――そう言われても走りながら直撃を当てられるのですか?」

「そっ、それはそうなんだけど、もうちょっと期待しなさいよ!」 


 ――――第三波。


 距離が近くなったからか、相手の狙いがどんどん正確になって来ています。

 私は1本を盾で防いでから今度は当たらないように横にステップをしてかわすことにしました。


 盾で矢を弾くと心地の良い金属音が聴こえてきました。 

 ――――カコン。


「――フゴッ!?」 


 …………あれ?


 ――――今何か変な声が後ろから聴こえて来たような?


 私は恐る恐る後ろを振り向くと、そこには服に矢が刺さっている忍さんの姿がありました。


 心なしか少しだけ怒っているような気もします。 


「ちょっと桜。桜が急に避けたら私が避けられないんだけど!」

「……すみません、後ろにいるのを忘れてました」 


 ――いけない、いけない。

 私が相手の姿を遮っているので、後ろにいる忍さんには相手の攻撃が見えづらいのを忘れていました。


 ――――そして、第四波がやってきました。

 私のウッドシールドの耐久値もそろそろ限界が近いみたいで、所々に大きなヒビがはいってきています。


 この感じだと後1、2回攻撃を受けたら壊れてしまいそうです。

 けど、後ろには忍さんがいるので私に出来る事は壊れないように祈る事だけ。

 お願いっ、もってください! 

 しかし残念ながら私の願いは天には届かず、1回受けた瞬間にガキンと音をたてて私の持っている盾は弾け飛んでしまいました。 


「桜!?」

「大丈夫です。まだ体力には余裕があります」 


 ここまで来たら後はただひたすらに真っ直ぐに進むだけ。

 殆ど被弾していないので、体力は十分なはず――――。 

 私は念のために体力ゲージを確認すると、何故か予想以上に体力ゲージが減っていました。 


「――あれ? どうして?」 


 これが最初の戦いなので余計なダメージは受けていないはずなのに。

 なんでだろうと思っていたら体力ゲージの下にある文字が表示されているのを確認して私はハッとしました。 


「――――状態異常!?」 


 そこには状態異常「毒」の文字が表示されていて、体力ゲージが少しずつじわじわと減っていっています。


 これは非常にまずい状況です。


 忍さんは体力が少ないので私が盾にならないとすぐにやられてしまいますし、私自身の体力もかなりピンチ。 


「――――ん? 桜どうかした?」

「どうやら最初に受けた矢が毒矢だったようです」

「えっ!? それって大丈夫なの?」

「大丈夫―――――じゃ無いかもしれません」

「どどど、どうするの!? 桜がやられちゃったら私も一瞬でやられちゃうじゃない!?」


「なんとか剣で弾いてみます」

「ええっ!? そんな事できるの?」

「するしかありません!」 


 剣で弓を弾くのはタイミングを取るのが凄く難しくて、初心者では至難の技です。

 それに運が悪いとカウンターヒットになってしまい、通常の1、5倍のダメージが入ってしまうので上級者以外は避けるのがセオリーとガイドブックに書いてありました。


 書いてありました―――――が。

 今はそれしか方法が無いので気合で成功させます! 

 それによく考えたらそんなに難しい事なんて要求されてなんていません。


 ――――相手の弾道を予測してタイミングを見計らって剣で払う。

 ただ、それだけ! 


 相手の1人が弓を構えました。

 狙いはモチロン先頭の私。

 矢が放たれてから3、2、1――ここっ!

 私は相手の攻撃に合わせて剣を横に振り払いました。 


「――――くっ!?」 


 けれど少しタイミングが早かったのか、放たれた矢は少し弾道がずれて私の体をかすりました。

 致命傷は免れたのですがダメージを受けた事には変わりはないので、なんとか頑張ってマグレでもいいから1発くらいは弾かないと厳しいかもしれません。


 ――――続いての攻撃。


 さっきはちょっとだけ早かったから次はワンテンポ遅らせて――――。

 3、2、1――――――ここです!

 私はさっきよりちょっとだけ遅らせて相手の矢を振り払いました。


「―――――あ――あれっ!?」


 今度は少しだけ遅すぎました。

 またもや矢が私をかすめてダメージが少しだけ蓄積されてしまいます。


「桜。体力がもうちょっとしか――!」

「次は決めます!」 


 次は最初と2回めの真ん中くらいのタイミングで。

 3、2、1――――これならっ!

 私が剣を横に振り払うとカンと気持ちの良い音を立てて飛んできた矢を弾き飛ばす事に成功しました。 


「――――や、やりました!?」 


 距離もここまで近づく事が出来たのならもう勝ったも同然。

 体力もなんとかギリギリで持ちこたえる事が出来ました。

 後は近接攻撃をしかければ私達の勝利です。 


 ――――と思ったのですが、何故か私の前には弓を構えて更に追撃をしようとしている姿が――――。


 もしかして、読み間違えた!? 

 流石にもうこれ以上攻撃を耐える事が出来る体力は残っていませんし、さっきの弓を弾いたのだってマグレで決まったにすぎないので、もう1回やれと言われてもかなり厳しいと思います。


 それに、そういえばさっきから忍さんの魔法でのサポートがかなり少なくなっていたような気がするので、もしかしたらそれで相手にさらなる攻撃をする準備が出来てしまったのかもしれません。 


「――――絶体絶命です」 


 私は負けを確信した瞬間、私の後ろで忍さんが不敵な笑みを浮かべて魔法の詠唱にはいりました。 


「ふっふ~。ここはこの忍さんにまっかせなさ~い!」 


 忍さんは立ち止まりその場でくるりと回転してから火のロッドを掲げると足元に紅い魔法陣が出現しました。

 そして出現した魔法陣の中に小さな火の粉が現れて、まるで踊っているかのようにメラメラと宙を舞い踊っています。 


 相手はそんな忍さんには目もくれず、まずは1人でも相手の人数を減らそうと私に狙いを合わせて弓を引き――――いっきに解き放ちました。 

 相手の放った矢が私の目の前まで到達した瞬間、詠唱を終えた忍さんが魔法を発動させました。 


「出なさい! 何人の侵入を阻む真紅の防壁、ファイアーウォール!」 


 私に向かって放たれた矢は私に直撃する瞬間、突然現れた炎の壁によって阻まれ燃えながら消滅していきました。 


「――桜!」

「理解ってます!」


 私は走っている勢いにまかせて炎の壁をジャンプして飛び越えると、相手の1人の頭上まで来る事が出来たのでそのまま空中で剣を構えて落下しながら斬りつけます。 


「――――せいっ!」

「――ぐはっ」 


 私は相手の1人を一撃の元やっつけました。


「よくもやったな!」

「――遅いです」


 そしてすかさずもう1人へと距離を詰めて相手が攻撃動作に入る前に連続斬りを繰り出してもう1人も一気にやっつけました。


「やったね、桜」

「はい。かなりギリギリでしたが、なんとかなりました」

「そういやまだ回復薬渡してなかったっけ。――――はいこれ」

「ありがとうございます」


 私は忍さんからポーションを受け取ると、その場ですぐに使って体力ゲージを回復させる事にします。

 忍さんの持っていたポーションMサイズは体力の80%を回復するアイテムなのですが80%以上は体力を回復する事が出来ないので、そこから先はリジェネレーションポーションを使って徐々に少しずつゆっくりと回復していきました。

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