急なフィールドワーク
「そんな、神様みたいな力あるわけないじゃないですか」
「だけど、あのジュエル変だっただろ?正直、俺もどうやって発動を止めたかわからないんだ。ただ拾っただけだ。逆に、お前がどうして俺のものだって思ったのかが知りたい」
「どうしてと言われましても……なんかそう思っただけです。よくわかりませんけど、ギンガさんが触ってから明らかに雰囲気が変わりましたもんそのジュエル」
「コイツのオーラの特性はわかったんですか?シマさん」
シマは僕に背を向けて、中央の椅子に座っているドワーフの方に歩きながら
まだです、と言った。
中央の椅子はどうやら休憩をするところのようで、今は3人のドワーフがくつろいだような体制で椅子にうずくまっている。シマはその中から先ほどボードを借りたドワーフを見つけて頭を下げていた。
このドワーフの部屋は、人間界への通行証の手続きや荷物の管理など、なんていうか区役所みたいなことをする部屋のようだった。
「ギンガさん、オーラの特性ってなんですか?」
「普通のオーラの特性はわかるよな?」
「普通のオーラって、あの3種類のオーラの事ですか?」
「質問に質問で答えるな。その3種類のオーラだ。それぞれ知・力・生の能力を持っているだろ」
「はい、すみません。僕は無色のオーラと言われましたが、どんな力なのかまでは」
「そうか。俺はなんとなく、お前は何かを抑える力か、打ち消す力のような気がするんだ。じゃなきゃ、あの強力な力が垂れ流されていた空間にいられるはずがない」
「あの時ですか?あの時の体がなくなっちゃうような感覚はやっぱりジュエルから出たものだったんですか?」
ああそうだ。と、ギンガさんは言った。そこでシマがドワーフの所から戻ってきて、すぐに出発すると言われ、僕らは天井の低いドワーフの研究室を出た。
部屋を出ると、目の前には石でできた高い城壁があった。
どうやらこの施設の出入り口のようで、外の空気と日差しが心地いい。境目なく石が積まれて、同じような石でできた四角い建物を囲っている。そういえば、久しぶりの外だ。
ここからは徒歩で行きますと、シマが言う。いつの間にかギンガさんとシマは真っ黒な戦闘用ローブを身に着けていた。
「あのーすみません。僕は服装これでいいですか?」
「あー、アランくん。これを真似して服を出して今身に着けている服と置き換えるというのは、まだ難しいですかねぇ」
「普通の着替えならできますけど、ちょっとやってみます」
と、僕は新しい服への着替えを試みた。足元が隠れる長さの黒いローブ。前にボタンがついていて……
「あー、失敗ですねぇ。最近は音を出さずに魔法を使えるようになったんですがねぇ」
結果、僕は今着ている自分の服の前部分だけを戦闘用ローブに変えていた。
「いやぁ、シマさん。これはこれで、やろうと思ってもなかなかできない技じゃないですか。怒らないであげてくださいよ」
笑いながら、ギンガさんは僕の服装を整えてくれた。後ろだけ深緑色だった僕のローブは、何事もなかったように黒くなった。
シマは、長年教育係を任されてきたが今回ばかりはどうしたものかとギンガさんに愚痴をこぼしながら、城壁の前に立つ二人のドワーフの所に歩いて行った。
彼らが身に着けているのは白衣ではなく、防弾チョッキと体と同じくらいの大きさの銃だった。なんか、普通の門番なら手に槍みたいなやつを持って立ってると思うけど、あれが銃になった感じ。
「見かけない顔だな」
大きめのヘルメットを少しずらしながら、門番のドワーフが言った。
「すみません。そのうちこの施設で働くかもしれない者ですので、私たちに免じて通してください。次の酒盛りがあったら何かいいものをご馳走しますから」
そうかそうかと、二人の門番はうれしそうに道を開けた。約束だぞと、片方が言うと
「その時はこのアランがすべておごります」
とギンガさんが僕の肩を押した。
僕はよくわからなかったけど、よろしくお願いしますと作り笑いをして頭を下げる。
ガタガタといいながら、目の前にある石の壁に穴が開いた。そこから外へ。予想通り、密林の中だった。
道はない。うっそうとした木々に囲われて、先ほどいた城壁の中で感じたような日差しはもうなかった。と、後ろを振り返ると、さっき出てきたはずの石の壁がなくて、同じような密林が広がっている。
「あんな目立つ施設が丸見えだったら狙われ放題だろ?見えなくして、近くに来たら迷うようにしてるんだよ。そういう強力な結界を張ってるんだ。だから、入るにはあそこに通じる通行口に入るしかない」
