第1話

暗いところから、一筋の光が差し込む。

まるで深くて暗い海の底から、太陽の光が差し込む感じ。

その光は次第に暗闇をかき消していくように広がっていく。

―――ああ、今日は良い朝を迎える事が出来そう‥‥‥。

そんなことを考えていたら、何かが勢いよく顔に飛び込んで来た。そして、その衝撃で僕は

「ぐぇ」

と朝から情けない声を上げる。

―——今日もいい朝を迎えることが出来ませんでした‥‥‥はぁ‥‥‥。

僕は大きく心の底からため息をこぼす。

僕ははっきりとしない意識の中、重たい体を起こした。

眠気で瞼すらも重たい。この重さに学校というものが頭の中で浮かぶとさらに重くなっていくのだが、その前に一つ気が付いた事がある。

頭の重さは眠気で重いと判断したが、物理的に重いことに気が付いたのだ。

と、言っても僕には眠たいという感情的なものは存在しないのだが、細かいことは気にしないで行こう。

話を戻すが、この物体は細長く僕の頭から首元あたりまで有り、少し毛のふわっとした感じが頭の感覚器官を刺激する。そして、僕の首の寄りの肩に頭からずれ落ちないように支える何かが乗っている。これは‥‥‥

「チップ‥‥‥人のいい朝を邪魔しないでくれ‥‥‥」

このチップと言うのは我が家のペットであり家族的存在で、いや、それ以上と言ってもいいくらいでもある。犬種は豆柴寄りの雑種だ。チップは四年前から飼い始めている。

餌代は自腹だ。毎月、末の方では俺の財布が底をつきそうになるのがいつもの事だ。

かといって苦しい生活をしているわけでもない。その理由はのちにわかるだろう。

他にもいろいろ飼っているペットはいる。もちろん、みんな僕の大事な家族だ。

体の重いと思っていた感じも無くなり、頭にチップを乗せながら母さんがいるリビングに向かう。

そういえば、まだ自己紹介がまだだった。

僕の名前は吉田春樹。岸川国際高等学校、通称岸高の普通科、今日から新学期のため二年へと進級した。僕は飼育マニアで、小説ヲタクだ。部屋の本棚ぎっしり詰め込んだ本。

図書館並みではないがざっと五十万くらい本にお金をかけている。と言っても毎月五千円のお小遣いに十万のバイト代。この約八割はペットたちに使っている。

僕が通っている高校は名前を聞けば分かる通り、国際科がある。

この学科は英語を得意とする人間が集まり、口を開けば英語を話すような人たちの集まりだ。学食に行っても、休み時間の時も常に英語を話すような人たちばかりだ。

その中でも問題児たちがいるのだが、のちに説明させられることになるだろうから、後にしよう。

僕の自己紹介はこの辺にしておいて、次は俺の妹。

僕の部屋は二階。その隣の部屋は妹の部屋だ。

妹は吉田詩織。俺が通う岸川国際高等学校の普通科、一年。岸高をトップで入学する天才の妹だ。

その隣の隣、つまり二つ置くの部屋で過ごしているのが、僕の父さん。

父さんは小説家ですごく良い作品を作る人だ。一日中部屋の中にこもっては小説を作っている。

父さんは結構な努力家だ。良い人なのだが、仕事熱心で、小さいときから、あまり遊んでもらったことがない。

でも、家族のために働いているのなら仕方のないことなのかもしれない。

その辺は僕にはよく分からない。僕だから……

妹なら分かるかもしれないが、高校生にもなると、そんな事どうでもいい気がする。

さて、次の人を紹介する、と、言っても人間と判断していい人は最後なのだが……僕の母さん。

「おはよう」

僕が何も言わずにリビングいたら、母さんが声をかけてきた。

「おはよう、母さん」

俺はそう返した。

母さんは家事をしながら、父さんのサポートをしている。

人間と判断していい人の自己紹介はこの辺にしておこう。

俺は朝ご飯を食べてすぐに家を出た。

「いってきます」

母さんが返事を聞く前に玄関のドアは閉まった。

