第16話:こっち来なよ

(それは内緒にするって言ったじゃないですか、七瀬さーん!!)



そうアピールしようとしたが、もはや手遅れだ。



くそ、昨日感謝した分を返して欲しい。

盗み聞きクンとして、今日か明日にはクラスに広まっていってしまうのか。



うなだれながら考えていると、七瀬がニヤニヤ顔のままこちらに迫ってきた。



さかきもこっち来なよ」



……予想外の台詞に頭がついていかない。



ポカンとしていると、腕をグッと引っ張られ、そのまま連れて行かれた。



「えっ。ちょっと。待って」



思わず声が出たが、七瀬は引っ張って行くのをやめない。



慌てる俺をチラッと見て、少し笑いながら言った。



「せっかくミユキとも仲良くなったのに、なんで聞いてるだけなの?」



いきなり会話に混じっていく勇気などない。

そう反論したかったが、その前に目的地に到着した。



「はい、いらっしゃいませ。

これで会話ができるね」



目の前の有村が少し冗談っぽく言う。



「てか、あんな小さな声でも聞こえるなんてねー。

耳良すぎじゃない?」



七瀬も少し冗談っぽく言う。



何か返事をしたいが、状況把握が追いついていない。



さっきまで普通に自分の席に座っていた。

今は横にクラスのアイドルがいる。

しかも、仲良さそうに話しかけられている。



そして、腕はまだしっかり握られている。



(……あれ、なんでまだ腕を離してないの!?)



状況は理解できたが、とんでもない状況のようだ。



[盗み聞き]から、[手を繋いでいる]に進化している。

握られているのが手なのか腕なのかは、誤差だ。些細な違いだ。



周りから、[すごく仲良し]ぐらいには見られるかもしれない。



(嬉しいけど、ちょっといきなり過ぎないかな。

でも、まだこのままがいいな)



願い始めた辺りで、スッと七瀬の手が離れていった。

残念に思いつつ、飛んでくるであろう言葉に身構える。



なんでここにいても聞くだけなのよ?



そんな感じの台詞が来ると予想した。

……しかし、何も言わない。



どうしたのかと七瀬を見ると、今までに見たことの無い表情をしていた。



しかも、顔がほんのり赤い。



(あれ、もしかして照れてる?)



七瀬に直接聞いてみたかった。

しかし、もし違った場合は俺の立場が更にヤバくなる。

何も言わないのが得策だろう。



そのまま俺も七瀬も何も話さないので、その場はなんとも言えない空気になっていた。



それを変える為なのかは知らないが、有村がとんでもないことを言いだした。



さかきって本当にMだったんだね」



思わず有村の方を向く。



「え、なにそれ。どこ情報なの?」



動揺しながら尋ねると、



「リサ情報だよ。

さっきもリサの言う通りにニヤニヤしながら見てたら、なんか嬉しそうに悶もだえてたじゃん」



サラッと答えた。

予想通りの人物が発信源だ。



隣の発信源さんの方を見ると、俺の動きに合わせて七瀬もそっぽを向いた。



しかもその後[ちょっとお手洗いに]とか言って逃げていってしまった。

なんか急にキャラ変わってないか?



七瀬を追いかけようとも思ったが、今は有村の誤解を解く方が優先だろう。



「あのね、俺は別にMとかじゃなくてね……」



「そんなことよりさー」



俺が話しだした途端、有村が話を遮ってきた。



「そんなことよりさ、あのゲームって観てるよりやった方が面白いかな?

昨日のさかきの説明聞いたら楽しそうな感じしたし。

リサも最近はゲームの話か、さかきの動画の話ばっかするんだよね」



(その質問って、俺の話をさえぎってまでやる必要ある!?)



漫才のツッコミのような勢いで言ってやりたかったが、グッとこらえた。

せっかく有村も興味を持ってくれたようだし。



「観るのも楽しいけど、やっぱり自分で操作する方がもっと楽しいよ」



そう答えると、有村は[へー]と感心していた。

話を遮ってまで聞いたのに、反応薄すぎないか。



……それより、さっき最後になんて言った?



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