第2話
僕たち修正部と顧問(仮)の高橋先生が一緒に向かった。
テニスコートには、片付けを始めている、井上さんがいた。
僕たちは、片付けを手伝った。速く真実を伝えたいからだ。
そして、片付けを終えた僕たちは昨日の川敷に向かった。
僕は川敷に向かいながら説明を始めた。
「昨日僕が受けた依頼は、行方不明のココアちゃんを探す事です。あってますよね」
僕は依頼主本人の井上さんに尋ねた。井上さんは当然かのように
「はい、そうです」
と頷きながら言った。
「では、初めに、ココアちゃんはどうやって、脱走したのか……」
僕は何も知らない、修正部と先生に尋ねてみた。そして、昨日一緒に来ていた清水が
「リビングの窓から逃げたって、言っていた」
と答えた。そう、彼女の言う通りだ。
「そう。だけど、本当に窓から逃げたと言いう証拠はない。ココアちゃんは本当に窓から逃げたか?」
「どういうことだい後輩君!」
と相変わらず元気がいい詩穂先輩が僕に聞く。
「昨日、僕はココアちゃんが使っていたタオルを借りるため、井上さんの家に行きました。中もお邪魔させてもらいました。だが、僕は違和感を感じたのです」
「違和感ですか」
と話に微妙に興味を持つ先生が聞いてきた。
「はい、ココアちゃんはリビングで飼っていたと聞きました。間違いありませんか?」
僕は井上さんに聞き直した。
「はい、そうですが……それがどうかしたんですか?」
と疑問を抱く井上さん
「なら、なおさら変なんです。リビングで育ったはずのココアちゃんの育った形跡が全くなかったんです」
「え、それじゃあ、ココアちゃんは井上さんの……」
と僕とは違う考えになった先生を僕は
「いえ、ココアちゃんは確かに井上さんの犬なんです。タオルが証拠です」
「じゃあ、どういうこと?」
と先生は混乱し始めた。そこに
「消したのか……」
と仁先輩が言ってくれた。
「え?どうして、消したってどういう事?」
「皆さん、ここからは内密にお願いします」
「なんか、内密って聞くと、ワクワクするね!」
と話に全く関係ないことを言い出す詩穂先輩。僕は気にせず
「まず、犬を飼う事になったら、基本的に何を用意しますか?」
「犬小屋またはゲージね。家に誰もいないときは動き回れると危ないこともあるしね」
と先生が常識の物を言ってくれた。
「おやつ。人もおやつ食べるから、犬にも必要だよ。不平等は反対だ!」
と期待外れの事を言う、詩穂先輩。
「水入れやエサ入れの事か」
「そうです。仁さんは鋭いですね」
と僕は言う。
「確かに先生が言ってくれた通りです。小屋やゲージは基本的にどこの家も用意するでしょう。でも、なかったんです。僕は最初、常に放し飼いをしているのかと思ったんですか。でも、妙な隙間が有ったんです」
「その隙間にゲージか小屋が有ったってことか」
「はい」
と僕の考えていることが大体読めてきたんだろう仁先輩は次々と僕の問いを答えてしまう。
「そこに明らかにあっただろうゲージが無くなった。そして、何より仁さんが言ってくれた通り、水入れが無くなっていた。日中家には誰もいない井上家。水入れを一つや二つ置いていくはず。それがどこにも見当たらなかった」
「つまり、ココアちゃんを捨てたってことか……」
「そういう事です……」
そして、さっきまで黙って聞いていた井上さんが
「変な事を言わないで!水入れくらいもってるよ。倉庫に置いてあるだけよ」
「なぜ、探しているのに、水入れを倉庫なんかに入れるんですか。井上さんはココアちゃんを探しているんですよね」
僕は淡々と井上さんに言い放った。
「それは……」
黙り込んでしまった井上さん。
「それに、水入れなら、ここにあります。エサ入れも」
僕はカバンから、袋に包んだものを取り出した。
「ここからは僕の想像です。間違っていたらすいません。井上さんは少し前、そうですね、二週間くらい前でしょうか。親の喧嘩が盛んじゃありませんか。離婚の話も出ていると思います」
