第32話:一緒にゲームするときの距離

七瀬もわざわざ服を買いに行ったのか!?

[俺が喜ぶかも]って考えてくれたのが、嬉しすぎる。


でも[恥ずかしがってた]ってことは、[無理させちゃった]ってことだよな。

今度からは聞かれても、変なことを言わないよう気をつけないと。



頑張ってくれるのは嬉しいけど、無理はして欲しくないし。



七瀬が恥ずかしがってたのかー……、


見たかったなー……、

前回恥ずかしがってたときは、めちゃくちゃ可愛かったよなー。



あれは七瀬の自爆みたいな感じだったから、純粋に楽しめた。

今回もし見てたら、どうだったんだろう。



もう少し有村スパイから情報をもらおう。



「ちなみに七瀬って、有村と遊ぶときはたまにあのメガネかけてるの?」



俺が尋ねると、モニターを見つめたままの有村スパイは、やや面倒くさそうに答えた。



「え、私と遊ぶときはかけてたこと無いよ。

あのメガネも土曜日買ってたし」



……七瀬ヤツめ、嘘をついておった!

なにが[たまにかけるのよ]だ。



その強がりがとても可愛いじゃないか。



今日恥ずかしがっていたときは、きっとメガネも服も、全てが気になっていたのだろう。



あぁ、見てみたかった。

今まで史上一番可愛かったんだろうな。

有村スパイが動画撮ってくれてたらよかったのに。



よからぬことを考えていると、七瀬が戻ってきた。



有村スパイからの情報の余韻よいんで、席に戻る姿を微笑ほほえみながら見ていると、七瀬は不思議そうな顔をしている。



「じゃあ七瀬も戻ったことだし、始めようか」



言葉にすることで、自分の気持ちを切り替えた。



ゲームが始まり、俺は二人の画面を全体的に眺めたり、交互に注視したりした。

二人とも始めて間も無いとは思えないぐらい、ちゃんと動けている。


だが、索敵さくてきやエイム、立ち回りなど色々と課題はある。



残りチームが半分になった辺りで、二人ともやられてしまった。



「ちょっと設定いじってもいい?」



二人に了承をもらうと、一人ずつ感度設定を変更した。



「今見た感じだと、たぶんこれぐらいがちょうど良いと思うよ。

もう一回二人でやってみてくれない?」



二人は半信半疑といった様子で、俺に言われるまま次のマッチを始めた。



「え、けっこう感覚違うね。

変な感じがする」



最初は違和感から戸惑っているようだったが、次第に反応が変わっていった。



「あれ、なんか反応しやすくなった」


「動かしやすいかも」


「おぉ、いつもより弾が当たる気がする」



二人とも感度を変えた効果があったようだ。

今回は先ほどよりも長く生き残っていたが、終盤でやられてしまった。



「負けちゃったかー。

あ、でも与えたダメージ量けっこう良い感じ」



マッチ後に出るリザルト画面を見ながら、二人で喜んでいる。



……俺の存在忘れてないよね?



ちょっと焦りながら、二人に声をかけた。



「感度は良い感じみたいだね。

じゃあ次は立ち回りについて、一人ずつ教えていこうか。

どっちからでもいいけど、まぁまずは七瀬からにしよっか。

有村も七瀬の画面観ててね」



話しながら準備を進めていると、二人が不思議そうにこちらを眺めていた。



「あ、説明してなかったね。

七瀬のゲーム音声を俺と有村が聞けるように、この器具で線を分岐ぶんきさせてるの。

だから今回はマイクとヘッドホンはこっちを使ってね」



一応説明はしたが、聞かせた方が早いだろうと準備を進めていく。


準備完了後、有村にヘッドホンを付けてもらうと[おー、聞こえる]と驚いていた。



「これで三人とも同じ音が聞こえるから、アドバイスもしやすいはず。

じゃあ始めようか」



ゲームを始めると、建物が密集しているエリアに七瀬のチームが着地する。



「向こうの建物に、三人いるから一旦隠れて武器揃えて」



ゲーム画面を指しながら、場所を伝える。



七瀬は指示通り武器や装備を集めていき、仲間も最低限の準備ができたようだ。



「今この建物の二階に一人動いてきたね。

三人で行って倒しちゃおう」



仲間にも目印ピンで伝えて共に動くと、難なく敵を倒せた。



「あ、こっちに敵が向かってきてるから、一回アイテム漁るの止めて。

この物陰で回復して。

回復終わったら、この位置で敵を待って、来たら倒しちゃおう」



先ほどと同じようにゲーム画面を指しながら言うと、七瀬は[わかった]と短く答え、後は黙々と俺が言った内容をこなしていく。



予想通りのルートでやってきた敵を倒した後は、移動を始める味方に付いて行っていた。



「ごめん、この辺で一応周囲をぐるっと見渡してくれない?」



七瀬は突然の俺の言葉に驚きつつも、言われた通りに画面を動かす。



「敵がいる、ここの岩の裏側。

味方が近いから目印ピンうった後、当たらなくても良いから撃って。

意識をこっちに向けるから」



ゲーム画面で岩と味方を指しながら話したが、味方が離れ過ぎているので、あまり状況が良くない。



七瀬は頑張って撃っていたが、仲間の一人がやられてしまった。



「まずい、一回引こう。

ちょっと引いて、振り向いて敵を撃って、また引いてね」



七瀬はここでも黙々と、俺が言ったことをこなしている。

すごい集中力だ。



残った味方と一緒に、少し離れた場所にあった建物の中に入る。

先ほどのチームはまだ追いついていないようだ。

七瀬が慌てて体力の回復をしていると、足音がした。



「まずい、一旦隠れて!」



瞬時に七瀬は回復を止め、奥に移動したが味方は動いていない。

次の瞬間にはバババーッと銃声が聞こえた。



この状況は、今の七瀬にはきついだろうな。



そう思うと同時に敵が三人現れ、撃ち負けてしまった。



フーッと七瀬が一息つきながら、ヘッドホンを外す。



それに合わせるように俺もヘッドホンを外し、七瀬に声をかけた。



「ちょっとチームの連携が良くなかったね。

でも七瀬の動きは良かったと思うよ」



話しながら七瀬を見ると、珍しく大人しい。

かなり集中してたから疲れたのかな?



少し気になったが、こちらも気持ちを立て直したい。



「ちょっとトイレ行ってくるね」



二人に声をかけ、トイレに逃げこんだ。



フーッと深く一息つく。



……なんで七瀬って、あんな良い匂いするんだろ。



途中で気づいてからは、半分ぐらい意識が七瀬に向いてしまった。

そのせいでアドバイスができず、指示ばかりしてしまった。

反省しなくては。



気持ちを落ち着かせていると、スマホが鳴った。

誰からかと思えば、有村からだった。


何事かと思い、メッセージを開く。


《さっきので

隼人はやとくんとの距離が近いから、ドキドキしちゃって集中できない》

ってリサが言ってるから、その辺気をつけてあげてね》



え、そんなこと言われたら俺もドキドキしちゃうんですけど……。




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