僕は徒歩で学校に通学している。いつもと同じ通学路。誰もが見たことが有るような景色。桜の木がずらりと一列に並ぶ。僕はその道を歩く。

橋を渡ると住宅街に入った。

学校はすぐそこだ。

だが、一般人からはここからが苦痛かもしれない

なぜなら、これから紹介するのは問題児たち、人間なのか危うい人たちだからだ。

「後輩君!後輩君!」

と僕の名前を呼びながら走ってくるのは国際科三年、小池詩穂。

彼女は国際科でトップを誇る天才。さらに彼女は世界で誰もが彼女の名を知っているような、人間なのだが、

「私って結構凄いんだよ!胸が‼」

と、重症的な変人で問題児だ。

さっきの発言により、周辺を歩いていた中年の男性が過剰な反応を見せた。

このざまだ。

僕は大きくため息をした。

すると一台のタクシーから僕が通う高校、岸高の制服を着た、男子生徒が降りてきた。

「よう、春樹後輩。朝からため息はよくないね。話を聞こうか?」

と、この見た目が超絶イケメンの彼は国際科三年、梶野仁。

彼は彼女、小池先輩の幼馴染で常に上位五位以下を維持する天才。

また、彼も世界で名が知られている人間だ。

だが、彼が持ってはいけない部分は

「何なら、今からやるかい?」

彼はたまにホモなのだ。

彼の近くに奇跡的にいた男子はすぐにあの世行きだろう。

さっきの発言だけを聞いてしまうと変人でしかない。

本当にホモかどうかは見ての通り普通の人間なのだが

「おっと、すまない。さよならのキスがまだだったね。それじゃあ、俺は学校だから」

と毎日、僕が決して踏み入れる事のないことをしていて、独身男性を敵に回す人間なのだ。学校ではホモになってしまう、謎の現象が起きる、嫌な感じの人なのだ。

――多分、からかっているだけだと思うが‥‥‥。

「お、春樹じゃん。おはよう・・・って、問題児が集まってる……」

と彼は普通科二年、小谷大地。僕の中学からの付き合いだ。

と大体の登場人物を紹介し終えたころには僕の教室、二年二組に着いた。

教室は云ったって、穏やかで平和だ。

「あいつ、今日も来てないな」

と大地がさした人間。普通科二年、坂本太助。

彼はプログラマーで、いろんな会社から声をかけられている、天才だ。

なんせ、今は自動返信メールを現実化にしているとか、何とか‥‥‥僕にはよく分からない。

そんな彼だが、彼は完全に不登校で多分、今もPCにしがみ付いているだろう。

そんな彼に俺は

『今日から新学期だぞ。来ないのか?』

『いったところで何になる。俺に利益はあるのか?安心しろ三分の二は学校に行く』

彼もまた問題児だ。こんな感じで登場する人物紹介は終わりかな。

ああ、肝心なヒロインが必要だ。ヒロインになるかどうかは分からないが

「相変わらず、凄い人たちね。私にはついて行けないよ」

と彼女は普通科二年、山本美波。詳しい説明はできないが彼女はここ、関東地方から遠い地方からやってきたそうだ。場所は教えてくれない。

「ハーイ、席について。いない人手を上げて」

「いや、先生それじゃ出席確認できないでしょ!」

とコントのようにノリ、ツッコミをしている大地と理科担当、そして二年二組の担任をしている、高橋京子先生。

高橋先生は人気のある先生なのだが少し天然のところがあり、それを自覚してない。

「あ、そうですね。いない人は……うん、坂本君だけね。これで……よし、と

じゃあ、始業式があるから移動してね」

と出席簿に何かを書いてすぐに閉じ、僕たちに指示を出した先生は

「それじゃあ、私は始業式の準備があるから」

それだけ言って、廊下を走って職員室の方へ向かった。

「先生!廊下を走るとこけますよ!っていうか、廊下は走ってはダメなのでは⁉」

と大地がツッコミを入れる

「先生は走っていいのです。それに転んだりはしませっ……⁉」

と、しませんと言う前に派手に転んでいた。