井上さんは暗い顔を作り始めた。
「そんな場にココアちゃんをおいてはいけないと思った、貴方は誰に引き取ってもらう事を考えた。あなたのクラスの人、部活の人から聞きました。あなたは友達にひたすら頼み込んだ。だけど、誰も引きっとてくれなかった。そうなった、あなたはどこかに捨て、通りすがりの優しい人に拾われることに賭けた」
「そんな」
僕は順に説明をしていく。
僕の説明を聞いて、詩穂先輩は珍しく、静かだった。
誰もがこんなことを聞けば、こうなるだろう。
「だが、喧嘩は一週間前に何も無かったように収まっていた。だから、あなたはその時に自覚した。自分は酷いことをした。そして、やり直したいと思った。
だから、捨てたところに行った。だが、ココアちゃんはいなかった。水入れとエサ入れも一緒に。あなたは誰かに拾われたと判断した。そして、せめて誰が飼っているのか気になったあなたは、修正部に依頼したと」
僕は説明を終えた。
「全部あっています。私は罪滅ぼしにあの子を幸せを見届けたいんです。だから、どこの家に過ごしているのですか?」
と全て認めた井上さん。僕は言った。
「ココアちゃんは誰にも拾われていません」
「え?どういう……ことですか?」
「それは、来たら分かります」
僕はそう言って、川敷に向かった。
川敷にはすぐに付いた。五分もしなかっただろう。
「これは」
と仁先輩は言った。言葉を失っているのか。
「ココアちゃんはあなたが捨てたすぐあと、お母さんになったんです」
「あ、だから、その護衛をチップ君が!」
とチップがなぜ護衛をしていたのか理解をした先生。
「この子たちはまだ、目が開いていません。一匹から一気に五匹になるのは、結構な負担が井上さんにかかります。そして、放置をすれば、そのうち誰かが気づき、保健所に行くかもしれません。せっかく出来た命です。無駄には僕はしてほしくないです」
僕は言った。僕は井上さんがどうするか見ていた。井上さんはココアちゃんの頭を撫でた。
「いいお母さんになったんだね」
それだけココアちゃんに言った。
井上さんは立ち上がって、頭を下げた。
「お願いします。この子たちが幸せするのを手伝ってください」
そう、僕たちは頼まれた。僕はこうなるのを待っていた。
「そんなの修正部にかかれば、朝飯前だよ!」
と詩穂先輩が余裕表情に胸を張って言って見せた。
「俺の知り合いに犬が欲しいっていう人が居るから、聞いてみるよ」
「私も教師として手伝います」
「あ、ありがとうございます」
また井上さんは頭を下げた。その頭をそっと撫でる清水。
「辛いときは、誰かを頼っていいのよ」
あの問題児、清水がものすごくいいことを言っている。たまには良いことを言うやつなのかもしれないな。
「清水の言う通りだ。友達が無理なら、先生とかにでも相談してください。何なら修正部でも構いませんよ」
と宣伝を含めたことを僕は言った。
「さて、仕事を始めますか。先生パソコン使うので、手伝ってください」
「任せて、今こそ、私の教師の力を見せてあげる!」
とても張り切る先生。
「仁さんと詩穂先輩は、聞き込みをお願いします。井上さんと清水とチップはこの子たちの面倒を見てあげて」
「はい」
「ワン」
と言い返事をする井上さんとチップ。
「任せて」
大分、不安の残る任せてだ。だが、井上さんがいるから大丈夫か……。
そして僕たちは最後の大仕事を始めた。
僕は先生とPCでポスター作りをしていた。一匹一匹丁寧に、目に留まりやすいように目立つように、作った。
仁先輩と詩穂先輩の知り合いで犬を飼いたい人がいた。子犬は四匹そのうち二匹は引き取られる。
翌日、一匹はポスターを見た近所の人が飼いたいと思い、家族と相談して、子犬を飼う事が決まったみたいだ。
残り一匹。だが、残り一匹はいつまでたっても、貰い手が決まらなかった。
そして、ミーティングが開かれた。