「それはきっと、関係者しか知らない通行口ですよね?誰かに裏切られましたか?」
「わかりません。ただ、いまだかつて外からあの場所を見つけたものはいません。確かに専用の通行口は一部の者しか知りません。裏切られたか、通行口を見つけられたか。または外から突破されたか……」
シマとギンガさんの会話を聞きながら密林の中を進んだ。二人とも、足が速い。
ギンガさんはなんとなく想像してたけど、シマはいつも僕の周りをコツコツと音を立てて歩き回っていただけだったから、実戦でこんなに機敏に動く姿を見てもしかしたらすごい人なのかもってちょっと見なおした。
実戦でって言っても、今僕らがしているのは盗まれたジュエルのオーラをたどっているだけ。
ドワーフから借りてきたらしい小さくて透明なボードをシマが操作して、オーラをたどりながら歩いた場所を記録している。もしかしたら急に盗んだ奴らが現れるかもしれないから用心しろと言われたけど、二人の歩くスピードについていくのがやっとだった。
シマは時々、ギンガさんに何かを聞いていた。そのたびに少し立ち止まってギンガさんは辺りを見回す。いつもは長い前髪で隠されている左目が、今は隠されていなくて、三角帽子の下で爛々と輝いていた。
盗まれたジュエルはかなり不安定だったみたいで、オーラの出具合もあまりよくないみたい。
そんな手探りの相手探しは、野宿をしながら続いた。
「素朴な疑問なんですけど」
「何だ?」
3日目の夜。
シマはセンチュリーの会議に出なければいけないということで、魔法陣で扉を召喚して一度施設に戻ったため、僕とギンガさん二人で野宿をすることになった。
野宿といっても、あの厳しい傭兵生活の時とは違い、魔法陣で扉を召喚していつでも自分の部屋に帰ることができるから、お風呂も食事も不自由なく取ることができた。
ただ、僕の場合、まだそういう召喚系の魔法も不安定だからシマの扉を借りて、彼の部屋経由で自分の部屋に戻る。めんどくさいから昨日からお風呂に入ってないけどもう限界かなぁ。
「ジュエルの能力ってどうやってわかるんですか?」
「なんだ?今、風呂の事考えてなかったか?」
「そうですけど、シマさんが帰ってきたら扉を貸してくださいって言おうと思ったんですけど。その前に、いないうちにこういうこと聞いておかないと聞きそびれるかなぁと思いまして」
はは、と、ギンガさんは笑った。
「確かに、シマさんがいるとキミにはまだ早いで終わるからな」
僕は小さくなった焚火に枝を足しながら頷いた。
「ジュエルの能力も、長の書が答えてくれる」
「またあの本ですか?」
「まぁな。で、あの本の管理をしているのがレリオンの一族だ。レリオンで何代目だったか忘れたが、長の書としっかり対話ができるジュエルを持っている。そのジュエルがあれば、本と会話ができるんだ」
「ただ物語が書かれているだけじゃなくて、会話ができるんですね。それは狙われますね」
「ある意味最強のジュエルだろ?何でも答えてくれる本の鍵みたいなもんだからな。
まぁ、さらにそのジュエルには危害を加えようというものが近寄れば殺されるっていう力もあるから、そうそう奪われることはないがな。
それで、レリオンはあのジュエルは俺の目と何か関係あるかもしれないってな」
「本にそう出たんですか?」
「それは話してくれなかった。ただ、関係があると思うと言っていた。だから研究所で石に触れたときはビビったな」
「何かあったんですか?」
「レリオンはすべてをおさめる力と言っていた。はじめは意味が分からなかったんだがな。俺の目はよく見える。これから起こる予定の事や今までに起きたこと。それがぐちゃぐちゃになって流れ込んでくるんだ。どの時代の何のことなのかもわからない、自分に全く関係ないこともな。だからあんなごちゃごちゃしたオーラなんだ」
「なんだか不便そうですね」
「そうなんだがな。コントロールする方法も身に付いたからいいんだが。あのジュエルに触ると、それがなくなるんだ」
「じゃあやっぱり、あれはギンガさんの物ですね」
「いや、俺だけじゃないんだ。特異体質の魔法使いが触ると、全員その能力が一時的に使えなくなった。どういうことだと思う?」
僕は考え込んだ。こんな時こそ頭の良さが役に立つ。
「魔法が使えなくなるんじゃないんですよね?特異体質ってことは……あぁ、なるほど。特殊な能力を持つ魔法使いは、ジュエルの継承者が多いですよね」
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