第3話

「ここだよ」

と僕が連れてこられたのは、ここ岸川国際高等学校の体育倉庫だ。

「まるで殺人事件が起きたみたいな騒ぎね」

と他人事のように言う彼女。

「清水も少し手伝ってくれ。詩織、第一発見者は?」

「私です」

と人ごみの中で一番前にいた、体操服を着た、女子が手を挙げた。

「すいません、学科と学年、クラス、名前を教えてください」

僕の質問に手を挙げた彼女は答えてくれた。

「普通科一年、三組 佐々木愛花です」

と答えてくれた彼女にさらに質問を付け加えた。

「すいません、部活は?」

「ソフトボール部です」

と僕は彼女が答えてくれたことをすべて、スマホのメモアプリでメモを取った。

「その時の状況を教えてください」

僕の質問に彼女は

「ええっと、私がこの、体育倉庫に先輩にボールを取ってきてと頼まれて、取りに来たんです。で、最初に来たときはカギがかかっていたんです。

で、私がカギを取りに行って、体育倉庫を開けたんです。その時もカギがかかっていたんです。

なのに、私がボールを取ろうとしたら、そこに野球部の人が倒れていたんです」

とバスケットボールの後ろを指をさした。

「なるほど、ちなみにどんな風に倒れていたのか、彼女を使って、教えてください」

「え?」

と僕の言っている事が理解できなかった彼女。僕は気にせず

「清水、手伝ってくれ」

「わかった。何をすればいい?」

やる気のある彼女は僕に期待をしていた。

「佐々木さんが言ってくれた通りに倒れてくれ」

「わかったわ」

と清水はさっき、佐々木さんがさしていたところに行った。

「佐々木、どんな風に倒れればいい?」

と佐々木さんに聞く彼女。初対面の後輩に呼び捨てで呼ぶのはどうかと僕は思うのだが、今は気にしないでおこう。

「え、ええっと、仰向きに倒れていて、手はこうしていて……」

と彼女に教える佐々木さん。彼女は何も言わずに佐々木さんの言う通りにしていた。

「できました」

佐々木さんは僕に言ってくれた。

「なるほど、ありがとうございました。あとは修正部でやります。解決には少し時間がかかります。もしかしたら、また、質問をするかもしれません。その時は、ご協力していただくとありがたいです」

「え、はい、全然かまいません。それでは、私は部活があるので」

と佐々木さんはかぶっていた白の帽子を取って、頭を下げて、グランドに戻っていった。

「お兄ちゃん、何か分かった?」

と不安気味の詩織は僕に聞く。

それに対して僕は言った。

「まだ、はっきりしていない部分があるから、それさえわかれば、解決するね」

とそれを聞くことが出来た、詩織は満足して

「そっか。なら、よかったよ。あ、私も部活あるから」

「おう、頑張りすぎるなよ」

そう僕が言ったときには詩織は遠くにいて、僕の声が聞こえたのか詩織は

「No problem!」(大丈夫!)

と大きく手を振りながら、言った。僕も軽く手を振って、さっきまで人がたくさんいたのに、寂しいくらいに居なくなって、清水と二人きりになった。

「私はいつまで寝ていないといけない?」

「あと少しだ。頑張ってくれ。っていうか、そんなに辛いかその体制?」

「うん、辛い」

と辛そうな顔をする彼女。僕はスマホで彼女を五枚取った。

「もういいぞ」

僕が言うと彼女はすぐに起き上がった。僕はさっき取った写真を見ながら

自分が寝てみた。

「こんな感じであっているか。清水」

「全然違うわ」

「マジ、どの辺がおかしい?」

と彼女に言われ、僕はさっきの倒れた彼女を再現して見せた。

彼女は写真を見ながら、僕を動かす。

「できた」

と彼女は立ち上がった。

実際、再現してみると辛い。

「清水、僕のスマホで僕を取ってくれ、全体を映してくれよ」

そう僕が言うと彼女はスマホを操作し始めた。

「いくよ」

「おう」

そう言って、彼女はスマホをタップし始めた。スマホは

ガシャ、……

となった。そう思ったら、

ガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャ……

と連射が始まった。

「ちょっと、連射をするな!」

僕は慌てて言った。その声に反応して、彼女はスマホから指を放した。

その証拠にスマホは静かになった。

「何枚とっているんだ」

「八三枚、撮ったみたい」

あの一瞬でそんなに取ったのか。最近の機械はすごいな。最近は化学が進歩しすぎているからな。人間は働かずに済むかもしれないな。そうなったら、人間、暇すぎて死んでしまうかもな。そうなると、この世界は機械に世界征服されてしまうのか。なんか面白いかもしれない気がする。