「今日の議題は子犬の事についてです。何か意見はありますか」
僕がこの依頼を一番最初に受けたので、僕が司会をすることになった。
三人と顧問とPC越しに参加する人、一人。僕を含めて、合計六人でミーティングが始まった。
「やっぱり、どうしようもないのかな」
と最初に口を開いた先生。その意見に対して、僕たちは何も言わなかった。
『ピロン!』
とPCからメールが来た。
『春樹、お前が引き取るのが一番ではないか?』
確かに坂本の言う通り、僕が引き取れば何もかも解決する。だが、僕はすでに沢山の生き物を飼っている。
これ以上飼うと、どれかを疎かになってしまう。
それだけは僕は避けたいのだが、現実は甘くない。
僕は疎かになることを確信している。だから、これ以上飼うのは……
「この部活の愛犬」
不意に清水がそう零した。
「そっか、この部活の物にしたら、春樹が面倒を見ることを出来なくても、他の人が見れる」
と仁さんがひらめいたみたいな、明るい顔で言った。
いや、それは学校側が何か文句を言うのでは。
「なるほど、校長室に行ってくるわ!」
と先生は早速、行ってしまった。どうなるかは、予想が付いている。
およそ、一〇分くらいたった時、先生は帰ってきた。先生は今までに見たことないくらい真っ暗な表情だった。
ダメだったのか……
「許可書・・・もらって・・・」
「先生、その先は言わなくていいよ」
「来たよ」
「テンション、真逆!」
僕は思わず、大地のようにツッコミを入れてしまった。
「ってことは……」
と仁先輩は徐々に声が高ぶっていた。
「修正部の愛犬が出来たぞ!」
詩穂先輩が学校のどこにいても聞こえるくらいの大きな声で言った。
「京子ならやると思っていたわ」
「ええ、その代わり唱ちゃん、今日から修正部に入部ね」
「イェーイ、今日は愛犬が仲間になった&唱たん歓迎パーティーを開こう!
みんな今日の晩御飯は後輩君の家で鍋だぞ!ターンと騒ぐぞ!先生も来てね!」
「ちょっと、僕の許可なしですか⁉」
とまあ、今日はこんな感じで楽しいだろう一日が始まりを告げた。
五時間後
僕は親に鍋パーティーを開くと知らせた。親は喜んで準備を始めた。そんな家の中が少し騒がしくなってきたときにインターホンがなった。
僕は玄関を開けて、客を迎えた。
「ヤッホー後輩君!五時間ぶり!」
「よっ、悪いな」
と仁先輩、詩穂先輩がうちに来た。二人とも片手に何か持っていた。
「これ、具材な」
と仁さんに渡されたのは野菜がたくさん入った袋。四割くらいネギだ。
「私はお肉だよ!」
とお肉がたくさん入った袋を僕は受け取った。
「ありがとうございます。汚いですがどうぞ」
「お邪魔します!」「お邪魔します」
と二人は礼儀正しく、僕の家の中に入っていった。
「こんにちは!小池詩穂です!」
「あらあら、元気がいい子。こんにちは。ゆっくりしていってね」
「すいません先輩。僕の家族も参加していいですか?」
僕は先輩に聞いてみた。
「何言っているんだ?ここは春樹後輩の家。家族が参加するなんて当たり前だぞ」
と仁先輩は格好いいことを言ってくれた。有難いけど、ちょっとホモに感じる行為は避けて欲しいね。
そして、良いタイミングにまた、インターホンがなった。
「こんにちは。吉田君。ごめんね。お邪魔させてもらうね。あ、これ、飲み物を買ってきたら」
と先生から飲み物が入った袋を受け取った。
「ありがとうございます…………」
「お邪魔するわ」
と隣の清水は手ぶら。
「清水は何もないのか?」
「ないわ」
この子は絶対、速く常識を教えてあげるべきだ。
「ごめんね。許してあげて。あ、そうだ。これこの前の借りたお金」
僕はお金を受け取った。小銭を沢山受け取った。僕はその小銭を数えた。
「先生足りませんよ」
「え⁉嘘!ちゃんと一三二〇円あるはずよ」
「ええ、それは本代で、この前、学食で清水に三〇〇円の唐揚げを奢ったんです」
僕は唐揚げの請求書を先生に見せた。
