鼻持ちならぬキング

 特異体質の魔法使いとは、普通の魔法以外の魔力を持っているもののことをいうんだけど、簡単に言ってしまえばその種族特有の能力みたいなもので。生まれつきの能力みたいな感じ。


 たとえば、水の土地の長といわれているドラゴンの一族がそうだ。彼らの一族は他のドラゴンとは違い、透き通るような水色の鱗を持っている。おそらくその鱗がジュエルのような役割をしているのだろうと言われているが、第3の世界では水の土地のドラゴンが空を飛ぶと雨が降る。


 こんなふうに、特異体質の正体は大体ジュエルの力が関わっているということを最近知った。



 だから、保護施設ジャックブレイカーにいた不思議な能力を持つ生き物たちは、たぶんみんな何かのジュエルを継承している生き物たちなんだろう。



「ということはですよ、ジュエルの力を抑えるジュエルということでしょうか」


「単純に考えるとそうだよな。でも、それだとあの時に起きていた現象がよくわからない」


「確かにそうですね。ギンガさんがあの石に触ったら、一瞬僕の体は元に戻ったし。何か違う力が働いたみたいでした。」


「そうなんだよなぁ。お前は、はじめは危険な感じだったが、俺が触った後はもう大丈夫な感じになったみたいな事を言ってただろ?だから余計、俺と何か関係があるんじゃないかって調べてたらしいんだがな。そもそも俺の力がジュエル由来のものなのか今まで持ってなかったからわからないし、なんでそれがあの場所にあったのかって話だな」



 そんなときに、ジュエルは忽然と姿を消した。自分で動けるものではないから、正確にはなくなっていたというのが正しいけど。


 レリオンは毎日研究の成果を国に報告していたから、どんな能力なのかという仮説も国王の耳に入っていて、そのジュエルの力にかなり期待されていたようだった。

 てか、報告とかしてたのか。国王とか、議会の人が知ってるなら、そっちの方が怪しくない?


 というようなことを話しているうちに、地面に銀色の魔法陣が浮かび、出てきた扉からシマが戻ってきてしまったためその話はそこで終わってしまった。


 どうやらギンガさんもシマのことは固い奴だと思っているようで、続きはまた今度話そうと言ってその日は寝床に入った。




 次の日。


 僕は、何となく何かが起きそうな気がしたから、一応シマに言ってみると、やはりそうですかと、意味深な返事が返ってくる。


 どうやらギンガさんの「目」からも、ジュエルの映像が見えていたようで。その時の情報ではこの近くの第2地区にある古い塔が見えたらしい。僕たちは密林を歩き、水の地区とされる第3の世界の北側付近に来ていた。


 この地区は、名前の通り水っぽい。たくさんの池や滝があり、ジメジメしている。そのためあまり生き物は住みつかず、昔から住んでいる伝説の生き物や古い建物が多く残されている地区だった。木々が密集していた森を抜け、地面が乾いた土ではなく苔の生えた弾力のあるものへと変わる。



「やはりおかしいですね。水の地区なのに空が見えています。今までこの地域はこんなに晴れたことはないはずです」


 4大ジュエルと呼ばれる『火・水・風・大地』の力を持つジュエルは、それぞれ同じ力を出し合い、第3の世界の均衡を保っていると言われている。


 水の地区はその昔、神によってジュエルとなった水を操る種族の長がどこかに祀られているという地区だ。この地域にはいつも雲がかかってジメジメしているが、今日は学校や街がある中央区のように青い空が見えていて、気持ちのいい天気だった。


「これも、そのなくなったジュエルの力のせいだとしたら……4大ジュエルにも作用する力ということか。厄介だな。きちんと継承者を見つけてコントロールさせないと、この世界がめちゃくちゃになる」


「それにいちばん近いのはギンガくん、君なのですよ。レリオンはいま議会に審議にかけられて身動きできない状態です。ジュエルの存在を知らない魔法使いたちが、この気候におかしいと思い始める前に、私たちでなんとかするしかありません」


