短編41話 数ある緊張している今のこれ
帝王Tsuyamasama
短編41話 数ある緊張している今のこれ
昨日。部活を終えて帰ってる途中、
ショートカットでソフトボール部。僕とそんなに変わらない身長……まぁ僕がそんなに大きくない方なんだけど。とにかく活発。男女問わず友達が多いタイプなんじゃないかな。
小学校のときからの仲で、僕の名字が『ゆきなが』っていうこともあって、クラスが同じときに出席番号順だと隣になることが多かった。
その矢中が昨日の帰り道で
続けて『今度雪永も一緒に三人で遊ぶー?』って誘われたときの心拍数の上がりっぷりは危なかったけど。
(よろしくと言っちゃった僕も僕だけど!)
「雪永くん、おはよう」
「うおわっ、お、おはよー……」
……他の女子と同じセーラー服を着ているはずなのに、だれよりも美しい声の持ち主(※当社調べ)、
小学校のときに転校してきたんだけど、それがもうすっごく……び、美人さんというかですねっ。
身長だけは僕らとそんなに変わらないんだけど、髪さらっさらで姿勢ぴしっとしてて、テストもめちゃくちゃ点数いいらしいし、おまけに今女子バスケットボール部の副キャプテンをしている。
僕はバスケのことよくわからないけど、特別身長が高いわけでもないのに副キャプテンってすごいのかな? や、やっぱりすごいよね!?
なんかいつも友達と一緒にいる感じだし、こう、かっこよさとかわいさを両方兼ね備えてるみたいな?
(……好きな男子とかいるのかなー……な、なんて、はは)
小学校のときから横月さんのことは気になっていたけど、なんだか中学校に入ってからもっと気になるようになってきた気がする。
小学校のころの僕は、横月さんが学校に慣れてくれたらいいなと思って、多少緊張しながらも結構積極的に声をかけていたと思う。
ところが中学校に入ると、意識しすぎてなのか積極的になれなくなっちゃって……。
一年生のときから同じクラスで、二年生でもまた同じクラスになれたのに、今でもまだ緊張がっ……。
席替えで近くなったり移動授業で班が一緒だったりするたびに、どうしようかと焦る。
うれしいけど、うれしすぎてどうしたらいいかわかんなくなるっていうか……。
というか矢中のときのように『ゆきなが』と『よこつき』だから、クラスが一緒になったら出席番号順のときになにかと、と、隣になることがあるっていうか、う、うん。
だから緊張してるとはいえしゃべる機会はあるから、学校ではこれまで結構仲良くできているつもりなんだけど……。
(周りの女子みたいに、僕も横月さんと毎日しゃべりたいなぁ)
僕におはようと言ってすぐに、教室にいる女子友達が横月さんに集まっていった。よく見る光景だ。
「さっきのパスよかったぜ!」
「あ、ああ。まぐれだよ」
僕はサッカー部の所属。同じクラスで小学校のときから遊んできた友達、
「おっ、女子バスのやつらだ。横月もいるな!」
まだ部活の時間中だけど、僕らが職員室へ用事のためにやってきたタイミングで横月さんもやってきた!
(しかもポニーテール!!)
横月さんを挟んで歩いている横の二人は……知らないなぁ。後輩とかかな? こちらは二人ともショートカットだ。こっちから見て右の女子が灰色のバインダーを持ってる。
学校指定である白色に青い線が入った体操服を着てて、さらにビブス着けてる。緑色の7? ラッキーセブン!
(7番ってどんな役目なんだろう。ミッドフィルダー? いやバスケで聞いたことないよね)
上は半そでだけど下は長ズボン。長ズボンの方は色が逆で青に白い線が入ってる。この着方は女子の中で流行ってんのかな?
僕らは半そで半ズボンにオレンジ色のビブス。なんか敵同士みたい!? ちなみに僕は5番。
「よー横月ー! そいつらは弟子かー?」
平木はよく平気で横月さんに声をかけるなぁー。
「弟子? 後輩だよ」
平木の冗談にもまじめに返す横月さん。いい。
後輩の女子二人があいさつをしてきたので、僕もちょっと頭を下げてこんにちは。
「バスケ部での横月とかどんな感じなんだー? 実はめっちゃスパルタだったりして」
ムチ持ってオーッホッホッホとか……? ないな。
「めちゃくちゃ優しいですよー! 女神様!」
「作戦も指示も的確ですごいです! 策士ですよ策士!」
「ありがとう。女神様、策士……?」
やっぱバスケ部でも人気者なんだ。さすがだなぁ。
「さいっしょはぐっ!」
「うおわっ」
平木がいきなりさいしょはぐっをしてきた!
「まったまったぐっ! いっくぁるぃーやつぉーすっけあったまはぱっ! せーいぎーはかつっ! じゃーんけーんほぉーい!!」
あ、チョキ対パーで僕が勝った。
「くぁー! うっしちょっくら行ってくるわ!」
「あ、ああ」
職員室への三段くらいしかない階段を駆け上がった平木。横開きの扉を開けて失礼しまーすって言いながら靴脱いで入っていった。
「先輩ここで待っててください!」
「いってきます!」
バスケ部後輩二人も職員室へ向かっていった。横月さんは笑顔で見送っていた。
(……ふぇ!?)