「食べたの?」
先生は彼女に聞いた。
「食べたわ。おいしかった」
「そ、そんな」
先生はがっくりしていた。ここはパーティー会場になる。暗い空気は入れて欲しくないだろう。
「わかりました。唐揚げは良いです。ちゃんと一三二〇円いただきました」
僕は言って、玄関に置いてある、小型のシュレッターで、唐揚げの請求書を通して粉々にして見せた。
「ありがとう、吉田君」
「その代わり、パーティを少し盛り上げてください」
「お任せ有れ」
先生は敬礼を僕にして、僕の家に上がった。
僕は二階からPCを持って降りて、坂本と繋げた。坂本は画面越しに移っていた。
『PCはいらない。パーティーに参加する』
とだけ言って、すぐに切れた。
僕が二階からPCを持ってきた労働を返して欲しいな。
でも、人数が増えるのは良いことだ。パーティが楽しくなるはずだ。
僕も感じてみたいよ。楽しい……って………
さて、鍋がそろそろできそうだ。良い匂いがリビングから漏れてきた。
僕はリビングに戻った。
「後輩君!遅いぞ!もう、ネギが出来ているぞ!お肉が出来ているぞ!」
と僕を箸で刺す詩穂先輩。
「あ、お父さん、盃が開いてますよ」
気が利き、礼儀のいい仁先輩だが、地味にホモが出ている。
久しぶりにお父さんが部屋から出てきている。
そして、玄関が開く音が聞こえた。
「ただいま!兄さん、友達がって、修正部がうちに来ているし」
「ああ、悪い。今日は鍋だ」
「‥‥‥まあ、良いよ。‥‥‥鍋だし。友達、来ているよ」
妹に言われ僕は玄関を開けた。外はだいぶ暗くなってきた。
「おお、早かったな」
「旨いものを食べたいからだ」
「利益があるなら、なんでもするもんな。さあ、上がってくれ。先輩たちが今、盛り上がっているぞ」
僕は坂本を歓迎して、家にいれた。
「そんなのはどうでもいい。旨いものが重要だ」
「はいはい、ちゃんとあるよ。速く食べな」
僕は坂本をリビングに入れて、椅子に座らして、箸と皿を渡した。坂本はすぐに鍋の具材を食べ始めた。
「唱たん、このネギあげる。太くて、大きいよ。汁が出るから、火傷に気を付けてね」
詩穂先輩の下ネタに妹の詩織は
「ちょ!先輩!やめてください」
過剰に反応する。詩織もそういう年頃だから仕方がないのだろう
「詩織ちゃん、過剰に反応するのをやめよ。お行儀が悪いよ。気にせず、ね」
先生に言われた詩織は落ち着いたのか、席に着いた。
「そうだよ、しおりん。食べ物で反応するのは幼稚園までって、決まっているんよ!」
とまた、余計な事を言う詩穂先輩。また、すぐに詩織が立ち上がって、顔を赤くして
「やめてください!先輩!お兄ちゃんの前では、恥ずかしいから!」
おい、なんで僕の前ではダメなんだ。これは兄として傷ついたかな?
「いや、別に僕は構わんぞ。楽しそうな詩織を見れて、嬉しいぞ」
「お兄ちゃんに感情、ないでしょ!」
確かに感情はないが……
何も言えない
「あ、ごめん言いすぎた」
「全然、構わないよ。事実だし。それより、盛り上がっていこうぜ」
僕は何も気にしない先輩たちのように明るく言った。
詩織もそこまで、気にせずにまた、先輩たちとがやがや騒ぎ始めた。
みんな、楽しそうで何よりだ。
父さんも母さんも楽しそうに、笑っている。
先生も遠慮して、楽しめていないかと思ていたが、全然楽しそうに飲んでいた。
坂本は先輩たちに声をかけられて、塩対応だったけど、本人は嬉しそうだ。
清水は修正部の愛犬を撫でて、本人も満足そうな顔をしている。
「そういえば、まだ、名前が決まっていませんでしたね。何にします?」
僕はみんなに聞いた。そして、一番最初に口を開いたのは清水だった
「Leek」
おい、いくら今、ネギ鍋をしているからと言って、名前をネギにするのはよくないだろ。国際科で、英語を使っているのは良いが、せめてもっとましな名前を……
「なるほど、良いね」
よくない、よくない、よくないよくない!