そんな事より、早く解決しないとな。詩織も心配しているし……

「さっき、妹ちゃんには、すぐに解決するって言っていたけど、本当のところ、どうなんだ」

「仁さん。いつからいたんですか」

と出入り口のドアにもたれかかって、腕を組んで僕に聞く。

「妹が春樹後輩に何か分かった、あたりかな」

「そんな前からいたんですか……って、若奥様は?」

僕は疑問を抱いた事を聞いた。

「聞きたいか?」

「結構です」

即答した。嫌な予感しかないからだ。

「話は戻すけど、どうなんだ」

仁先輩の目は真剣だった。今は真面目の話をしている。笑って誤魔化すことはできない。正直に答えよう。

「全くわかりません。はっきり言って、今のままだと解決はできないでしょう」

「だろうね。俺が帰ってきて正解だよ」

「帰ってきた理由はたまたま、合致しただけでしょ?」

「よく分かったな、春樹後輩。さすが俺の後輩だよ」

とケラケラ笑う、先輩。相変わらず楽しそうだ。

「手伝うよ」

仁先輩は優しく僕に言った。でも、

「いえ、もう少し頑張ります」

丁寧に断った。僕は自分の限界を見たいだけだ。人は限界を知ることで成長する。僕はまだ、限界を見れてない気がする。時間はまだあるだろう。

だから、自分を知るいい機会かもしれない。だから、頑張る事しかできない。

「そっか。いつでも、連絡して」

「はい」

仁先輩は自分のスマホを僕に見せて、僕の返事を聞いてすぐに立ち去った。

「仁ってかっこいいね」

「そうかもな。かっこいい先輩だな」

「どうするの?私たちは何をするの?」

彼女は自分も何かすること前提で話をしている。まあ、どうでもいいや。

「気絶した、野球部員に情報収集をしに行こう」

「わかった」

彼女はそう言って体育倉庫を出た。そして、カギを閉めた。

そして、僕たちは保健室に向かった。僕はノックして保健室のドアを開けた。

「失礼します。修正部です。体育倉庫で倒れた方はいますか?」

僕は小さな声で、でも確実に起きている人には聞こえるくらいの響く声で言った。

「あ、俺っす」

とベットから出てきた頭が綺麗にバリカンで剃られた、男子生徒が出てきた。

「倒れた時に付いて聞きたいことが有ります。お時間よろしいですか」

「はい、全然大丈夫っす」

「ありがとうございます。ここでは話しずらいと思います。開いている静かな教室に行きましょう」

そして、僕と彼女、そして、倒れていた張本人を連れて、教室に入った。

教室のドアは誰か来てもいいように開けていた。

「では、早速、質問します。学科、学年、クラス、名前をお願いします」

僕がそういうと彼はすぐに

「普通科、一年っす。クラスは三組で斎藤藍斗っす」

「ありがとうございます。では次、覚えている範囲でいいです。倒れる前の事を教えてください」

とそれから彼とは一時間も長話をした。だが、まったく手がかりがない。

彼はボールを取りに行くときに急にふらっと倒れ、そこからは記憶がない。

解決すべき項目は、なぜ、彼があそこで倒れていたのか。そして、一番重要ななぜ、彼は閉じ込められていたのか。

本当に謎の密室事件だ。

いつもなら、いくつかの仮説が立ち、それを事実か照らし合わせて、真実にたどり着くはずなのに、今回に関しては、一つも仮説が立たない。

まず何から、片付けるべきなのかが重要だ。

多分、彼が体育倉庫で倒れていたことが、この事件のカギだ。

彼はなぜ、倒れたのか。本人も分かっていない。何かを球体みたいなものを踏んで転んで、頭を打って、気絶。

そうなると、体育倉庫のカギは空いている事になる。

なら、誰かがカギを掛け忘れたとかでカギが閉まる。

そして、佐々木さんがカギを開けて、斎藤さんを発見。

これじゃあ、理論が成り立たない。

「事件は解決しそうか」

「仁さん……」

僕たちが彼と話をしていた教室には仁先輩がいた。ここに来ることは匂いで分かった。僕は犬のように鼻が利く。それに耳もいいから、足音が僕らの方に近づいてくるのに気が付いていた。

