未知のジュエル
「ジュエルという物質は、この第3の世界に多数存在する。その物質自体が魔力を持っていて、この世界に存在することで魔力の均衡が保たれているらしい。一つでも欠ければ、よくない事が起きる」
「へぇ。この世界をまとめているのは、生物ではないただのモノって事ですか」
「そうだ。われわれ人間がこの世界に移住してくるまでは、この世界に住んでいた生物がジュエルを管理していた」
「管理?」
「そうだ。ジュエルはそれぞれ違う魔力を持っていて、一つ一つが反応しあい絶妙なバランスで力を発し続けている。膨大な力が込められた物質だ」
ギンガは帽子を深くかぶり直し、腰を上げた。
「何となくわかるだろう?魔法使いの手で勝手にジュエルの魔力を開放したり、間違った使い方をしたりすれば。今みたいに魔力の均衡は崩れる」
「はい。何となく」
僕も重い腰を上げて、ギンガと共に歩き出した。
「解放されたジュエルがどんな力を発揮するのかは未知数。だからあのじいさんを呼んでデータを取っている」
何となく、理解したような気がする。この戦争はジュエルっていう物質の取り合いなんだ。大きな魔力を持っているなら、誰だって自分のものにしたいしね。
僕ら普通の魔法使いがその存在を知らない方が、この世界のためになる。悪用されるのを防ぐために。
さっきギンガが「危険な方」って言ってたから、良い魔力と悪い魔力があるのか。ってか、処理ってどうするんだろ?
僕とギンガは、長い間待機していた国境を抜けて第15地区に入った。第15地区といっても、周りはさっきいた所と何も変わらない。密林地帯の空気はそのまま。湿っていて暑くて、植物も相変わらず鬱蒼と生い茂っている。
ただ、ジュエルから出ている何かの力のせいで、夜なのに明るい。明るいというか、青白い光で周りが覆われている。この光が周りの空気をおかしくしているのかな。どんな力なのかはわからないけど、体にはよくないみたい。
僕らは無言のまま、密林地帯を歩いた。道のない草だらけの道をギンガは進んでいく。
「あそこだな」
ギンガが足を止めた。
僕らの進んできた方向のずっと先。いっそう明るい光が見える。たくさんの植物に行く手を塞がれていて、僕らはそれらをなぎ倒しながら奥へと進んでいった。今は青白い光のせいで、それが緑色なのか茶色なのか、僕の目は判断ができなくなっているけど。
「あのー、何かと戦うんでしたら、僕は使い物にならないんですけど。あそこに行くんでしょうか?」
「行く。戦うというか、後処理だ」
「後処理?」
「あの光の周りには、おそらくジュエルを発動してしまった魔法使いが倒れているだろう。ジュエルを守ろうとした生物もいると思う」
「はぁ」
「説明は後でする。とにかく、発動したジュエルを停止すればいいんだ。そうすればこの出すぎた魔力もなくなる」
「へぇー」
「おそらくお前はジュエルに対する耐性がある」
「耐性ですか」
耐性って何だろう?
聞き返そうと思ったけど、きっとここにいること自体がそうなんだろう。
ねっとりとした空気が、体全身を覆っているようだ。呼吸はできる。でも、まるで蜂蜜の中を歩いているように、何かが身体に絡みつく。数歩前を行くギンガの足取りも、時々ふらついていて、得体の知れない見えない力に初めて恐怖を感じた。
「取り返しのつかないことになるかもしれないから、もう近づけないと思ったら無理はするな」
「分かりました。あの、質問してもいいでしょうか?」
「何だ?」
「その、ジュエルっていうモノのことを知っている魔法使いはどのくらいいるんですか?」
「国の中枢の物しか知らないはずだ。いや…はずだった。そうでなければこんな事態は起こらない」
「ですよねぇ」
「だからこの争いの本当の意味は、末端のものには曖昧にしているのだ。国でもジュエルの能力を知り尽くしたわけではない。何種類あるのかも今はまだわからない」
そんな危険なものの存在を教えるわけにはいかない。ギンガは言った。
「お前はこのジュエルの処理が終わったら、すぐに国の機関で働いてもらうようになるだろう」
「えっ?」
「オーラの事はさっきのじいさんが何とかしてくれる。彼らの種族は魔法使いの研究が大好きでな」
何をされるかは行ってからのお楽しみだ。ギンガはこんな状況なのに、何故かとても楽しそうだった。
そうしているうちに、僕たちは光の中心にどんどん近づいていた。
僕は初めて感じる大きな力に頭がクラクラした。それでも、なぜか僕は行かなくてはいけないという感じがする。ただ好奇心でそう感じているだけなのかもしれないけど。
さっきまで処理ってどうするんだろうって思っていたけど、近づくにつれて、なんだか僕はその方法を知っているような気がしてきた。
僕は一体、何を知っているんだろう。早く確かめたくて、必死でギンガの後を追う。
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