「リーク、今日から君はリークだぞ!」
僕が言葉にする前に修正部の愛犬の名前がリークになりました。
まあ、呼びやすいからいいのかもしれないな。
名前の由来を聞かれなければいいだけの話だ。
「食べ物を名前にした人は初めて聞いた……」
と失言しかけている詩織。まあ、普通はこうなるよな。
でも、この人たちは問題児。何を言っても無駄な人たちだ。
「記念に写真を撮ろうよ!」
と詩穂先輩の案が賛成され、僕たちは最後に一枚の写真を取った。
今回の依頼は無事解決。
一件落着のはずなのだが、事件はこれから起きる。
「あ、吉田君。今日から唱をここに住ませてあげて」
「はい?」
僕は聞き間違いをしたかもしれないので
「すいません。聞き間違たかもしれないので、もう一度」
「え、だから、今日から唱をここにすませ
「もういいです!」
なんでこうなった。
「僕はともかく、僕の親がそんな許可出すわけがないでしょ!」
「あら、その許可書ならハンコついちゃったわよ」
なんてこった!いつの間にそんなことをしていたんだ。
「そういう事だから、お願いします。あと、明後日、必ず学校に連れてきてね」
親が許可出したのなら仕方がない。
「わかりました」
「絶対、連れてきてくださいよ。絶対!」
何回も念押しに言ってくる先生に僕は
「わかりましたから」
適当に返事をした。
ここからがいけなかったんだ。この時にちゃんと拒否するべきだったんだ。
だが、時はもう遅かったみたいだ。
月曜日。今日から彼女は僕が通う、岸川高校の国際科で学ぶことになっている。
僕はいつもどうり、早く起きた。今日は悪い朝を迎えた。
リビングに降りたら、朝ご飯が準備が出来ていたので、僕はさっさと済ませ、学校に行く準備をした。
「春樹、まだ唱さんが起きていないの、起こしてあげて」
「わかった」
僕はそう言って、彼女の部屋の前まで来た。僕はノックをした。返事はない。
「清水。朝だぞ。今、起きないと学校に遅れるぞ」
もちろん返事はない。何かが動く音はするのだが……
「入るぞ!」
僕は一様彼女に言って入った。まあ、多分彼女には聞こえていないだろう。
「起きろ。学校の時間だ」
僕はそう言いながら、閉ざされたカーテンをまず開けた。
「う……うう、学校にはまだ、早いわよ」
「何を言っている。学校に行く時間だ」
「学校は好きな時に行くところ、昼から行くわ」
何を言っているのこの子は?まさか、常識がないってまさか、ここまでないのか。
学校が何なのか、それすらも知らない、常識のないやつなのか?
