バトロワ編 その4
――――ここは異世界ユグドラシル。
剣と魔法で戦う私の大好きなもう1つの世界。
この世界で私はいろんな姿になることが出来ます。
かっこいい剣士にも華麗な森の狩人にも派手な服を来た大魔法使いにだってなれてしまうです。
…………まあ、派手なアバタースキンを手に入れるには有料ガチャを引くかゲーム内マネーを貯めて購入するしか無いのですが、私はまだ小学生なので課金するお小遣いなんてそんなにあるはずもなく、毎日少しずつゲームをプレイしてゲーム内マネーを頑張って貯めている最中だったりします。
「――――と、そんな事より早く待ち合わせ場所に急がないと」
私は小走りで急いで待ち合わせ場所に向かうと、そこには待ちくたびれた様子の忍さんが壁に背をつけてもたりかかりながら私を待っていました。
忍さんの待っている場所の上には大画面のモニターが設置してあって、そこでは現在行われているゲームの1つが映っていました。
状況から察するにこのゲームはもう終盤に差し掛かっていてそろそろ終わりそうです。
私に気が付いた忍さんはこっちこっちを手を振って私に自分の居場所をアピールをしました。
「桜~。こっちこっち~」
私もそれに答えるように忍さんの元へと歩いていきました。
ちなみにこのユグドラシルの世界ではサクラ、忍さんはシノブと言うプレイヤーネームでゲームをプレイしています。
まあお互いに本名をカタカナにしただけなのですが、漢字をカタカナにするだけでもゲームの世界にやってきた雰囲気は出ていると思うので問題はないですね。
…………決してお互いに名前を考えるのが面倒だった訳ではありません。
「――――すみません、待ちましたか?」
「少しだけね~。――そんな事よりデュオの大画面で放映されるゲームがそろそろ始まるみたいからエントリーしない?」
「そうですね、では受付に行きましょう」
このゲームでは1人用のソロ、2人でチームを組むデュオ、4人でチームを組むスクワッド、そして50VS50の団体戦があってこの中からローテーションでメイン広場の大画面で放映されるゲームが決まるのですが、今放送されているのがソロゲームなのでちょうど次がデュオが放映される番みたいです。
自分のプレイを見せたくない人の為にここに放映されない非公開のゲームも用意されていますが、やっぱり人に見られてるって思うとプレイに緊張感が出てきますし、なにより勝負に勝った時に皆さんから凄いって称賛されるのがたまらなく気持ちいいので私はこの大画面に映るゲームの方が好きなんです。
――――私達が受付に行くとちょうど締切間際だったみたいでしたが、なんとかギリギリでエントリーに間に合いました。
私達でちょうど100人目だったので、今回は抽選で外れる事もなさそうです。
「ねえ桜。そういや今回のルールってどんな感じだっけ?」
「ルールですか? えっと、簡単に説明するとですね―――――ムーブメントシュムックが一周するとグリモワールフィールドがスケールダウンするので、それまでにエレメタルアタッチメントをシェードチェインしながらマテリアルアーツなどを駆使して相手をオールアウトさせたら勝ちになるゲームです」
「…………は?」
少し理解らない言葉があったのでしょうか。
忍さんは目をパチクリさせながらイマイチ理解出来ていないみたいです。
「ですからムーブ――――」
「ストーーーーーーーーップ!」
「あの…………忍さん、どうかしましたか?」
「ねえ桜。その何とかムーブってチュートリアルで説明してたっけ?」
「その――なんとかムーブでは無くてムーブメントシュムックなのですが――――」
「そんなのどっちでもいいでしょ! 私そんな言葉聞いたこと無いんだけど」
「えっと、これは公式のガイドブックに書いてあった設定です。システムについてとても理解りやすく書いてあったのですが、その――どの辺が理解らなかったのでしょうか?」
ちなみにこの公式ガイドブックはカイザーフェニックス書房から出版されているブレード&マジック パーフェクトガイドブックと言って定価は5000円もするのですが、総ページ数はなんと6000ページを超える大ボリュームで私がこのゲームをする上でのバイブルになっています。
お年玉やお小遣いをコツコツと貯めて買ったこの本はもう10回以上は読み返していて、今では大半の内容が本を見ないでも言えるようになっている事が私の自慢の1つでもあります。
こういう本は攻略記事だけ読んで設定はおざなりにする人もいるようですが、やっぱりゲームを楽しむ為には設定も全部理解した上で楽しまないとですね。
「どの辺が? じゃなくて全部よ、全部。もっと要点だけ理解りやすく説明してよね!」
「むぅ――――世界観に浸るためにはゲーム専用の言語で説明した方が楽しめるのですが――――そうですね、まず戦うマップを確認するのでメニュー画面を開いてマップを選んでください」