「ダメです。僕だけでは解決できません。限界です」

「だから、どうするんだ」

仁さんは言う。

「僕はできない事は、出来る人、出来る生物に頼る、人間です。だから、仁さん、僕を手伝ってください」

僕は頭を下げた。そして、さっきまで座っていた彼女が立ち上がった。

「清水?」

「春樹を手伝ってください」

と彼女まで頭を下げ始めた。

「なんで、清水まで頭を下げるんだ?」

僕は聞く。彼女は

「私も関係しているから」

なるほど。ちゃんとするところはちゃんとするんだ。本当に案外良いやつかもしれない。

「いいねぇ。青春を感じるよ。もちろん、俺は最初からその気だから、全然かまわないよ。部室で、まとめを話をしてくれ」

と仁先輩は親指で部室の方をさした。

「はい」「うん」

僕と彼女は返事をした。

僕と彼女、そして仁先輩は部室で話を始めた。詩穂先輩は恋愛相談の依頼を受けているそうだ。

「では、話をさせてもらいます。まず、一五時三〇分、野球部の斎藤藍斗が、先輩にボールを取ってくるように頼まれた。斎藤が行ったときには体育倉庫は閉まっていた。五分後、斎藤は職員室にカギを取りに行き、頼まれたボールが入った籠を拾うとしたとき、ふらっと倒れたそうです。そして気絶。

その一五分後、一五時五〇分後にソフトボール部の佐々木愛花さんもボールを持ってくるように頼まれ、体育倉庫に。その時には閉まっていた。五分後。職員室にカギを取り、体育倉庫に戻ってきた佐々木さん。佐々木さんは体育倉庫のカギを開けて、中に。そして、倒れている佐々木君を発見。