これはやばい。このままだと確実に学校に遅れる。
「速く起きろ。理由は何でもいい!速く僕のために起きてくれ!」
彼女は体を起こした。
よし、この調子で頑張れば、遅刻は免れる。
と思ったすぐ、彼女の体はベットへ倒れこもうとしていた。
僕はあわてて、その体を支え
「何寝ようとしているのかな。速く起きてくれ!母さん!助けて!」
と助けを呼んだ僕。母さんはすぐに来た。
「どうしたの?まあ、あらあら」
「あらあら、じゃない。手伝って」
こうして、僕と母さんと二人により、彼女は起きることが出来、学校に行くために家を出ることが出来た。
「いってきます!」
「いってきます」
僕は彼女の手を握って、走った。
いつもなら、詩織より速く家を出るのに彼女の常識のなさが原因でいつもより遅くに家を出ることになってしまった。
僕は今までにないくらいの速さで走った。
走り始めて三〇秒くらい経過した。赤信号に引っ掛かった。すでに肺が痛いくらいに息が上がっていた。
彼女は全く微動だしないくらい、余裕の顔だ。
「辛そうね」
「誰のせいだと思う?」
「春樹のせい?」
「清水のせいだよ!」
僕は先生にツッコミを入れるかのよう彼女に言った。
信号が青になった。僕は青になる一秒前に横断歩道を渡り始めた。
「フライングは危険よ」
「誰のせいで、こんな事してると思っていんだ!」
僕に注意する彼女。言っている事は正しいが今はそんな細かい事を守っていると、遅刻する。
「清水、お前、全然息上がってないけど、どれだけ体力があるんだ?」
僕は尋ねる。僕はさっきから全速力で走っていて、汗をこれ以上にないくらい掻いているのに、彼女は汗一つ掻かず、さらに今も息は整っている。
女の子にしてはすごすぎる、体力だ。
「だって……」
「おう」
「春樹に引っ張られているだけだもの」
「そりゃあ、汗一つ掻かないわ。俺も引っ張られたいよ!」
僕は素直に言った。もう、体力の限界が来そうだ。いや、すでに来ているが限界を超えている。限界突破!って詩穂先輩なら言いそうだ。
そんなことを考えている場合ではない。学校までの距離はあと一〇〇mくらいだ。短そうで長い残りの道。
「春樹、私が引いてあげる」
「は?」
そう言って、彼女は僕よりはるかに速く走り始めた。
速い……五〇mを六秒台で走ることが出来る速さ。それを残りの一〇〇mを走り切った。
「教室は分かるな!」
「分からないわ」
彼女は当然化のように僕に言う。
「この前、案内しただろう!」
「部室なら覚えてるわ」
「教室を覚えていろ!」
僕は彼女の手を再び引いて走り始めた。彼女は無事に教室につくことが出来た。
問題はここからだ。どうする。校舎の位置が普通科と国際科とでは別々だ。
僕は普通科の二組の教室に向かって、走り始めた。
「HRまであと五分。普通に行けば遅刻確定だ」
僕はどうしたらいいか、頭をフル回転させて、有ることを思いつた。
僕の頭の中は学校内のマップが浮かんで最短コースを作った。
「あ、吉田君廊下は――
僕は先生の声など聞かずに近くの窓に足をかけてそのまま、その足を蹴った。
―—飛んじゃダメー」
と窓から僕を叱る、先生。
僕は何も聞かない事にした。
よい子は二階から飛び下りずに、ちゃんと階段を使いましょう。
僕はそのまま、普通科の校舎に一直線に走った。
僕はまた、窓から校舎に入り、階段を上って、二階に付きすぐに左に曲がり教室のドアを勢いよく開けた。
「お、おはよう」
教室はさっきまで静かだったのに、僕が勢いよくドアを開けたのが原因で静かに空気が凍ってしまった。
「よう、春樹。珍しいな、こんな時間ギリギリに来るなんて。それにさっき先生に窓から怒られていなかったか?」
と大地はさっきの僕を少し見ていたみたいで僕に尋ねてきた。
「ああ、いろいろあったんだ」
と僕は大地に何が有ったのか、いろいろの部分を説明をした。
「そりゃぁ、お疲れだね」
と大地は他人事のように軽く言う。実質、他人事だからいいのだが、ちょっとは同情してほしいところもある。
僕はHRまでにこの、疲れを取ることに徹底した。
先生が来たのは一〇秒後だ。僕は一〇秒しか疲れを取る時間がなかった。
先生はHRで