「え~っと―――――あっ!? これね」
私達が何もない場所をタッチすると突然メニュー画面が空中に表示されて、そこの上の方にあるマップと書かれたボタンを押すと続けて地図が空中に表示されました。
「これが今回私達が戦うマップのホルホル高原です。初期からある一番基本的なマップですね」
「へ~。そうなんだ。ところでマップにいくつか建物があるみたいなんだけど、これは何だっけ?」
「それはこのマップにある火、水、風、土の4属性の神殿ですね。それぞれの神殿には装備を強くするアイテムが落ちているのですが、道中にある宝箱の中にも強化アイテムが入っている事があるので無理に向かわなくてもいいと思います」
――――説明を終えた私達はそのまま談笑していると、しばらくして私達の前にスタンバイの文字が出てきました。
これを押したら私達は戦場へと転送されていく事になります。
「桜、準備はいい?」
「はい、いつでも行けます」
「よしっ、それじゃあ――――」
「レッツ、イグニッションです!」
私達はスタンバイの表示を横にスワイプすると表示がGOに変更され私達の準備は完了しました。
そして次の瞬間。私達の体は光に包まれて行き、船の様な乗り物の上へと転送されました。
――――ここは大空を滑空する飛空艇の上。
飛空艇の中には私達と対戦するチームの人たちがどんどんと転送されて来ています。
ここにいるのはまだ全員ただの冒険者。
どうしてわざわざ「まだ」なんて言葉を使ったのかというと、プレイヤーは対戦中にどんどんクラスアップしていきソードマスターなどの上級職になることが出来るのです。
序盤は地味な技や魔法しか使えないのですが、終盤ともなると強力な攻撃が行き交うような戦場になって凄く派手な戦いになるんですよ。
クラスは装備する武具によって決定されるのでアイテム運に見放されると終盤なのにあまり強くない下級クラスで戦う事になってしまいます。
そう、さっきまでプレイしていた私のように……。
けど下級クラスのままだと勝つのが絶望かというとそうではなく下級クラスには下級の良いところがありますし、上手く先手を取ることが出来たのならこっちが有利に戦いを進める事も出来るのです。
――――それにこれは噂なのですが、最終局面まで下級職で行くことが出来た人物にだけ手に入れる事が出来る伝説の隠し装備があるとか無いとか言われているので、それを手に入れる為にあえて下級職プレイをしている人達もいたりします。
――――私は飛空艇から体を少しだけ乗り出して下を覗き込みました。
ちなみに現在の飛空艇はまだ空に停止していて、動き出すのはプレイヤー全員が転送されて来てからです。
そこには広い森や草原が広がっていて、所々に大きな神殿がいくつか建っています。
私は飛空艇の上から全体を見るこの景色がとても好きで、ついつい対戦の事を忘れて見入ってしまいました。
「桜、どこに降りよっか?」
後ろから聞こえる忍さんの声に我に返り、対戦モードへと頭のスイッチを切り替える事にします。
「そうですね。今回は無難に――――わわっ」
――――ガコン。
と音が鳴りゆっくりと飛空艇の上のプロペラが回り始めました。
どうやらプレイヤー全員の準備が整って参加者が全員この船に乗ったみたいです。
そして飛空艇は北へと向かってゆっくりと空を進み始めました。
ゲームはもう始まってしまい、ここから先は誰かに倒されるか最後の1チームになるまでこの場所からはログアウトできません。
他のチームの人がどんどん下に降りて行きます。
私達も先を越されないようにすぐに動くべきか、それとも資材の沢山ある場所に降りて戦いで有利になるように行動するか、あえて資材の少ない誰も行かなそうな場所に降りて戦闘を回避するか――――今回の私達のプレイは放送されているから、なるべく長く残っていたいのでここは――――。
「よしっ、とりあえず今回は火の神殿の近くに降りよっか」
「――――え!?」
「それじゃあ桜、行っくよぉ~」
「――――あっ、忍さん!?」
忍さんは私の制止を聞かずに1人で飛び降りてしまいました、
デュオは常に2人1組で行動するのがセオリーで、バラバラに行動してしまうと2VS1になって圧倒的に不利になってしまうため私も続くしか選択肢はありません。
私もすぐに忍さんの後を追い掛けて、飛空艇からダイブしました。
火の神殿の中には沢山の炎を宿した武器がある人気スポットの1つです。
つまり人気スポットと言う事は――――――。
私は左右を見渡すと、私達以外にも沢山のチームが火の神殿を目指してダイブしているみたいでした。
やはり最初からかなりの激戦になるみたいです。
私はチームチャットを開いて忍さんに連絡を入れました。
