第29話:勇気を出して誘ってみた

私服を見るチャンスか。



休みの日に会うしかないよな。

……どうしよう。


こちらから誘うのか。

誘ってくれるのを待つのか。


誘うとしたら、どんな口実が良いのか。



ボーっと考えていたら、けっこう遅い時間になっていた。



今日は配信は無しにしよう。

ゆっくり休んだってことにして、明日は体調万全アピールをするか。





次の日も、七瀬は心配そうに話しかけてきた。



「今日は体調はどうなの?

昨日は配信もしてなかったし、ゆっくり休めた?」



やはり配信はチェックしていたか。

休んだアピールは使えそうだ。



「昨日はしっかり休めたから、もう体調はすっかり良いよ。

心配かけてごめんね」



少し大げさに体を動かしながら答えると、七瀬は[良かったー]と言いながら自分の席へ戻っていった。



……思ったよりアッサリしてるな。

もっと、こう……、何かあるだろ。



[まだ無理しちゃダメだよ]とかさ。



ただ、前はこんな感じが普通だった。

[心配される]ってのを一度味わってしまうと、ダメだな。

欲が出てしまう。



少しガッカリした気分で午前中はすごした。





昼休みになると、七瀬がいつもと同じ雰囲気で話しかけてきた。



さかきが最近ちゃんとした動画をあげてくれないから、FPSの勉強ができてないのよねー」



さすがにまだ[隼人はやとくん]とは、直接は呼ばないか。

まぁ心の準備ができてないから、今呼ばれても困りはするが。



俺が答えようとすると、それよりも先に有村が話しだした。



さかき以外の上手い人の動画は観たりしてないの?

他にもいっぱいいるでしょ?」



確かにそうだ。

だいたいの人は、お気に入りの配信者が数人いる。



七瀬は何人ぐらいお気に入りの配信者がいるのかな。

俺の他には、どんな人の動画を見ているのか知りたい。



気になっていると、意外な返事が来た。



「今はさかきの動画しか観てないわよ。

前は検索して有名な人のを観てたけどね。

あんまり色んな人の動画を観ると、プレイスタイルがぶれちゃうかなーって思って」



地味に嬉しい。



[俺だけに一途]と変換して考えると、非常に嬉しい。



気持ちを抑えることができず、ニヤニヤしている所を七瀬に見られてしまった。



「なに?嬉しそうじゃない。

そんな訳だから、ちゃんと動画載せてよね」



もっと色々言われると思ったが、七瀬はそれだけしか言わなかった。



[ここしかない!]と思い、昨日から考えていたことを口にした。



「ねぇ、今度の日曜日って何か予定ある?

特に予定無いなら、あのゲームカフェでまたゲームしない?

直接の方が教えられることも多いだろうし」



昨日の夜、何度も何度もこの台詞を言う練習はした。



しかし、緊張したせいで、思ったよりはサラッと言えていなかった。


それでも、自然な感じで言えたと自分では思う。



反応を伺うために七瀬を見ると、嬉しそうな笑顔だった。

それを見て安心していると、笑顔が急に真顔になった。



何があったんだ?

安心が不安に変わる。



どうしようかと思っていると、七瀬がまた笑顔になり、話しだした。



「いいわね、私は日曜日空いてるわよ。

ミユキはどう?」


「私も大丈夫だよー。

何時からにしよっか?」



七瀬の問いに有村が答えると、そのまま二人で話しこんでしまった。



(誘ったのは俺なのになー)



二人の会話に口を挟めず、眺めていると昼休みが終わる時間が来てしまった。


「まぁ当日の細かい内容はメッセージで送るから」


七瀬の一言で昼休みが終わった。





夜に部屋でまったりしていると、今日の行動の達成感がこみ上げて来た。


ちゃんと自分から誘えた。

言う台詞を事前に練習したかいがあった。


そして、これで七瀬の私服を見ることができる。



良い気分のまま、有村スパイにいつもの連絡をする。



《今日は何かありましたか?》



数分しない内に返事が来る。



《日曜日の件、リサすごく嬉しそうだったよー。

『最初二人でのデートに誘われたと思って、舞い上がっちゃった。

そのあと、勘違いに気づいたから恥ずかしかったんだけどね』

とか言ってたよ。


あれ、もしかして私邪魔かな?》


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