第29話:勇気を出して誘ってみた
私服を見るチャンスか。
休みの日に会うしかないよな。
……どうしよう。
こちらから誘うのか。
誘ってくれるのを待つのか。
誘うとしたら、どんな口実が良いのか。
ボーっと考えていたら、けっこう遅い時間になっていた。
今日は配信は無しにしよう。
ゆっくり休んだってことにして、明日は体調万全アピールをするか。
◯
次の日も、七瀬は心配そうに話しかけてきた。
「今日は体調はどうなの?
昨日は配信もしてなかったし、ゆっくり休めた?」
やはり配信はチェックしていたか。
休んだアピールは使えそうだ。
「昨日はしっかり休めたから、もう体調はすっかり良いよ。
心配かけてごめんね」
少し大げさに体を動かしながら答えると、七瀬は[良かったー]と言いながら自分の席へ戻っていった。
……思ったよりアッサリしてるな。
もっと、こう……、何かあるだろ。
[まだ無理しちゃダメだよ]とかさ。
ただ、前はこんな感じが普通だった。
[心配される]ってのを一度味わってしまうと、ダメだな。
欲が出てしまう。
少しガッカリした気分で午前中はすごした。
◯
昼休みになると、七瀬がいつもと同じ雰囲気で話しかけてきた。
「
さすがにまだ[隼人はやとくん]とは、直接は呼ばないか。
まぁ心の準備ができてないから、今呼ばれても困りはするが。
俺が答えようとすると、それよりも先に有村が話しだした。
「
他にもいっぱいいるでしょ?」
確かにそうだ。
だいたいの人は、お気に入りの配信者が数人いる。
七瀬は何人ぐらいお気に入りの配信者がいるのかな。
俺の他には、どんな人の動画を見ているのか知りたい。
気になっていると、意外な返事が来た。
「今は
前は検索して有名な人のを観てたけどね。
あんまり色んな人の動画を観ると、プレイスタイルがぶれちゃうかなーって思って」
地味に嬉しい。
[俺だけに一途]と変換して考えると、非常に嬉しい。
気持ちを抑えることができず、ニヤニヤしている所を七瀬に見られてしまった。
「なに?嬉しそうじゃない。
そんな訳だから、ちゃんと動画載せてよね」
もっと色々言われると思ったが、七瀬はそれだけしか言わなかった。
[ここしかない!]と思い、昨日から考えていたことを口にした。
「ねぇ、今度の日曜日って何か予定ある?
特に予定無いなら、あのゲームカフェでまたゲームしない?
直接の方が教えられることも多いだろうし」
昨日の夜、何度も何度もこの台詞を言う練習はした。
しかし、緊張したせいで、思ったよりはサラッと言えていなかった。
それでも、自然な感じで言えたと自分では思う。
反応を伺うために七瀬を見ると、嬉しそうな笑顔だった。
それを見て安心していると、笑顔が急に真顔になった。
何があったんだ?
安心が不安に変わる。
どうしようかと思っていると、七瀬がまた笑顔になり、話しだした。
「いいわね、私は日曜日空いてるわよ。
ミユキはどう?」
「私も大丈夫だよー。
何時からにしよっか?」
七瀬の問いに有村が答えると、そのまま二人で話しこんでしまった。
(誘ったのは俺なのになー)
二人の会話に口を挟めず、眺めていると昼休みが終わる時間が来てしまった。
「まぁ当日の細かい内容はメッセージで送るから」
七瀬の一言で昼休みが終わった。
◯
夜に部屋でまったりしていると、今日の行動の達成感がこみ上げて来た。
ちゃんと自分から誘えた。
言う台詞を事前に練習したかいがあった。
そして、これで七瀬の私服を見ることができる。
良い気分のまま、
《今日は何かありましたか?》
数分しない内に返事が来る。
《日曜日の件、リサすごく嬉しそうだったよー。
『最初二人でのデートに誘われたと思って、舞い上がっちゃった。
そのあと、勘違いに気づいたから恥ずかしかったんだけどね』
とか言ってたよ。
あれ、もしかして私邪魔かな?》
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