先生は何事もなかったように走り去っていった。

「言わんこっちゃない」

あの人は天然なのか怪しい気がする。たまにわざとらしいときがあるのだ。

始業式は、校長先生の話、生徒指導の先生の話、生徒会からの話、そして、式には全く関係のない問題児たちの話。岸高の新学期はよくない形でスタートした。

と、まあ無事(?)に何とか始業式は終わり今日はこれで部活だったり帰宅したりする人で別れる。

僕は部活があるのだが

「吉田君、職員室に来て」

「は、はい」

僕は返事をして、職員室に向かった。職員室に呼ばれるのは薄々感じていた。予想はついている。多分、あれだろう。

「吉田君、春休みの課題の進路調査票、提出してないよね」

「先生は春休みの課題を出しましたか?」

僕は先生に言った。

「それは!いろいろあったんです。いろいろあって、課題を出し忘れちゃたんです!」

へぇ、ぜひそのいろいろを教えて欲しいですね。と、ものすごく言いたかったのだが我慢をした。

さっきから何の話をしているかというと、去年の一年生の時、終業式までに先生は春休みの課題を出し忘れていたのだ。

先生は生徒が下校した後にそのことに気が付いたのだ。おかげで春休みは少し楽に過ごせた気がする。

「話を戻しますが!」

「戻さなくて結構です」

僕は先生に言う。僕は進路に関していろいろ悩んでいる。将来どんな事をしたいのか、何を学びたいのか全く想像できていない。

「なら戻しません。話は以上です。って!私は何のために吉田君を呼びだしたんですか!」

と自我ツッコミをする先生。うまく天然が効いてくれなかった。

僕の作戦が上手くいけばさっきのですぐに部活に行けるはずだった。

「今は細かく進路の事は考えなくていいじゃないの。とりあえず進学って書いといてくれたら、それで先生は安心するから」

「はい」

俺は返事をして、すぐに部室に向かおうとした。

「あ!ちょっと待って、吉田君!」

とまた、先生に引き留められた。

「お願いがあるんだけど、良いかな?」

「構いませんよ」

僕は答える。僕は人助けなら基本的に引き受ける。

「私の妹が今年からここで編入するんだけど、どうやら迷子になったらしく今は、本屋にいるって言われたの。迎えに行ってくれない?名前は清水唱」

迷子?……簡単な話だな。こんなもの僕にかかれば、ちょちょいのちょいだ。

「わかりました。本屋ですね。では‥‥‥失礼します」

僕はそう言って、職員室を出た。僕は本屋に向かった。この辺で本やって言われたら、学校を降りたところにある、本屋さんだろう。

僕はそこの本屋さんに、正確には分からないが一〇分程度で到着した。

辺りを見渡したが待っている人らしき人はいない。

「あの、離して・・・あ、・・・や・・・やめ・・・」

と何か揉めているような感じだ。

「いいから、ちょっとこっちに来なさい」

とエプロンをした男性が女の子の手を引いている。

何かあったのか僕は気になり

「あの、どうかしましたか?」

僕は尋ねるとその男は

「ああ、ちょっとね。この子がお金を払わずに本を……」

なるほど、窃盗か。

「あの、名前を聞いてもいいですか」

「……………………」

え⁉声小さすぎない?もうちょっとはっきり言わないと、僕は聞き取れない。

「すいません。もうちょっと大きな声で」

僕は遠慮しながら言った。

「…………う……」

何も聞き取れない。何かを言っているのは分かる。顔は見えないが口元は見えていて、動いているから喋っているのだろう。だが、小さすぎて聞き取れない。

「すいません、もっとはっきりお願いします」

僕は気に障らないように配慮しながら言った。

「し・・・・しみず・・・・うた・・です」

しみずうたさんね。‥‥‥え⁉今、しみずうたと言いましたかあなた。しみずうたって言いましたよね。

あなたは清水唱さんですか?

