第17話:有村ミユキは決意した

「七瀬ってさ、そんなに俺の動画の話してるの?」



平静を装いながら、それとなく有村に尋ねてみた。



「あー、なんか

過去動画アーカイブをもう一度見て回ってるんだー』

とか言って、よく話してるよ」



こちらも見ずに素っ気なく言った。

どうやらスマホでの調べ物が忙しいらしい。



(……まじか。

もう一度ってことは、一回全部観てるのかな?

けっこう量あるはずだぞ?

二周目を観て回るとか、俺の大ファンじゃん)



有村がスマホに集中してるのをいいことに、思いっきりにやけてしまった。



そうか、身近に俺の動画の大ファンがいたなんてな。

しかもそれが七瀬だ。クラスのアイドルだ。



二重の意味で嬉しい。

あぁ、喜びが止まらない。



「え、なんでニヤニヤしてるの?

ミユキはスマホ見てるだけなのに」



その一言で喜びが止まった。



視線を上げると、普段通りの様子で七瀬がいる。

まさかこんなに早く帰ってくるとは。



さっきまでは珍しく照れていたのに、もう普通に戻るなんて。

ちょっと残念だ。



ただ諦めるには早い。

揺さぶりをかけてみよう。



そう思い、先ほど仕入れた情報を言ってみる。



「なんか最近俺のアーカイブ動画をまた観て回ってるらしいじゃん。

そんなに面白い?俺の動画」



ふっふっふ。これでどうだ。



え、なんで知ってるの!?

さてはミユキだな?

もー、なんで言っちゃうのよー



こんな感じで慌てて欲しい。

それを俺がニヤニヤ顔で眺めてやる。



さあ、来い!



そう思っていると、



「あー、勉強になるかなーって思ってね。

でもさかきの動画って、あんまり解説は入れないから参考にはなってないかなー」



逆に俺がダメージを受けるような台詞が飛んできた。

ボクシングのカウンター受けたときって、こんな感じなのだろうか。



くそっ、いつも通りすぎる。

さっきまでの、照れてる七瀬は幻だったのだろうか。

そんな疑問さえ湧いてきた。



だが、俺はまだやれる!

反論をしよう。



「あのね、それも意味があって……」



「よし決めた!ゲーム買う」



俺が話しだした途端、有村が話を遮ってきた。

本日二度目、通算二度目だ。



「私もゲーム機買って、そのゲームやることにするね。

ソフトはタダなんだね、知らなかった」



やや興奮気味に言った有村に、[一緒にできるねー]と七瀬が喜んで話しかけている。



なるほど、さっきはスマホでゲーム機の値段を調べていたわけか。

このゲームをやるために買うとはなかなか思い切ったものだ。



……[やった方が楽しいよ]って俺が言ったときは、反応薄かったのに。



でもゲームカフェの件や、俺の動画を観たこともあって、[やろう]と思ってくれたんだろう。

そこはなんだか嬉しいな。



嬉しいけど、俺の会話をさえぎって話しだすのはもう止めてください。



目の前の二人はまだ盛り上がっていたが、有村は何かに気づいたようにこちらを見て、



「三人でもやれるじゃん」



そう一言話した。



確かにそうだ。

そうなると、[パーティ全員がリアルの友達]という状況に、初めてなる。



それも楽しみだな。



昼休みも終わりそうなので自分の席に戻ろうとしたとき、有村に呼び止められた。



「連絡先教えておくれー」



そう言いながらスマホを振っている。



(ギリギリに言うなよ。

マイペースだなー)



そうは思いつつ、ゲーム友達が増えた嬉しさの方が断然強い。

ニコニコ顔で連絡先を交換した。





その日の夜、早速有村からメッセージが届いた。



ゲームの話かと思い確認したが、中身は違っていた。



《なんか[動画観てるのバラしちゃダメ]ってリサに怒られちゃったんだけどー。

さかきのせいだー、呪ってやる》



……呪いってなんだよ。



あれ? でもなんで七瀬が怒るんだ?




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