第19話:このスパイは優秀なようです

「三人でって、もしかしてもうゲーム機買ったの?」



思わず尋ねてしまった。

有村が[ゲームを買う]と宣言したのは、昨日だ。



俺の驚きなど気にする様子さえなく、

有村はあっけらかんと答えた。



「うん、昨日の帰りに買って、ゲームもダウンロードしたよー。

ちなみにもう何回か一人でやってみたし」



思い立ってから、行動に移すまでが早すぎる。

これがアホの娘クオリティなのか。



「えー、早ーい!

早速ミユキともやれるなんて嬉しいな。

今日何時からやるー?」



七瀬が喜びながら賛同している。

……この感じ、俺には拒否権は無さそうな気がする。



さかきもやるわよね?

あ、武器縛りはちゃんと継続しててよね。

後から動画観て、確認するから」



予想が的中した。

まだ返事もしてないのに、やる前提の追加注文まで入っている。



まぁ、どっちみちやるつもりだったんだけどね。





その日の夜、約束の時間のちょっと前に有村にメッセージを送ることにした。

今日のリーク内容確認だ。



《有村先生、今日は七瀬は俺のことで何か言ってましたでしょうか?》



……返事がなかなか来ない。

昨日はすぐ返事が来たのに。



早くしないと、約束の時間が来てしまう。

何度も時計を見ながら焦っていると、ギリギリのタイミングで有村からの返事が来た。



《ちょうどさっきまでリサと話してたよー。

なんか何回も

『頭を狙って当てられるさかきは、やっぱりすごい』

って言ってたよ。それと、

『今日の動画を後で観るの、楽しみだなー』

ってなんか嬉しそうに言ってたよ》




(それを直接俺に言ってこいよー!!)



メッセージを読みながら、たぶん半分ぐらい口から漏れていた。



昼休みのあの場では、そんな素振りは微塵みじんも感じさせなかった。



動画に関しては、[確認しとく]とかサラッと言っていたのに。

[確認しとく]と[楽しみにしてる]は、けっこうな差があるぞ。



何はともあれ、今回も素晴らしい情報だ。

報酬は奮発してやらないと。




有村に返事をしようとしたが、約束の時間が来てしまったようだ。

七瀬からパーティの招待が飛んできた。



時間ピッタリに招待来るとか、[待ってました!]って感じだな。

そこには気が回らない七瀬が、なんだか可愛く思えた。



「ミユキもさかきも準備は大丈夫?」



七瀬の楽しそうな声がする。



「こっちは準備オッケーだよー」



有村が返事をする。

たった一日で使いこなしてる感があるのは、正直すごい。



「俺もオッケーだけど、気をつけて欲しいことが一つある。

この後動画配信を始めるんだけど、お互い本名呼びとかリアルバレすること言わないように、一応気をつけてね。

七瀬は[りさまる]で、有村は[みゆきち]ね。俺は[コルレオーネ初号機]だから」



そう二人に告げると、



「一人だけ名前長すぎでしょ」



有村がボソッと言った。



うん、知ってる。

ごめん。



ちょっとしょげていると、七瀬が慌て気味に言った。



「あ、武器縛りの件なんだけど、今日はライトマシンガンでお願いね。

あの銃けっこう好きなんだけど、すぐ弾が無くなっちゃうのよ。

お手並み拝見といきたいわね」



お手並み拝見ねー。

えらくツンツンした言い方するじゃないか。



だがしかし、こっちには有村スパイがいるんだ!

七瀬が実は動画を楽しみにしていることはバレてるんだぞ。



あれ、なんかこの状況楽しい。

手の上で転がされてるフリして、実はこちらが転がしてる感じがする。




一人でニヤニヤしながら、動画配信の準備をした。

あとはスタートを押すだけだ。



「じゃあ今から配信始めるからよろしくね。

配信向けに俺が話す内容はスルーしてくれていいから」



そう念押しした後、スタートボタンを押す。



配信時間の秒数が進んだことを確認し、動画用の挨拶を話し始めた。



「こんばんは、今日はライトマシンガン縛りでやります。

更に、今回は珍しく俺以外は女の子です。

では、始めていきます。

よろしくお願いします」


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