僕は思わず横月さんを見てしまった。ら、横月さんもこっちを向いた。そのすてきなお顔を直視してしまった。
(べ、別に今年も横月さんと同じクラスだし、横月さんの顔を見ることもそんなに珍しいことでもないはずなのに……)
なんでだろう。教室じゃなくて、セーラー服じゃない横月さんっていうだけで、こんなにもどきどきしてるのかな僕!?
(あぁでもいつでもどきどきしてるかあははー!)
「雪永くんは、バスケットボール、できる?」
「うぇ!?」
お外でも横月さんのかわいい声がお届けされました。
「で、できるけど、体育の授業でくらいしかやったことないよ?」
「いつか一緒にできるといいね」
(ズキュゥーーーン!!)
撃ち抜かれた……。
「ぼ、僕と戦ってもバスケ部の人にかなうわけないよ」
「じゃあ、私が雪永くんとサッカーをしたら、バスケットボールも一緒にしてくれる?」
(ズキュバシュゥーーーン!!)
二連装砲だったなんて……。
「よ、横月さんが、転んで服汚れたり顔けがしちゃったりしたら大変だし……」
もしボールの奪い合いにでもなって、横月さんにぶつかって倒してしまうなんてことがあったら、もう僕はサッカー引退するしかない!!
「……ふふっ。倒れるのが嫌だったら、運動部なんてしていないよ?」
自分のビブスを両手でくいくいする横月さん。ビブス作ってるメーカーさんありがとうございます。
「そ、それはそうなんだろうけど……」
やっぱり成績のいい横月さんが相手だからか、言い返す言葉が見つからない……。
そんな困ってる僕をよそに、またやんわり笑顔を作ってくれるものだから、余計に僕のどきどき度アップ。
「……優しい雪永くんこそ、なんでサッカー部してるのかな」
「や、優しいぃ?」
だれからも言われたことない言葉を横月さんから言ってもらえるなんて……うぉ~。
「……小学校のとき、地元のスポーツ少年団でサッカーと野球と剣道から選ぶことができて、サッカーならなんとかできるかなって思って入って。そのまま中学校でも続けている感じだよ」
「どうしてスポーツ少年団に入ろうと思ったの?」
「……実は、お父さんとお母さんが結婚したきっかけが、サッカーだったらしくて」
「わあ~っ」
手を組んでおめめ輝かせている横月さん。写真撮りたい。
「テレビでサッカーの特集や試合をやっていたら観ることが多かったから、自然と僕もやってみたいっていう感じに……ってところ?」
「そうなんだ」
美術部だったらスケッチして残せてたのかな。いやサッカー部だったから今ここでしゃべれてる!
「横月さんは、どうしてバスケ部に?」
これ結構前から気になってた。
「お姉ちゃんが」
「失礼しやしたー! 雪永行こうぜーっ」
のにこれだもんなぁー。
「あ、じゃ、じゃあまたっ」
「横月またなー!」
僕は平木になんか余計なことを思われたくないから、すぐに振り返って平木と一緒に歩き始めた。
「いやー横月やっぱいいなー! 付き合ってるやつとかいんのかなー?」
それも気になるけど、今僕は、さっきの横月さんの顔が頭から離れなかった。
(ポニテだから余計に)
(……あぁ~……横月さんとしゃべっちゃったよぉー……)
ほんと横月さんを前にすると焦っちゃうんだよなぁ……。
僕は部活を終えて帰り道、いつものルートで一人ゆっくり帰ってる。はいはい今日もいい天気ですね……。
「あ、雪永じゃーん。また会ったねぇ!」
「うおわっ」
急に左肩に手を置いてきたのは矢中だった。矢中もこの道毎日通ってんのかな。
「きょ、今日も横月さんの家に行くとか?」
ずっと横月さん横月さんって考えていたから、口から出た言葉もいきなり横月さんだった。
「今日は行かないよー。帰って観たいテレビあるからさー。てか紗央ちゃん後ろ歩いてるしっ。じゃねん!」
「……邪念? あ、じゃあ、ね。えっ!?」
矢中は手を上げて走っていった……けど……
(後ろ歩いてる!?)
僕はすぐに後ろへ振り返った。何人か下校してる学生が見えるけど、遠くのセーラー服のあれが、まさか……。
(み、見つけてしまったんなら、知らんぷりで帰るなんてこと……あぁでもわざわざ戻って声をかけるとか怪しまれるかな……でもでも横月さんなら大丈夫そうな……そもそも学校だとゆっくりしゃべれる機会なんてそんなにないわけだから、こんな絶好のチャンス…………)
立ち止まっている僕。まだまだ遠いけど少しずつ近づいてきているのがわかるあの女子は横月さんだと思う。
(横月さん判別能力だけは鍛えられてますから!)
いつも友達と一緒にいるイメージだから、帰るのもだれかと一緒に帰ってると思ってたけど……。
(……あ~もう! 僕ってほんっとなんでこんな男なんだろな!)
僕は今までゆっくり歩いてきた道を一気に引き返した。
一応サッカー部で鍛えてきた脚力を持つ僕の脚は、笑顔の横月さんにどんどん近づいていくのだった。
短編41話 数ある緊張している今のこれ 帝王Tsuyamasama @TeiohAoyamacho
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