第7話:何から何までバレました……
……あぁ終わった、終わってしまった。
……俺の学生生活が。
……明日から俺のあだ名は[盗み聞き君]になってしまう。
表情は固まったまま、明日からの学生生活に脳内で別れを告げていると、七瀬が再び小悪魔のような笑顔のまま話しかけてきた。
「ねぇ
それとも、昨日みたいに[初号機さん]って呼ばなきゃダメなのかな?」
あぁやはり手遅れだ。
今から否定したとしてもおそらく疑念は晴れないのだろう。
(しかしやっぱり七瀬は可愛いな)
(面と向かい合ってちゃんと見たのは初めてだけど、他の子とはレベルが違うよな)
(この見た目でしかも会話も楽しいとかもう卑怯だよ)
美しい物を眺めながら現実逃避に勤しんでいると、眉をしかめた七瀬がちょっと不機嫌そうに言った。
「ちょっと着いてきて」
嫌です。
と言える訳も無いので、とりあえず着いて行くことにした。
七瀬と二人で歩くのはこんな状況じゃなかったらすごく幸せなんだろうが、今は断頭台に向かっている囚人の気持ちだ。
「あのー、七瀬さん?
さっきから初号機さんとか言ってますけど、何のことですか?
今どこに行ってるんですか?」
悪あがきでこんなことを言ってみたが、七瀬はこちらをチラッと見て軽く笑うだけだった。
ダメだ。こっちの話なんかまるで聞くつもり無さそうな感じだ。
(神様、明日から善行を積んでいきますので、どうにかこの状況を打破するアイデアを授けてください)
……何も思いつかない。
八百万の神とか言っていっぱいいるのに、今はみんな忙しいらしい。
(盗み聞き君だから、ヌッキーとか呼ばれたりするのかな……)
ポジティブなのかヤケクソなのかわからないことを考え始めた辺りで七瀬が止まった。
どうやら目的地に着いたようだ。
足元しか見てなかったから、顔を上げたときに初めて現在地がわかった。
部活棟の空き教室前だ。
うながされて中に入る。
放課後。
誰もいない教室。
可愛い子と二人。
シチュエーションは最高だ。
不覚にもドキドキし始めていた。
真っ直ぐ七瀬を見つめる。
七瀬もこちらを見つめ、そして口を開いた。
「ねぇ、歩くときあんまり私の脚ばっか見ないでくれない?」
ズバッと死刑が執行された。
そうだ、ここは断頭台だったんだ。
謝ろうとあたふたしていると、それを遮るように七瀬が話しだした。
「あ、違った。そんなこと言うためにここに連れてきたんじゃなかった。
ねぇ、キミが[初号機さん]なんでしょ?
内緒にしといてあげるから正直に言いなよ」
[内緒にしといてあげるから]
なんて良い響きの言葉なんだ。
でも誰にも言わない保証は無いんだ。
ここはシラを切らないとまずい。
(だから初号機さんって何のこと?)
と言うつもりで、[だ]まで言った時点でまた遮られた。
「昼休みに私とミユキの会話をよく聞いてたでしょ?
あれバレてたよ?」
膝から倒れ込みorzのポーズになってしまった。
(こんにちは、僕ヌッキー。ハハッ)
甲高い声が脳内で再生された。
ついに幻聴まで聞こえてきた俺をよそに、七瀬は話を続ける。
「ミユキは気づいてなかったみたいだけどさ、こっちの会話に合わせてあんなに表情変えてたら気づくって。
今全部白状すれば、これも内緒にするんだけどなー」
(……表情出てたんかい!?)
自分の表情筋を恨んだ。
あぁでも良いんだ。今白状すればこの小悪魔の顔をした菩薩が全てを許してくれるはず。
「はい、全て七瀬さんの仰る通りでございます……」
生気が抜けた、か細い声で返事をした。
「やっぱりそうだったんだー。人の会話を盗み聞きして悪い人だねー」
菩薩などいなかった。
そこには今日一番楽しそうな顔で笑う可愛い小悪魔がいるだけだった。
続けて小悪魔は
「罰として私の願い事を聞いてもらおうかなー」
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