俺は幼馴染にそんなこと言っていないです

 「芦ケ谷!」


 芦ケ谷に告白した次の日の朝。

 俺はいつも通り登校すると、教室のドアの前で俺が大好きで仕方のない人、芦ケ谷 美野里が立っているのを見つけた。

 せっかくだしと思って声を掛けると、芦ケ谷はすぐに俺の声に反応して、こちらを振りかえってくれた。

 俺に笑みを向けてくれるだけでなく、こっちに来てくれている。


 ああ、何ということでしょう!

 美少女がこんな俺に満面の笑顔を見せてくれるではありませんか!!

 神様、ホントマジで感謝してます!


 「長谷川くん! ……わっ!」


 残り2メートルとなったところで芦ケ谷は後ろに下がっていく。


 「はっ!? 何だこれっ!?」


 キョどっている芦ケ谷も可愛いと見とれていると、いつの間にか教室の反対側の入り口まではなれていた。

 えっ!? 何が起こったんだっ!?

 僕は芦ケ谷と目を合わすも、彼女も何が起きたかさっぱりなのか首を振る。


 「ざんねーん、光汰! 呪いかかってるから近づこうしたら離れるんだよーん」


 背後から声を掛けてきたのは幼馴染の大槻 茉里奈だった。

 茉里奈はオレンジ色の肩につくかつかないくらいの髪を揺らしながらこちらにやってくる。


 「茉里奈……。この呪いどうにかしてくれよ」

 「いーやだ。光汰があのクソ女を諦めるまでは呪いは解かないんだから!」

 「芦ケ谷をクソ女って……お前こそ! こんなことして何が楽しいんだよ!」

 「だってっ! 光汰が私を好きになってくれないんだもん!! 私こんなに頑張ってるのに! 地味デブ女から今みたいに可愛くしたんだもん! なのに光汰は! 光汰は!」


 確かに茉里奈の姿は昔とは大違いだ。

 俺らが中学生になって間もない頃、彼女は引きこもりとなった。そうなった理由は知らないが、引きこもったせいで運動はせず食べるだけ。スナック菓子をバリバリ。次第に彼女の体は横へと大きくなった。いわゆるデブというやつである。


 それにスナック菓子だけでなく大好物のチョコも時間帯関わらず平らげてしまっていたので、茉里奈の顔はニキビだらけ。

 そんな娘に絶望し、茉里奈の母親が俺に「光汰くん! 娘をお願いします! 助けてください!」と謎に頼み込んできたのだ。


 俺自身も幼い頃からの付き合いだったし、茉里奈が学校に来てくれればということで茉里奈母の手を取った。俺は茉里奈の部屋に行き、麻里奈を部屋から抵抗されながらも出したのだ。あの頃の俺はなんとなくパワフルだったような気がする。


 そして、茉里奈のダイエットが始まったのだ。

 学校を終えた夕方に茉里奈を部屋から出し、鬼トレーニングをしたのだ。

 そのうち、茉里奈も痩せていき、学校に行くようなった。


 芦ケ谷ほどではないが、今では男子からモテるにモテまっくっている美少女になっている。

 茉里奈の体は自分の趣味の時間を潰した俺の努力の結晶とも言っていいだろう。

 俺は茉里奈と地獄のダイエットの日々を思い出しながら、涙をほんのり浮かべていると、さっきから俺に何かを話していた茉里奈はビシッとこちらに指をさしてきた。 

  

 「そして私のダイエットの時、『茉里奈! お前が痩せたら結婚してやる』って言ってくれたじゃん!?」

 「はぁっ!?」

 

 俺、そんなこと言ったんすかぁー!?

 いや、そんなはずない! 言ってない! 頑固として言ってないぃ!


 「『お前が痩せたら、きっと誰かから告白されるだろうけど。もし、もしだ! お前の相手がいなくて俺もいなかったら結婚してやる!』って言ったんだ!」


 そうだ! きっとそうだ!


 「今、光汰に相手いないじゃん!」

 「いる! いるけど、お前らの変な呪いのせいで物理的距離があるんだよ!」

 「いない!」

 「いる!」

 「いない!」「いる!」

 「おはようさん。お前ら、夫婦喧嘩はいいから教室入れや~」


 俺は茉里奈と言いあいをしていると、俺の友人荒川が呑気に横を通り過ぎて教室に入っていく。

 見ると、すでに芦ケ谷も教室に入っているのか、廊下には姿がなかった。


 「夫婦じゃねぇっ!」


 俺は逃げるように教室に向かうが、やつに腕を掴まれ体を寄せ付けられる。


 「荒川も私たちのことを夫婦って認めてるんだし、素直になってよ」

 「だから、夫婦じゃねぇっ――!」

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