第10話:これは初デートだよね?

(デートなのかなー……)



(もしデートだったら、おれの初デートってことになるな……)



(初デートの相手があんな可愛い子だなんて……、俺の時代が来たなー)



午前中は何の授業を受けたか覚えていない。


窓の外と、斜め前に座る七瀬。

それらを交互に見ながら妄想し、ただひたすらニヤニヤしていた。




周囲の視線など気にならなかった。

なにせ今日から俺は勝ち組だ。




昼休みになり、今日もいつも通り七瀬と有村が話している。


俺もいつも通り盗み聞きを始めた。




(今日はゲームの話はしないのか……)



そう思っていると、突然会話が止まった。



気になるが、直視するとバレるかもしれない。


視界の端ギリギリで七瀬達が見えるように顔を上げていくと、




イジワルそうにニヤつきながら、こちらを真っ直ぐに見つめる七瀬がいた。



(ヤバい!)



首がちぎれる勢いで視線を反対側に動かした。



「リサ、どうかしたの?」



「んー、ちょっと楽しいこと思いだしてねー」



そんな会話が聞こえてきたが、ドキドキが止まらない俺にはそちらに集中する余裕は無い。



落ち着く間も無く、次はスマホが鳴った。

驚きでビクッと体が動く。


……首の次は心臓がやられるかと思った。



(こんなときに誰だ!?こっちは今ピンチなんだよ)



焦りながらスマホを見ると、



《今日はゲームの話しないのかなー?

とか思ってるんでしょ?》



七瀬からのメッセージだった。




……エスパーかっ!!??



思わず七瀬の方を見ると、ニヤニヤ顔の小悪魔とバッチリ目が合ってしまった。



(なんで見てるんだよ!?)



また首がちぎれる勢いで視線を反対側に動かした。

……ピキッとどこかの筋が伸びた気がしたが、しょうがない。


伸びた筋より、何故俺の思考が七瀬にバレたかが問題だ。




昨日は名探偵だったが、今日はエスパーか。

一日に一つ何かの能力が授けられる体質なのか?



首をさすりながら考えていると、またスマホが鳴り七瀬からメッセージが届いた。



《今日はいつもと違って、ゲームの話は放課後にいっぱいできるからね》




(可愛いやつ来たー!!)



違う意味でドキドキしてきた。

ニヤニヤが止まらない。




手で口元を押さえるといつもより顔が熱い気がする。

ヤバい、顔赤くなってるかも……



(俺といっぱいゲームの話をするのを、楽しみにしてるってことだよな)



あぁ、これは絶対デートだ。

間違いない、100%だ。

だって楽しみにしてくれているんだから。




今度はゆっくりと視線を七瀬に向けると、こちらに向かって優しい笑顔で微笑む女神がいた。



あまりの可愛さに見つめ続けることができず、視線を逸らしてしまった。




先ほどまでと比べて一層顔が熱くなる感じがする。

しばらく顔は伏せておいた方が良さそうだ。



今日の初デート、七瀬に楽しんでもらえるよう精一杯頑張ろう。

そう強く思った。







放課後、そのまま一緒にゲームカフェまで行くのかと思ったが、現地集合になった。

どうやら急用が入ったらしい。



《ごめん、ちょっとだけ遅れるから先に行ってて》



そんなメッセージと[謝っているスタンプ]が送られてきた。



相変わらずメッセージも可愛い。


そして、全然問題無い。

むしろ好都合だ。



[ごめん、待ったー? → いや、今着いたところだよ]



このテンプレやり取りができる。

一度女の子相手にやってみたかった。



(ちょっと小走り気味で、でも嬉しそうな感じで来るのかな?)



妄想がドンドン膨らんでいくが、これも問題無い。

七瀬が到着するまであと15分はある。



(俺がちょっとスネてみるパターンや、隠れていて驚かすパターンとかもできるな)



どれが良いか悩んでいるとスマホが鳴った。



《ごめん、もうすぐ着くよー》



七瀬からのメッセージだ。



どのパターンが良いか結論は出なかったので、結局王道パターンにすることにした。

特に用も無いが、スマホで何やら見ているフリをしつつ待った。



「ごめんごめん、お待たせー」



声を聞いて顔を上げると、手を振りながら歩いて来る七瀬がいた。




……あと横に有村もいた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る