ちなみに斎藤君の倒れ方を再現してみましたが、大勢は体の堅い一般人がやると骨を折りかねない体勢でした。これがその写真です」

僕は写真を見せた。

「こっちが清水、こっちが僕です」

写真を見た仁先輩は

「なるほどねぇ」

と、この一言で空気は張り詰めたようになった。そして、この空気の中、口を開いたのは

「カギは二つなの?」

清水だ。

「ああ、生徒が持てるのは二つだけ。職員室に常にどこの教室も二つカギがあるよ」

そう、だから何も僕たちは言えない状況にさせられているんだ。

と僕たちが考えてくると、ドタドタと大きな足音が部室に近づいてくる。

「失礼します!新聞部です。密室事件についいて、情報をくださいな」

とドアが勢いよく開かれた。

「真実はまだ、分かっていませんが情報収集なら協力しますよ」

と仁先輩が快く引き受けた。そして、僕たちが分かっている事、そして、仮説を新聞部に説明した。

「なるほど、なるほど。確かにこれは、謎の密室事件ですね」

と新聞部は関心をしていた。

こっちは必死で考えているのに、でも、他人事になっても仕方がない。なんせ、これは僕たちが僕たち自身の意志でやっているからな。仕方がない。

それにしても隣の方の教室が騒がしいな。

僕はよく耳を澄ました。

「……け……すけ………助けて!」

「……‼」

僕は慌てて立ち上がった。

「?どうした」

「詩穂先輩が助けてって叫んでます!」

「え?そんなの聞こえないよ」

と新聞部の人は耳を澄ませる仕草をするが聞こえないだろう。距離は一五mくらいだろうけど、何枚物の壁越しに聞こえてきたからだ。普通の人には聞こえない。

「ほんとだ。詩穂が開けてって言ってる。春樹、嘘ついてない。私、人より耳がいいから」

「行こう」

仁先輩は立ち上がって、部室を出た。それを追いかけるように僕と彼女、新聞部も部室を出る。

「たす…て、あ……。助けて、開け…」

声がだんだん近づいてくる。匂いも先輩のにおいが強くなった。

「そこの教室です」

僕は一番端の教室をさした。そこは生徒相談室。小さな部屋だ。

そのドアがどんどんと叩かれる音がする。

「僕、カギを取ってきます」

僕は止まらず、そのまま、左に曲がって、階段を下りて行った。

その時、誰か人のにおいがした。オイルっぽい匂いだ。

「もしかしたら」

僕はそこにいるのは、管理人さん、または教室の何かを点検する人かと考えた。

「すいません!カギは持っていませんか!」

と僕は聞いた。もちろん、予想どうり、そこにいたのは、教室の何かを点検する人だった。

「え、ああ、持っているよ。スペアキー」

「貸してください」

僕はその人にカギを受け取って、すぐに上の階段に走りこんだ。

「仁さん!カギです」

「その勢いで開けろ!」

僕は仁先輩に言われるがまま、走っている勢いのまま、カギを開けた。

ガチャリ

鍵が開く音ともに

ガラガラガラ!

とドアも勢いよく開いた。

「じ~ん~!」

と詩穂先輩は仁先輩ではなく僕に飛びついたからだ。僕は反射的にしゃがんだ。

そして、詩穂先輩は見事、言葉どうり僕の真後ろにいた仁先輩のところへダイブ。

「寂しかったよ!怖かったよ」

「詩穂先輩、分かったからなんで、閉じ込められていたのか教えてください」

「知らないもん。急にカギがかかったんだもん」

「だもんじゃないでしょ」

僕は詩穂先輩に言った。

「それより、春樹後輩、カギを取ってくるの速くないか、また、窓から飛び降りたのか」

「違いますよ!教室の何かを点検している業者の人に借りたんです」

「お~い、すまない。人が居るとは知らずにカギを閉めてしまって」

「どうやら、こっちの密室は解決したみたいですな」

と新聞部の人が言った。そして、僕ははっとした。それは仁さんも清水も一緒だ。

「あの、点検って、どこまでやっています?」

「え、何だい?この棟が最後だが?」

僕の質問に当たり前かのように言った業者の人。

僕に続いて仁先輩が

「カギって、なんのカギですか?」

「坊主が持っているカギはスペアキーだぞ」

つづいて、清水が

「カギの閉め方はどんな方法?」

「えっと、場所ごとに区切って、その区切った最後の点検場所が終わると初めに戻って、一気にカギを全部閉めていくんだ。点検の時、お嬢さんたちはいなかったんだろ。だから、誰もいないと思って、カギを閉めちまったよ。すまねえな」

と業者の人は頭を下げた。

いや、感謝したいの僕たちだ。

密室が解けた。だから、密室事件は密室が解かれてしまうと密室ではなくなり、普通の事件になる。

それは、仁先輩、清水も同じ考えみたいだ。

「ありがとうございます。おかげで、こっちの事件が解決しそうです」

「え?あ、ああそうか。ならよかったよ。嬢ちゃんたち本当にすまねえな。じゃあ、俺はまだ仕事があるから」

そう言って、業者の人は僕が持っていたスペアキーを受け取って、下へ降りて行った。

「春樹後輩、唱後輩、やることは分かっているな?」

仁先輩は僕たちに聞く。そんなの、そんなの

「分かっていますよ」「分かっているわ」

彼女と声が重なる。

次に僕たちがやるべきことは、なぜ、彼が倒れたのかだ。

「さあ、ラストスパートだ。この謎、今日中に解決するぞ」

「なになに、みんなで盛り上がって。私だけ仲間外れ⁉みんな酷いよ!」

「詩穂はそっちの依頼をかたずけな」

と良い雰囲気を壊す、詩穂先輩に仁先輩は相談室の方を指さした。

「まだ、恋愛相談が終わっていなさそうだけど?」

「あ、そうだった。あとで私も加わるからね!後輩君!」

と僕はさした詩穂先輩。僕は

「分かっていますよ」

と適当に言う。

「よし、今日は唱後輩の家でお泊りだな!」

「お、良いね!私、差し入れを持ってくるよ!」

まあ、彼女の家は少し気なるな。どんなところに住んでいるのだろう。

ん⁉待て!待て待て!彼女の家でお泊り。良い案だとは思うけどそれって

「よかねえ!」

僕は思わず叫ぶ。よくよく考えなおしたら、彼女の家って僕の家じゃないか。

仁先輩は遠回しに俺の家に泊まると言っているのだ。

「何がよくないんだ?春樹後輩」

と仁先輩は何も知らない顔をしていた。

「そのうち分かります」

この前のパーティーの先生の話を聞いていなかったな。

それより、母さんに連絡をしないといけない。

『今日は清水の家(my home)でお泊り会を開きます』(僕の家)

僕のメッセージはすぐに既読が付き、返信がすぐに帰ってきた。

母さんは了解のスタンプを送ってきた。

『Welcome!』(歓迎!)