「今日は購買が五〇円セールしているけど、くれぐれも窓から飛び降りて、ショートカットをしないように。ね、吉田君」
と僕に怒りはしなかったが、注意をされた。それに対し僕は
「はい」
と答える事しかできなかった。
HR後、クラスは賑やかになり、時々、僕の耳に
「窓から飛び降りるってどういう事だ?」
と言っているのが聞こえてくる。その問いに対し、その友達は
「ああ、吉田が国際科の校舎の二階から飛び降りて、ショートカットしたらしよ」
と正しく言っていた。そのことを知った人は
「マジ、さすが修正部だ」
と言っていた。
最後のは絶対に余計な一言だ。僕はそれを声に出さず、飲み込んだ。
今日は教室にいた時は穏やかで平和だった。
だが、七時限目が終わり、部活が始まると
「後輩君!今日も仕事が入っているよ!」
「春樹後輩、俺はこれから若奥様のところに行ってくるから、これ、一旦春樹後輩が預かってくれないか。明日、持ってきてくれ。それじゃあ」
と仁先輩はすぐに部室を出て行き、詩穂先輩は相変わらずのテンションの高さで僕に話しかけたり、いろいろ、大変になってくる。
そこに新たな部員、清水唱が加わると、修正部は未知の世界になってしまった。
「春樹、リークお腹が空いたみたい。ご飯頂戴」
と一見、犬の世話をしているように見えるが、これは遠回しに自分がお腹が空いたと言っているのだ。
その証拠に彼女のお腹が盛大な合唱を始めたのだ。
「リークのはあるが、清水の分はないぞ」
「春樹のケチ」
「え、僕が悪いの?僕が悪いの!なんで、僕が悪いんだ!」
僕は彼女に必死に僕が悪くない事を説明しようとした。
が、この行動は無意味だった。
こんなことをしていても、意味がない。部活を始めようと思い僕は依頼書を手に取った。
「テストが近いのだが、勉強が進まない。最近何やってもうまくいかない。
探し物を探してください。僕にできそうなのはこれくらいかな」
恋愛相談ばかり。感情に関しては僕には向かい。
大雑把な感情はできるが恋愛に関してもは僕には手も足も出ない。
「お、こーはいくん、仕事に行くの?」
「はい、行ってきます」
「修正部の未来はこーはいくんに掛かっているからね!」
と詩穂先輩は変な事を言いながら僕に敬礼をして、見送ていた。僕はその敬礼を無視をして、部室のドアを閉めた。
「さて、どれからしようかな」
僕は一人でぶつぶつ言いながら、適当に歩いていた。その数分後
「これにするか」
「どれ?」
「ああ、この最近何やってもうまくいかない、って、ないんで清水がいるの?」
とさっきまで後ろには誰もいなかったはずなのに、僕のすぐ後ろに彼女がいた。
いつもなら、誰か後ろにいることは気が付くのに。
僕は考えた。そして、
「清水、袖を貸してくれ」
僕の頼みを何も言わずに聞いてくれた。
僕は彼女の袖を鼻に近づけた。そして、気が付いた。
彼女のにおいが俺の家のにおいにかぶさっている事に。
彼女のにおいは完全には消えてないが、すごく意識しないと感じないくらい、僕の家のにおいになっている。
「春樹……」
「あ、ああ、すまない。清水のにおいが俺の家のにおいに代わっていてな。だから、俺は清水に気が付かなかったんだ」
「春樹は犬ね」
と彼女は正直に僕を人間から犬に塗り替えられたことを知らされた。
僕は彼女から見たら、何なんだろう。本当に犬なのか。
「なあ、清水は僕の事を……
「お兄ちゃん、大変なの!」
と僕が清水に聞きたいことを聞く前に妹の声が耳に入った。
「どうした?」
と詩織は息を切らして、僕に助けを求める目をして、言った。
「密室事件が起きたの!」
「「密室事件⁉」」
彼女と声が重なった。
そんなことは今はどうでもいい。そこにケガ人がいない事が重要だ。
「ケガ人とかいないよな」
「ケガ人かどうかは分からないけど、野球部員がそこに気絶していたよ。今は目を覚まして、保健室にいる」
ケガ人出現か。嫌な方へ、真実が向かわない事を願おう。
「わかった、とりあえず現場に行こう。場所は?」
「こっち」
詩織は僕の前に立ち、先へ進んで行った。
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