「忍さん。やっぱり人が少ない所から始めて様子を見た方がよかったのでは無いでしょうか?」
「え~、でも強い武器があった方が楽しいし、炎系の武器は炎のエフェクトが出てかっこいいじゃん」
「それはそうなのですが、同じ事を考えているチームがかなり多いみたいです」
「大丈夫だって、それなら全部倒しちゃえばいいし」
「――そんな無責任な」
私達の視界に火の神殿が次第に近付いて来ます。
このまま地面に激突したら大ダメージを受けてしまい落下ダメージだけでそのまま即退場となってしまうので、私達はそれぞれが用意したパラシュートなどの落下の衝撃をなくす道具を最初に使う必要があります。
けれど、あまり早くパラシュートを使ってしまったら落下速度がゆっくりになり目的地に辿り着くのが遅くなってしまうので、なるべく地上ギリギリまで引きつけてから滑空アイテムを使うのが最初のセオリーとなっています。
「ふっふ~、おっ先ぃ~」
私より先に落下していた忍さんが一足先に滑空アイテムを使用しました。
忍さんの滑空アイテムはホウキです。
ゲームのシステム的に空を飛ぶことは出来なくてあくまで落下速度を遅くするだけのアイテムなのですが、忍さんの着ている魔女の様な服装と相まってまるでホウキに乗って空を飛んでいるかの様に見えて可愛いです。
――――そして私は。
「フライングブーツ、トランスフォーム!」
私が声高らかに叫んで靴のカカトをトントンと合わせると私の履いている靴から翼が現れて空飛ぶ靴へとなりました。
これも忍さんのホウキと同じく飛空艇から落下した時と高い場所からジャンプする時にしか使えないアイテムなのですが、羽の生えた靴ってなんだか魔法少女になったみたいな気分になれるので私がこのゲームで大好きなアイテムの1つだったりします。
ちなみにアイテムを使う時にわざわざ叫ぶ必要は無いのですが雰囲気は重要なので私は使う度に毎回これをやっています。
滑空アイテムを使用した事によって私の落下速度もゆっくりとなりました。
一緒に降りてきた人たちも皆アイテムを使い、ゆっくりと火の神殿に目標をしぼって向かっているみたいです。
皆さんパラシュートやグライダーなど自分の好きな滑空アイテムを使っているので、落下シーンではそれぞれの個性が出てくるシーンでもあります。
たまにレアアイテムの派手でピカピカなアイテムを使っている人もいるのですが――――。
私は周辺を念入りに見回して確認しました。
「あの人はノーマル、あの人も――」
――――どうやら今回はレアアイテムを持っている人が見つからなかったので、私はホッと胸を撫で下ろしました。
どうしてレアアイテムを持っている人を探していたのかと言うと、レアアイテムを手に入れるにはゲームプレイで手に入るゲームコインを沢山貯める必要があるのです。
まあ例外的に有料ガチャで低確率で手に入れる事も出来るのですが……。
つまり何がいいたいかと言うと、レアアイテムを持っている人はゲームをやり込んでいる人が多いので、ゲームの実力も高くいきなり出会ってしまったらすぐにやられてしまう……なんて事もあるのですが今回はその心配はなさそうです。
――――と言っても。
今回は激戦区に降りるので突然後ろを取られていきなりやられる事にならないように注意しておかないといけませんね。
「桜~。この辺でいいかな~?」
「はい。着地する場所は忍さんに任せます」
ここまで来てしまったら私がどうこう言うより先行している忍さんに着地する地点も決めてもらった方がスムーズに行くと考え、私も忍さんが選んだ場所の近くに降りる事にします。
――――忍さんがゲームをスタートする地点に選んだのは火の神殿の南西の辺りでした。
火の神殿と言う名前なのですが、面積はかなり大きくて実質お城みたいな感じの建物です。
火のお城という名前だとなんだか変な感じがするので神殿にしたのでしょうか?
「よしっ、到着っと。それじゃあ先にこの辺りを探しておくね~」
「――気を付けてください」
「大丈夫。私にまっかせなさ~い」
忍さんはそのまま近くにある小部屋へと入って行きました。
外より部屋の中の方が良いアイテムがある確率が高いのでまずはそこから調べるのが序盤のセオリーになっています。
「――私も急がないと」
――シュタッ。
少しだけ遅れて私も火の神殿に降り立ちます。
地上に着地したら靴の羽がふわっと宙に舞うように広がりながら消えていき、普通の靴へと戻りました。
空飛ぶ靴の効果が無くなった今の私は丸腰。
武器はおろか使えるアイテムも何一つ持っていないのですぐにでも武器を探しに行かなくてはいけません。
眼の前にある部屋には忍さんが物資を探しに行っているので私はこの周辺を探す事にしました。
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