と追加で文が送られてきて、さらにwelcome(歓迎)のスタンプも送られた。

なんで僕の親はこんなに陽気なんだろう。

「春樹後輩、何をしている。聞き込みに行くぞ!」

「はい、今行きます!」

僕は仁先輩に呼ばれ、急いでスマホをポケットにしまって、仁先輩の元へ走った。

「僕は野球部について、聞き込みをしてきます」

「なら、私もついて行く」

「じゃあ、俺はソフトボール部のついてだな」

と各自、役割を確認して、僕たちは二手に分かれ、聞き込み調査が始まった。

「清水、もうすぐ部活が終わる時間だ。急ぐぞ」

「わかったわ」

僕は急いで、野球部の元へ走った。

「すいません、修正部です。少しお聞きしたいことが有ります」

「え、ああ、構いませんよ」

と野球部の一人に声をかけた。

「最近、何が揉め事とかありませんでしたか?」

僕の質問に少し考えこむその人はすぐに

「あ、揉め事とは言わないが、三年の伊藤先輩が一年の斎藤を陰で愚痴っているのを見ました。結構、気に食わないみたいでしたよ」

僕はスマホを持った、片手の親指を動かし、メモを取った。

「他に何かありませんでしたか?どんなことでも構いません。関係なくてもいいです」

と僕は聞くがその人は

「そんなことを言われてもなあ……おい、ちょっと」

とその人は近くを通りかかった人に声を掛け、僕のところに来た。

「最近なんかあったか?」

「何かってなんだよ」

と二人が会話し始めたので僕はそこに割り込んで

「どんなことでも構いません。何か揉め事はありませんでしたか?」

僕は尋ねる。二人は相談しながら考えていた。

「あ!伊藤先輩がレギュラーから落ちて、代わりに斎藤が入ったすよ。それで伊藤先輩、最近切れ気味で」

「他にも、伊藤先輩が打った球が、斎藤にあったとか」

「ああ、有った有った。ていうか、あれ絶対、わざとだよな」

「いや、わざとだったら、伊藤先輩、凄すぎな」

と野球部の二人はどんどん盛り上がって、良い情報がどんどん入ってくる。

「あ、あと伊藤先輩と言えば、ソフトボール部の木村先輩と付き合っているとか」

「ああ、それマジらしいよ」

「マジ⁉あの噂本当だったんだ!」

僕の親指はメモに必死になった。

「その、噂って何ですか」

僕は切りがいいところで、質問をした。

「ああ、あの二人、もう、いろいろやっていて、木村先輩に出来ちゃって、その‥‥‥分かります?言いたいこと」

「大丈夫です‥‥‥」

おいおい、その手に関しては、僕は無理だ。仁先輩、頼みますよ。

「わかりました。他にないですか」

「あとは、最近、斎藤がおかしいことかな」

「おかしい?」

僕は聞き直す。

「ああ、おかしいっていうか、変っていうか。何か隠してそうなんだよな」

「あ、俺この前、あいつがすげぇ、暗い顔をしてたぜ」

「てか、あの二人って、少し前まですげえ、仲良かったよな」

「まあ、いろいろあったしな……」

僕はメモをすべて、一音一句漏らさず、撮ることが出来たので

「ありがとうございまいた。また、何か思いだしましたら、教えてください」

僕はそう言って、僕は頭を下げて、その場から離れようとした。

その時に、僕は不意に野球部全員を見るかのように辺りを見渡した。

「あれ、伊藤先輩は今日は来てないのですか?」

「ああ、今日は来てないですね」

僕はメモの最後に『伊藤先輩は今日は部活に不参加』と書いた。

僕は今度こそ、その場を離れた。

僕はメモを見直していた。

「結構、情報を集めることが出来たな。ってあれ、清水は?」

僕は周りを見ると清水がいない事に気が付いた。僕は遠くの方を探した。

彼女は僕から一〇m離れたところで誰かと話をしていた。

僕は慌てて、彼女の元へ走った。

「ありがとう」

と彼女はそう言って、頭を下げていた。

