ヘブンという国
このセンチュリーという機関は国王の命令で動いているそうだ。
国王が納めるヘブンと呼ばれるこの国は、「
そんな議会が作った歴史とでもいうのだろうか。ヘブンで習うこの世界の歴史では、人間界は人同士の争いで滅び、住めない環境となった人間の世界から魔力のある生き物がこの第3の世界に移り住んだという事になっている。
「人間が住んでいた世界=今僕たちが生きている第3の世界」という事が当たり前だったが、そうではなく、人間がいる世界は滅んでなどいなく別次元にあるというのが事実なようで。
僕らが第3の世界と呼んでいるこの場所は、神様がモノを作って遊ぶ場所。この場所で作られたアースという星はのちに神様の大のお気に入りとなり、次元の違う第2の世界で永久保存されることとなった。
そのアースには、この第3の世界で生まれた生き物の中でも、特に神様が気に入った生き物が保存されて暮らしているという。
人間のいる世界は滅んでいるなんて、何でそんなウソの歴史を教えているのか深い所をまだシマには聞けていないんだけど。
長の書から読み取れた内容をまとめると、はるか昔、第3の世界では様々な生き物が暮らしていた。その中でも力を持つ人間同士が争うようになって、世界は一度、終末を迎える。
問題を起こした人間がジュエルとなり、第3の世界に祀られるようになった後からは魔力の均衡が保たれて、その力のおかげで一度壊滅した第3の世界は再び命が宿ったみたいで。
もちろん神様が作って放たれた生き物もいるだろうし、元々いた生き物が進化して生まれた者もいるのではないかとシマは言った。
独自の姿をした生物や植物、空に浮かぶ大小の惑星や、不思議な力のあるジュエルを持つ生物など。意志を持つ生き物が多くなるにつれて、領土や種族の争いごとが多くなった。そのうち力を付けた生き物たちが集まって、その領土にヘブンという名前を付けたのがこの国第3の世界ヘブンの始まりなんだって。
そんな時、第2の世界から来たというヒトが第3の世界に戻ってくる。
たぶんこのタイミングだろうと、シマが言った。
僕が読んだ長の書の内容をシマが整理して、これまで他の魔法使いたちが読んだ歴史の内容と組み合わせて考えると、その「古よりの使者」というものは度々出てくるワードなのだという。
その使者が争いを治めるカギになるような場面もあるみたいなんだけど、昔あった争いというものがどんなものだったのかは誰が本を読んでも出てくることはなかったそうで。
分かっていることは、そのヒトは、魔力の強いエルフと結婚して子供ができ、そこからいろいろな血が混じって種が反映していったとされてるんだって。
だから、この第3の世界に元々いるヒト型の魔法使いの祖先という事になるのか。
僕もヒト型だから、まぁ少しはその古の使者という人の血も混ざっているのだろうけど…何か特別な力を持っているとも思えない。
焦らずに進めていきましょう。まずは見習い魔法使いという位置で、センチュリーに属して働くようになりますが、今は自分のオーラの特性を知るところからですかねぇ。
と、シマが独り言を言った。
僕らが第3の世界と呼んでいるこの世界は、実際はどんな形をしているのか、どこにあるのかはわからない。僕たちが把握しているのは、4つのブロックに区切られた土地とその西側に広大な森があるということだけ。
実際はこの森がどこまでも広がっているかもしれないし、僕たちが行けない領域があるのかもしれない。
とにかく、神様はこの世界に自分が創ったモノを放って気に入ったら第2の世界に保存する。第2の世界がどんなところなのかは全然わからない。
ただ、第2の世界にあるアースとこの第3の世界ヘブンは、通行口と呼ばれるもので繋がっていて、魔力のある者はそこを通って次元の違う空間を行き来することができるらしい。アースはこれまで長の書~でできた情報では第3の世界とそう変わりはない。生き物が暮らしていて、緑が多い惑星だ。
そして、このセンチュリーは西の外れの森の奥にあって、その存在は国王がトップとなる議会とその周辺しか知らない。
「最初の人間の子孫という言葉は、正直今まで聞いたことがありません。ですから、古よりの使者=最初の人間というのはまだ確定ではありません。ですからさっきの本の中に出てきたヒトが、アランくんと何か関係があると確定したわけではないのでご注意を。ただ、可能性は大いにあるでしょう」
シマはそう言うと、もうすぐ会議の時間ですので今日はここまでにしましょうと立ち上がった。おなかも空いたことでしょうから、食堂を案内しましょうと魔法陣の扉に向かっていった。
これで今日は終わりか。
そうして魔法陣の扉を出ると、朝に見た風景はもうオレンジ色に染まり、いつの間にか夕方になっていた。
センチュリーの食堂というのは、学食より殺風景なところで、頼めば部屋のテーブルに料理を届けてもらうこともできるらしい。僕は好きなカレーを注文して、だだっ広いテーブルで食事をとった。
学院では国の中枢の議会で働くものがエリートとされていた。このセンチュリーという機関は国王の命で動いているという事は、議会の一部なんだろう。何の力もない僕がこんな所にいていいのかとふと思った。
僕のような、魔法がうまくない生き物は最下層と言われて、魔法をほぼ使わない商人や地形の調査員などの職業が与えられる。やっぱりこんな所にいるのは場違いなんじゃないかと思いながら僕は食事を済ませた。
これから先の事が決まったと言えばそうだけど、なんだか心細いのも事実で。
そんな気持ちとは裏腹に、一週間もすると僕の知識も格段にアップした。もともと勉強は得意だから、魔法の実戦以外で苦労することは滅多にないんだよね。あの魔方陣のドアのおかげで部屋の移動もだいぶ楽になったし。
はじめに第3の世界の扉があったあの場所は今はただの通行口のようなものになっていて、僕が手をかざせば、僕の部屋の魔法陣が浮かび上がる。
僕は3日目でやっとこれができるようになって、ドワーフの付添なしで自分の勉強部屋への移動ができるようになった。勉強部屋にも窓を作り、前よりは過ごしやすい部屋になった。
そんなある日。
僕が自分のオーラを感じ取るという極めて地味な練習をしているときだった。一日中これはつらいが、集中力を高めるにはいい練習になるから仕方ない。
「アランくん」
レリオンに呼ばれて出て行ったシマが焦った顔をして戻ってきた。
「この前のジュエルがなくなってしまいました。ギンガくんがこれから捜索に向かいます。私も上司として同行することになりましてしばらく勉強や訓練ができなくなりますが」
「あのー、それ、僕も行っていいですか?危なくなったら逃げるので」
「なんてのん気な。キミはまだ戦場に出せません」
「そんなこと言って、この前までいましたけど」
シマは返す言葉が見つからないようで、ならばすぐにここを出ますと踵を返した。
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