「やはりレリオンに疑いがかかったか。どうせ俺たちにも監視がついているんですよね?」


 ギンガさんがそういうから僕は辺りを見回してみた。何にも変わりはない。


 僕たちは広い湖のような場所にいた。

 よく晴れているおかげで、水がキラキラと反射している。透明な水が打ち付ける岸辺には、緑色の丸い塊がふわふわと漂っていた。



「アランくん。別に人がその辺から見ているわけではありません。このボードを私たちが持っている限り、あちらには私たちの会話も筒抜け、行動もすべて見ることができます。このボードの交信が途絶えたら、裏切りとみなすと昨日も釘を刺されてきましたよ」


「裏切りって!僕たちはこんな地道にオーラをたどっているのにそういう扱いなんですか」


「私たちは試験に合格して議会の一員になったのではありませんからね。センチュリーはある能力に特化した生物の寄せ集めです。魔力は高くても頭が空っぽの物もざらにいます。一応、国の諜報機関という位置付けではありますが、今の国王の元では対等に扱ってはもらえないのですよ」


「要するに、試験に合格した頭がよくて国王の言うことを聞くやつしか今の議会では信用されないってことだ。レリオンはあんな感じで素直に国王の命を聞く性格でもないし、長の書も国に預けろという議会の意見を長年無視してきたから余計うまくいってないんだな。国王にとって、このジュエル紛失の事態はレリオンを拘束するいい機会になった」


「そういえば、今の国王って、確かシマさんの親戚みたいなものじゃないんですか?」



 国王は議員の中から選ばれるんだけど。議員の中でも派閥があって、今の国王は何代も続く名家の大富豪。従って、親もその親も国王。


 お金で議員の票を買いその椅子に座り続けている一族だった。あまりいい政治家とは言えないよね。


 シマの親戚みたいなものだというのはなぜかというと、国王もまた、バンパイアの血を引く一族と言われていたから。


 ただ、ジャックブレイカーと今の国王エスペリアンの一族は昔から仲が悪くて、施設長はエスペリアンの血筋を毛嫌いし、互いにライバルとして生きてきたらしい。何がライバルなのかはよくわからないけど、国王の話題がでた日は施設長の機嫌は最悪で恐ろしい思いをしたのを思い出す。



「親戚というと語弊はありますが、元をたどれば吸血鬼に行きつきますからね。私はエスペリアンに負けるなと言われて育ちましたが、結局彼らの下に付くような仕事に就いたため父はとてもがっかりしていらっしゃいました」


「でも、施設長が嫌うのもわかります。アイツらは昔からの金持だし。ひねくれてるし。ジャックブレイカーはそんなぜいたくな暮らしはできなかったけど、俺たちは本当に感謝してるんです。施設長に」



 そうだった。


 保護施設ジャックブレイカーは捨て子の集まりだ。多くの施設が親からお金を受け取って子供を引き取るのが当たり前になったこの世界。たくさんの種族が集まったおかしな世界だから、おかしな子供もたくさん生まれる。


 おかしな子供はいくらお金を積んでもどこも引き取ってはくれない。そんな子供が最後に送られてくるのが、ジャックブレイカーだった。お金が物をいう時代、ジャックブレイカーは無償で彼らを引き取った。その施設がなかったら、僕はどうなっていたかわからない。



「まぁ、アランくんもギンガくんを見習って、ジャックブレイカーの名に恥じぬような魔法使いになっていただきたいものです。持っているものは素晴らしいのですがねぇ。なかなか引き出せないんですよねぇ」


 シマは今日もギンガさんに僕の教育方針のグチをこぼしていた。


 湖の前でたっぷりと休憩を取り、少しだけ昔話に浸った僕たちは、水の地域の長に会うためにさらに北へ進むことにした。


 やはり、時間が経っても空は晴れたまま。この地区に異変が起きているのならば、地域を束ねる者の力も必要になるかもしれないとギンガさんが言った。

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