どうやら、彼女も情報収集をしていたみたいだ。

「何か分かったか?」

僕は彼女に声を掛ける。

「うん、沢山分かった」

と彼女は僕にメモ帳を見せてきた。ちゃんとメモを取っているところに僕は感心した。そして、メモ帳の何枚もずらりと文字が並んでいた。沢山、情報収集出来ていた。しかし、

「読めねえよ!」

僕は彼女に言った。

なんで、読めないかって?字が汚いから……ではない。字はとても綺麗だ。

だが、メモ帳にメモしたものすべてが英語で書かれていた。

「なんで、日本語に言っているものを、わざわざ、英語に書き直すの?」

「楽だから……」

さすが国際科だ。言う事が人間離れしている。

外国人の人が英語で話をしている中、一方の人が日本語でメモをしている光景を見ているのと同じ。こんな状況は誰が見ても口をぽっかりと開いてしまうだろう。

「……ダメ?」

と彼女は首を傾げて、僕に聞く。

「ダメじゃない。それより、今から僕が言う事を英語に僕でも分かるように書いてくれ」

「わかった」

「私は人間じゃ……

「できたわ」

「まだ僕は言い終わっていない」

「でも、出来たわ」

彼女は当然かのように言っていた。

「わかった。見せてくれ」

彼女は僕にメモ帳を貸してくれた。

『I 'm not human』(私は人間じゃない)

合っている。ちゃんと『私は人間じゃない』だ。

「私は人間よ」

「知っているよ」

彼女は当たり前の事を聞くから、僕はちゃんと肯定した。

「お前は未来聴できるのか?」

「口の動きで、その先、何を言うか分かる」

「ごめんさっきの、訂正する。清水、お前は人間じゃない」

「人間よ」

「僕もそう思いたいよ」

思いたいよ心の底から。でも、口の動きを見たら、そのさき何を言うか分かるなんて、もう、人間じゃない。ただの怪物だ。

僕もその能力が欲しいよ。

キーンコーンカーンコーン

帰宅の予備鈴がなった。

「やばい、斎藤さんに聞き込み時間が無くなる。行くぞ!」

「うん」

僕と彼女は保健室に向かった。全速力で。

僕たちが保健室に向かったときにちょうど、保健室から斎藤さんが出てきた。

「すいません!話をさせてください!」

僕は叫ぶ。今日は叫んでばかりだ。

「え、はい」

「あの、何か隠してませんか?」

僕は率直に聞いた。

「え⁉な、何もないっすよ。何を言うんですか!」

彼は褪せている仕草をした。目の動きは右に二回、下に一回。嘘をついたかもしれない。いや、絶対嘘だ。ていうか、こんなに分かりやすい嘘つく人は初めて見たぐらいだ。

「そうですか……」

僕は演技をする。

「あ、斎藤さんは伊藤さんとどういう関係ですか?」

「え⁉なんで伊藤さんが出てくるんですか?伊藤さんとはそこまで、仲は良くなかったすよ。あんまり話したことないですし」

右に二回、下に一回。僕は確信した。嘘だと。なぜ、彼はこんなにも分かりやすい、嘘をつくのか。もうちょっと、嘘をつくのを上手くなりなさい。

「本当ですか。何か、陰口を言われているとか?」

「い、いい加減にしてください!何もないですよ!俺は帰ります」

と彼は怒って帰っていった。

最後、彼の眼は右に二回、下に一回。最後まで嘘をついて何になる。

彼には利益はないはずだ。

「彼、最後まで嘘ついていた。脈が正常な時は平均六二から平均一一四まで上昇していたわ」

「なんで、お前は人の脈が分かるんだ」

「彼は手汗を掻いていた。それに手が震えていた。彼は野球部、脈は遅い方。だから平均が六〇代なのが分かった。さっきの症状からさっきの彼は確実に一〇〇は超えていたことが分かる……」

彼女はペラペラと説明をする。

なんで、そんな一瞬で人を見ただけで、そんなに情報が入るんだよ。

観察能力が高すぎる。どこで身に着けたんだ?

