幕間

 ニューヨーク守備隊の突然の出現にモーガンが混乱をきたしていた頃、ニューヨーク集住地においても、名士層の代表格であるフェラーリ氏が、その双眸に驚きを宿していた。


「な、何かの間違いではないのか?もう一度確認してみろ」


 ニューヨーク集住地の最外縁部には、多くのサルベージ・ポットが接続されているが、つい先だって行われた部下からの報告により、フェラーリ氏は、複数のサルベージ・ポットがいずこかに消え去っている事実を知った。

 それは、全くもって予想だにしない事態であった。報告する部下の声も、心なしか震えている。


「間違いございません。大量のサルベージ・ポットが集住地から離脱しております」


「サルベージ・ポットの行方はどこだ!?」


皆目かいもく見当もつきません。目撃情報が一切ないことから、ニューヨークが泥中にあった昨晩のうちに、ポットが切り離されたものと思われます」


「泥流から行き先が予想つかんのか!?この役立たずが!」


「お、お言葉ですが、地中の泥流を推測する技術は、サルベージ・グループしか有しておりません。とても、我々では・・・」


「お、おのれぇ・・・」


 フェラーリ氏のあまりの剣幕に、宴会の手配をしていたほかの名士たちも手を止めて、不安げに彼を見つめた。

 ニューヨーク集住地の形成にたまたま関与しただけの彼らは、今でこそ特権階級として不労所得の上に胡坐あぐらをかいているが、突然の出来事を前にして、たちまち小心者の素顔をさらけ出した。

 誰かが答えを持っているのではないかと期待し、卑屈な笑みを張り付けた顔を左右に振りまいたが、無論、サルベージ・ポットの行方を知る者など存在しない。


 彼らに比べれば、部下に指示を出している分だけフェラーリ氏の方がましだったと言えよう。

 もちろん、フェラーリ氏とて平静だったわけではない。身体の奥底から生じる漠然とした不安感に彼の声は震え、悪夢に飛び起きた時のようなべたつく汗が身体を汚した。


「と、とにかく全力でサルベージ・ポットの行方を探れ」


「キングストン軍への報告はいかがなさいますか?」


「知らせておけ。モーガン様がテナフライ平原に到着するには、まだ時間があるはずだ」


 通信管を閉じると、フェラーリ氏はいらだたしげに爪を噛んだ。

 じきにキングストン軍は、テナフライ平原において、ニューヨーク守備隊に接敵するだろう。そして、その後に起こることは、両軍の戦いではなく、キングストン軍の一方的な虐殺として記録されるはずである。


 だが。

 だがしかし、この湧きおこる不安感はなんだと言うのか。


 得体のしれない何かに背中をさすられたように感じ、フェラーリ氏は小さく身震いをした。

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