俺は妹に手を出すことはしないんです

 今、俺は珍妙な状況に置かれている。

 学校で茉里奈と言い合って疲れた俺は家に帰るなり、ソファを占領しゴロリと寝転がる。

 はぁ、今日の放課後には芦ケ谷とデートする予定だったのに。

 呪いがどうのこうののせいで、何度も何度もシミュレーションした俺のデート計画も水の泡となった。


 悔し涙を流しながら、目を閉じる。

 一時、眠っていた俺だったが、急にお腹に重みを感じた。

 目を開けると妹が俺の上に座っていたのだ。


 「ど、どうした??」

 「お兄ちゃん、あの女諦めた??」

 「な、何をおっしゃっているんですか?? 樹梨さん??」


 樹梨。それが妹の名前だ。

 その樹梨さんですが、どんどん俺に顔を近づける。

 今の状況はその……妹系のラノベ主人公みたいな展開になりかねないんだが。


 俺は樹梨に上に乗っかられ、身動きが取れない態勢にいた。そりゃあ、無理矢理にでも樹梨をのければ動けるが、樹梨に怪我をされたらたまったもんではない。

 なにせ、俺のたった1人の家族だから。

 

 「まぁ、いいや。あの女のことなんて考えても仕方ないし。呪い掛けたし」


 艶のある白い髪をいじりながら樹里はそっと呟く。

 あの女って……きっと芦ケ谷のことなんだろうな。

 でも、なんで樹梨が芦ケ谷のことを気にするんだ?? 

 俺はそのことを聞こうとすると、先に樹梨の方が口を開いた。


 「お兄ちゃん、しよ??」

 「何をだ?? トランプか??」

 「違う!!」

 「違うのか……じゃあ、将棋でもするか?? 昔よくやっただろ??」


 俺が上体を起こそうとすると、樹梨が体重をさらに掛けてきた。

 妹は首をブンブン横に振っている。

 

 「……違う。そうじゃないの」

 「ん?? 何がしたいんだ??」


 顔を俯かせる樹梨は頬を赤らめて、ごにょごにょと何か言っている。


 「樹梨、なんて言ってるんだ?? 何をしたいんだ??」

 「お兄ちゃんと、その男女の関係みたいなのを……」


 男女の関係??

 へ??

 それってもしや……。


 俺は妹のしたいことがやっと分かったものの、言葉がなかなか出なかった。

 俺と樹梨は兄妹だぞ??

 血は繋がっていない兄妹ではあるが、俺は一度もこの妹を恋愛対象として見たことはない。

 

 そりゃ、妹は可愛いぜ。

 でも……。


 「そ、そういうのは彼氏くんと……」

 「したよ」

 

 えっ?? 樹梨、今なんて言った??


 「彼氏でしょ?? もうしたよ」


 この子は一体兄に向かって何を言ってるんでしょうか??

 

 「樹梨には彼氏がいるでしょう!! あのイケメンくんが!! そいつとしたっていうのか」


 そう。

 この可愛い妹にはすでにお相手がいる。その彼氏さんはイケメンで、2人とも美しいもんだから美男美女カップルと言われているとか。妹ご本人から写真も見せてもらったが、本当にイケメンだった。


 その時、樹梨はそわそわしながら「これ、樹梨の彼氏……どうお兄ちゃん?? 羨ましい??」なんて言ってきた。

 ムカつくもんだぜ、リア充ぶりを見せつけられるのは。まぁ可愛い妹だからそんなことも許してやったが。


 「……あれ、お兄ちゃんの代わりだもの」


 なあぁぁぁっ!!!

 あのイケメンくんが俺の代わり!?


 「お兄ちゃんが私に構ってくれないから、時間潰しに付き合ってあげてるの」


 なんと上から目線な。

 衝撃の事実にフリーズしていると、樹梨はTシャツをめくろうとする。


 「樹梨……何を……」

 「お兄ちゃん、見て。今この下に何も着ていないの」

 「んなあぁぁぁ!!!!」

 

 妹をそんな風に育てた覚えはありません!!

 俺は妹のプライバシーを守るため、目を両手で塞いだ。

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