「私、医学系は得意」

「お前にだけは手術されたくない!」

「そんな」

彼女はがっかりする。

「なら、一般常識を身に着けろ!」

僕は強く言った。傷つけているかもしれない。

「なら、速く身に着けて、春樹を切るわ」

「怖いことを言うな!」

全然傷ついた様子はない。

「お前、医者になりたいのか?」

「ううん、いろんな人と話がしたい」

さすが国際科。夢がしっかり定まっている。確かに、彼女の夢なら、英語は必須だな。

「いいな、夢があるって……」

僕はポツリと呟いた。僕には到底、彼女のようになれない。夢もない。やりたいこともなく、ただ、生きているだけ。

僕は無能なんだ。

「そんなことない」

「え?」

彼女の声に僕は驚く。今、なんて言った?そんなことないって言ったのか。なんでお前がそんなことを言えるんだよ。

僕はこんなに必死になのに。なのに、なんで夢がある、あんたにそんなことを言われなくちゃ、いけないんだ!

僕は心の中で叫んだ。声に出したかった。

でも、我慢した。我慢することで、誰も傷つかない。これが正解の選択肢だ。

「春樹は動物がいる。みんなを助けられる。頭がいい。まだまだ、沢山、ある」

彼女は言い続ける。

「そうだと言いな」

僕はそれだけを言って、部室に足を運んだ。

「こらー!」

僕の体はビクッとなった。聞き覚えのなる声が廊下に響く。

僕は振り返る。高橋先生だ。

「もう、下校時間すぎてるよ!」

「すいません。今から、帰ります」

僕はそう言って、急いで部室に向かった。部室はまだ、電気が付いていた。

「すいません、仁さん。お待たせしました」

「お、帰ってきたね。じゃあ、帰ろうか」

僕たちをずっと待っていた仁先輩。仁先輩はどうやら、何かの資料を読んでいたみたいだ。

僕たちはカバンを持って、帰宅をすることにした。

「俺、このまま、唱後輩の家に行くから」

「わかったわ」

彼女は返事をする。

僕たちは校門を出て、彼女の家に向かった。

「あれ、こっちって、春樹後輩の家の方向と一緒だな」

「そうですね」

僕は初めて知ったかのように言った。そして、僕たちはいろんな話をしながら、五分くらい歩いていた時、鋭い仁先輩が

「あれ、ここって、春樹後輩と同じ地区じゃないか」

「そうですね」

僕はまた、初めて知ったかのように言った。

そして、彼女の家に着いた。

「あれ、ここって、春樹後輩の家じゃないか」

「そうですね」

僕のそうですねは暗い声になっていただろう。それくらい、言いたくない事なのだ。

「ただいま」「ただいま」「お邪魔します」

声が重なる。

「え?どういう事だ?ここは春樹後輩の家だよな」

「あら、二人ともお帰り。それと仁君ね。さあ、上がって」

と母さんは言う。

母さん、それは今言っちゃだめなんだよ。ダメな単語なんだよ。

「お前たちはそういう関係なんだな⁉」

「仁さん!勘違いにもほどがあります!」

僕は言う。そして、この誤解が解けるのに一時間かかった。そして、ちょうど誤解が解けた時に

「やっほー!差し入れだよ!」

と詩穂先輩が来た。

「え⁉二人ってそういう、関係なの?」

これまた、変なタイミングで誤解をするのだ。

詩穂先輩の誤解は仁先輩がいてくれたので三〇分で解けた。

「そういう事なら、速く言ってくれよ」

「言ったら、先輩は変な誤解をするでしょ」

「いやー、二人が大人の階段を上ったのかと思ったよ」

「誰がその階段を上るか!」

僕は詩穂先輩に言う。

「この話はこの辺にして、本題に入ろうか」

「そうしてください!」

僕は言う。本当にひどい目に合った。これがクラスに知られると今以上の誤解が生まれそう。それはそれで、大変な事件になる。

それより、僕のペットの部屋がすごいことになっている。部屋の真ん中に大きな机が置かれ、それを囲う様にみんなが椅子に座り、僕の席と彼女の席にはノートパソコンが置かれている。そして、壁にはホワイトボードがつるされている。

完全にどこかの会社の会議室みたいになっている。

よかった……僕の家が広くて。

僕の家は近所の家に比べて、二倍くらい大きい。これは父さんの力だ。

しかも、三階建てという、なんとも言えない贅沢な家だ。

「では、僕、吉田春樹が受けた依頼、密室事件について、第二回、修正部会議を始めます!」

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