第35話:3つの中で正解はどれだ

あれ、今普通に隼人はやとくんって呼んだよね?



動揺して有村スパイに視線を送ったが、特に変化なし。

そのまま七瀬を確認したが、照れた様子などはない。



これはどういうことだ?



選択肢A、七瀬が無意識のうちに名前で呼んだ。

選択肢B、実はわざと言ってておちょくられている。

選択肢C、いよいよ幻聴が聴こえてくるようになった。



どれなんだ……。



Bなら今頃七瀬は小悪魔に変身しているはずだから、おそらく違うだろう。



Cはなかなかまずい、通院が必要なコースだ。

可能性はかなり高いが、気持ち的には違っていて欲しい。



そうなると残りはAだな。

以前もマッチが終わったときに[カッコいい]とポロっと言ってたからな。

可能性は十分あり得る。



ただ、あの時は失言隠しの為に、それ以降は[カッコいい]と何度も言っていた。

今回も、これ以降の七瀬の様子を確認する必要がありそうだ。



ちょうど二人も喜び終わったようなので、次のマッチにいくことにしよう。



「じゃあ次のマッチをやろうか。

今度は俺は最初から後方支援に回るから、二人で好きなように動いてみてね。

もちろんアドバイスはするから」



俺の提案に二人も同意し、ゲームの準備を始めた。



よし、これで序盤からずっと、七瀬の横顔を観察することができる。

怪しまれている感じもない。



今回は有村が着地点を選ぶ役になった。



「一回この辺に降りてみたかったんだよねー」



有村は楽しそうに言いながら、激戦区へ向かって一直線に飛んで行く。



ちょっと待ってくださいよ。

激戦区なんかに降りられたら、ゆっくりできないじゃないか。



慌てて周囲を見渡してみると、数チームは同じ場所をめがけて飛んでいる。

これは非常に良くない。



「とりあえず着地したら、武器の確保を最優先ね!

何でも良いから」



着地する直前、二人に念押ししたがダメだったようだ。



「うわー、やられたー」



楽しそうに有村が言う。

この感じ……、激戦区特有の序盤のわちゃわちゃ感を楽しみたくて、ここを選んだに違いない。



それにしても早くやられすぎです。



俺が運良く装備と銃を拾えたあたりで、七瀬が残念そうに[負けちゃったー]と言っていた。



開始1分で、残りは俺一人ですか。



やられてしまった二人を救出に向かっていると、場所が激戦区だけあって敵とどんどん遭遇していった。



一人一人確実に倒していくが、全然余裕が無い。

画面に集中していないと負ける。


本当だったら、今頃のんびりと七瀬の横顔を眺めていたはずなのに。



有村の行動をうらみながら、やられて救出待ちの二人がどうしているか、横目でチラッと確認する。



有村は楽しそうに画面を観ている。

予想通りだ。

わちゃわちゃ感を楽しんでいるようだ。



次に七瀬の方を見ると、



こちらをジッと見つめていた。



思わず驚いたが、七瀬は俺と視線が合うと、慌てるように画面を観始める。



くそっ、なぜそんなに見つめていたかが気になる。

だが、理由を尋ねる勇気など持ち合わせていない。



……こういうときは有村スパイに任せるのが一番だ。


そう割り切って、とりあえずゲーム状況の立て直しを優先させた。



まず二人を救出すると、倒した敵達の持ち物を漁りにいく。

最初の方にしては、そこそこの装備が手に入ったようだ。



ここまでくれば、後はもう大丈夫だろう。

後方支援をやりつつ、七瀬の横顔もゆっくり見れる。




その後はたまに苦戦しながらも、安定した立ち回りで進み、本日二度目の一位になった。




問題はこの後、七瀬が何と言うかだ。



「最初二人ともやられちゃったときは焦ったけど、さすがさかきよね。

あの状況からまさか一位になれるとは思わなかったわ」



……あれ?



まさか選択肢Cが正解なの?




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