俺は魔法少女と交渉をするんです

 ここ数日、俺の精神はボロボロだった。

 大好きな芦ケ谷には話しかけるどころか、近づけない。幼馴染はやたらと俺の彼女ぶってくるわ、彼氏を持つ妹は何かと俺を襲おうとするわ。


 そんなこんなで幼馴染と妹の2人が俺の青春を邪魔してきた。

 だから、今こうして呪いを解いてもらおうと、リビングに俺を含めた3人が集合しているのである。

 

 「お前ら、なんで俺に呪いなんて掛けたんだよ」

 

 あえて正座する俺は若干怒りを交えた声で問いかけた。

 向かいには足を崩した2人が座っている。妹の樹梨はツーンとした顔で、幼馴染 茉里奈は頬を膨らませた顔をしていた。

 

 「だって!! 光汰が私に一向にキスしてくれないんだもん!! こんなに待ってんのに!!」

 「ちょっと待ってよ、茉里奈ちゃん。お兄ちゃんは私のもの」

 「違うわ!! 光汰は私のものよ!!」

 「おい…………ちょっと」

 

 2人は必死に言い合っている—————俺がどちらのものかについて。

 俺は物じゃないんだが!! もし、誰かに所有されるなら美野里ちゃんだ!!

 俺はワ―キャーと騒ぐ幼馴染と妹に割り込む。

 

 「お前ら、今はそんな話はどうでもいいんだ!! 俺が聞きたいのは厄介な呪いのことだよ!! あれ、解除してくれ!!」

 「「いや!!」」

 「なんでだよ!?」

 

 そう尋ねると、樹梨が不満げに答えた。

 

 「だって、お兄ちゃん、あの例の女に夢中じゃん。近くにこんな美少女がいるのにさ。だから、まずお兄ちゃんからあの女を引きはがすために、私と茉里奈ちゃんで呪いを掛けてやろうって決めたの」

 「そんでもって、私と樹梨ちゃんで魔法少女になったの。呪いを掛けるためにね」

 

 ふふーんと自信気に茉里奈はステッキを見せてきた。一体、どこから出してきたのか知らないが、まるで小学生のおもちゃのようなデザインのステッキ。先には小さな金色の王冠、その下には大きめのハートで、持ち手の部分は可愛らしいピンクだった。

 茉里奈には恥じらいがないのか、クルクルとステッキを回している。

 

 「変な冗談はよしてくれよ、茉里奈。魔法少女なんて…………」

 「お兄ちゃん、本当だよ」

 「お前まで…………」

 

 マジな目をしている樹梨も背後からステッキを出してきた。樹梨の方は茉里奈と同じようなデザインだが、色は透明感のある水色。

 

 「ほら、お兄ちゃん。本当なんだよ」

 「どうせおもちゃだろ。子供だましはやめてくれよ」

 「はい」

 

 樹梨がそう言って窓の方にステッキの先を向ける。

 一体、何をする気だ??

 と訝し気に見つめて数秒後、カラッと晴れていた空は一転し、曇っていき、ザーと音を立て雨が降り出した。

 「はい、お兄ちゃん。雨降らしたよ」となんともない様子で言う樹梨。

 ……………………まさか、これ樹梨の魔法なのか??

 と驚いていると、あることを思い出し立ち上がる。 

 

 「雨降らしたよじゃない!! 洗濯物を干してたんだよ!!」

 

 俺は階段を駆け上がり、ベランダに干していた洗濯物を急いで取り込む。しかし、急に降り出した雨のせいで乾きそうになっていた洗濯物はずぶ濡れになっていた。

 なんてことしてくれたんだ……………………樹梨。

 濡れてしまった洗濯物を抱える俺は溜息をつきながら、階段を下りていく。下りた先の廊下にはいつになく慌てた様子の樹梨がいた。

 

 「お、お兄ちゃん、ごめん。お兄ちゃんに魔法を見せたくて、夢中になって……………………洗濯物を干してること忘れてた」


 妹の瞳は泣き出しそうにウルウルとさせていた。

 卑怯だ……………………可愛い。


 「……………………本当にごめん」

 

 ぺこりと頭を下げる樹梨。俺は洗面所に洗濯物を投げ捨てると、樹梨の頭をよしよしと撫でた。

 

 「ああ、大丈夫だから。洗濯物のことは気にすんな」


 これ、呪い解除のチャンスじゃないか??


 「もし、申し訳ないと思うのなら、俺の呪いを解いてくれないか??」

 「嫌だ」


 樹梨は一切の迷いなく即答。


 「それとこれとは違うの。それに呪いのことは私だけで決めたことじゃないから」


 と言って樹梨はリビングの方に入っていく。追いかけると、茉里奈はカーペットで座り込むのをやめ、ソファに座っていた。樹梨は茉里奈の隣に座る。


 「なら、どうやったら呪いを解除してくれるんだよ」

 「お兄ちゃんがあの女じゃなくて、私か茉里奈ちゃんを彼女にしてくれたら、解除する」

 「そうよ。簡単なことじゃない、光汰」


 2人はガチ真面目な顔をして、そう説明する。

 妹か幼馴染かどちらかを選べって…………俺は芦ケ谷がいいんだが。


 「お兄ちゃんが今考えてることは想像つく。でも、その答えじゃあ、一生呪いは外してあげない」


 樹梨はプイっとすねたように顔をそむける。


 「私も『あ』から始まって『り』で終わる人の名前を上げるのであれば、外さないよ。樹梨ちゃんが許そうともね」

「でも、どっちか選んだとして、どっちかは選ばれないんだろ」


 どっちも選ぶ気はないけど。


 「そうだよ。もしお兄ちゃんが茉里奈ちゃんを選んでも、私は多少憎しみと苛立ちは持つかもしれないけど、最終的には許す。例の女とか他の女にお兄ちゃんを上げるよりかわ、よっぽどマシだから」

 「そうよ。私も光汰が樹梨ちゃんを彼女にするんだったら、簡単にはしないけど許すわね」


2人は顔を合わせ、「ねー」と意気投合する。だから、一緒に呪いをかけてきたのか。

 

 「でも、恋愛は自由だろ。俺の勝手だろ??」

 「うん、お兄ちゃんの勝手だと思う。でも、私たちの恋愛も自由でしょ??」

 「くっ、そうだけど……………………」

 

 カウンターをされたような気がした。俺の腹が痛い。

 樹梨は真剣な表情を浮かべて、こちらに真っすぐな瞳を向けていた。

 

 「なら、全力で邪魔する」

 

 茉里奈は「そうよ」と言って、樹梨の言葉にうんうんと頷いていた。

 

 「私たちも本気なんだから。本気の恋をしているんだから。でも、芦ケ谷さんあの人はチートなの!! この恋愛戦争において、カンストレベルのチートなの!! だから、強制退場させてやろうと思ってね」

 

 茉里奈は手に持っている魔法ステッキを振る。

 お前たちだって魔法使っている時点で卑怯だぞ!!

 すると、彼女はビシッと人差し指の先を俺に向けてくる。彼女の瞳も樹梨と同じ真剣なまなざしをしていた。

 

 「光汰のハートを絶対奪ってやるわ!!」

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