第34話:見つめるのに忙しいから、邪魔しないで

七瀬から服の感想が出てこないか待っていたが、どうやらダメそうだ。



「じゃあ、三人でやってみようか」



気持ちを切り替えながら、二人に告げた。



ゲームが始まると、七瀬が着地点を選ぶ役になったので、好きな所を選んでもらう。


飛び降りている途中で、有村が尋ねてきた。



「ねぇ、なんで榊さかきだけ飛び降りてる軌道が、赤くなってるの?」



どうやらスカイダイブの色のことを言っているらしい。



「あー、これはランクマッチのおまけって感じで貰ったやつだよ。

ランクマッチはわかるでしょ?」



既に着地はしたが、有村との会話は続く。



「あー、なんか順位とかキル数とかでランクがどんどん上がっていく方のマッチのことでしょ?

知ってるけど、そっちはまだやってないんだよね」



会話は普通に返しながら、ゲームの操作もちゃんとできているようだ。

有村もこのゲームに慣れてきたな。



「そうそう、そのモードのこと。

それで一番上のランクまで上がると、これが貰えるんだよね。

まぁ貰っても設定しない人もいるんだけどね。」



そこまで話すと、今度は七瀬が食いついてきた。



「え、一番上のランクまで上がったの?

あれって全プレイヤーの中で、上位数百人しかなれないんでしょ!?

全然気づいてなかったわ。

いつのまにやってたの?」



話す内容はだいぶ驚いた様子だが、七瀬もゲームの操作はちゃんとできているようだ。



話しながら操作するのが二人とも上手いな。

俺は最初はかなり手こずったのに。



「ランクマッチは上手い人ばっかりで話す余裕無いから、配信してないときにやってたんだよね」



七瀬に回答したが、今度は有村が話しかけてくる。

二人ともよくしゃべるな。



「え、それじゃあこの後は、そのランクマッチをやろうよ。

この三人でやったら、けっこう勝てそうじゃない?」



有村ならそう言うと思った。

このゲームの配信を観始めてから、まだあんまり経っていないし。

ちゃんと教えてやらねば。



「パーティでランクマッチをやったら、その中で一番ランクが高い人のランクが採用されるんだ。

だから、この三人でやったら、一番上とその一つ下のランクの人とやることになるよ」



俺が答えると、有村は[うわー、やりたくないなー]と反応していた。

やっぱりそう思うよね。



七瀬は反応していないので、おそらくわかっていたんだろう。



ここまでやってみて、改めて思った。



友達三人でゲームやるのは、やっぱり楽しい。




楽しくて上機嫌だから、いつもより敵に突撃していく。

上機嫌で良い感じに集中できてるので、敵をどんどん倒していく。



そんなことをやっていると、有村から注意されてしまった。



さかき、ちょっとガンガン行きすぎ。

一人だけソロみたいになってんじゃん。

今日は私達の練習の日でしょ?」



うっ、その通りでございます。

チラッと七瀬の方を見ると、くすくすと笑っていた。



笑った顔が可愛いから、まぁいいか。



注意された後は、後方支援をしながら、目印ピンを使って敵の位置や有利な場所を教える役割に専念した。



しかし、二人とも上手くなってきているので、俺が細かく指示を出したりしなくてもよくなってきていた。



余裕ができたので、チラッチラッと横の七瀬を見る。



……なんて綺麗な横顔なんだ。



思わず、視線が奪われる。



学校では俺の方が後ろ側だし、さっき教えるときも俺の方がやや後ろ側だった。

だから、こうやってしっかりと横顔を見つめたのは、初めてかもしれない。



真剣な表情がまた良い。



笑った顔も小悪魔っぽい表情も可愛かったが、真剣な表情はまた違った良さがある。



七瀬を見つめていると、ゲーム内で敵に撃たれたが、[邪魔だ]とばかりにすぐに蹴散けちらす。



今忙しいんだから、襲ってくるのは止めて欲しい。



しかし、俺の願いは叶かなわなかった。



だってゲームは終盤だし。


もっと早くから見つめておけば……。



後悔しかけたが、また次のマッチでやったら良いことに気づいた。

そうなったからには、もうこのマッチは用済みだ。




二人をフォローするという名目で、こっそり多めに敵にダメージを与える。



そうやっている内に、難なく最後のチームを倒し、ゲーム画面が切り替わった。



「やったー、今日初めての一位だー」



二人が喜んでいるので、合わせるように俺も喜んだか、意識は次のマッチに向かっていた。



「やっぱり隼人はやとくんがいると、全然違うねー」



……この七瀬の言葉を聞くまでは。




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