僕は心の中で何回も清水唱を連呼する。

「あの、もしかして姉の高橋京子っていう天然の人いますか」

「京子を知っているの⁉」

急にはっきり言う彼女。初めて顔が見れた。

小顔で目は大きめで肌が白い。これは大層モテるだろうね。

さて、僕が探していた人も見つかったし、あとは

「すいません。本はいくらするんですか?」

僕は店員さんに聞いた。

「え、ああ、税込みで一三二〇円です」

「わかりました」

僕はそう言って、財布をカバンから取り出して、一三二〇円ピッタリ渡した。

「はい、ちょうどお預かりしました」

「本当にすいませんでした。あと、領収書をくれますか?」

俺は店員にそう言った。店員は

「少々、お待ちください」

と言って店の中に入っていった。

僕は領収書を受け取り、学校に戻った。

「あ、吉田君!ごめんなさい写真を渡すのを忘れていたんだ。けど、必要なかったみたいね」

「はい」

僕はそんな先生の話を聞かずにさっきもらった領収書を渡す。

「はい?」

先生は何の事がさっぱり分かっていないので僕は最初から説明した。先生は

「親から常識を教えるのを忘れていたと聞いていたから、これほどとはね」

「先生、話をそらさずに一三二〇円、返してください」

先生は作戦が失敗したような顔をしていた。

「お願い今はやめて、今誰かにお金を渡したら、底が尽きてしまうの」

「わかりました。今月中に返してください」

教師が生徒に借金だなんて聞いたことがない。

と言っても僕もそこまで余裕はないのに。バイトの時間を少し増やそうか……

僕はそんな事を考えながら部室に向かおうとした。

「あ、ついでに学校案内をこの子にしてくれる?」

僕は一瞬考えたがすぐに

「わかりました」

僕はそう言って、彼女を連れて職員室を出た。

「失礼しました。さて、どこから行こうか……行きたいところはあるか?」

「どこでもいい」

と僕の質問に即答の彼女。静かな子だ。それに人見知りが激しい。

別に僕にはどうでもいいことだから構わないが、この沈黙した空間はやめてくれ。

少しは喋ろうとしてください。

あ、これが気まずいっていうやつか。なるほど、なるほど。

「あの……」

「はい?」

僕に話しかけたので僕は返事をした。彼女から話してくるとは。

「ありがとう」

「何が?」

僕は彼女の感謝の意味が分からなかったので意味を聞こうとした。

「さっき、助けてくれた」

「だから、どうしたの?」

僕はまだ、意味が分からないので聞いた。

「えっと、ええっと、あの、・・・その・・・ええっと・・・・」

焦り始める彼女。なんでそんなに焦っているのだ。

「えっと、よく分からないけど、どういたしまして?なんで僕は感謝されたの?」

僕は自分の聞いた。当然何も分からない。

「本屋で助けてくれたから、ありがとう」

「助けただけで、なんで感謝されないといけないの。助けるなんて誰でもできるし、誰もがしているよ」

僕は言う。彼女はさらに焦り始める。

もしかして、僕が悪いのかもしれない。

「あ、もしかしたら、僕がおかしいかもしれない。僕、感情が乏しい?無いっていうのが正解かもしれない。みんなからはそう言われるし」

「感情がないの?」

「いや、大体は分かる。今はこの感情。この時はこんな感情、みたいな感じなんだけど。でも実際、自分では感じ取れていないんだ」

僕は言う。彼女からは反応はない。

「私は常識がないんだって、同じね」

「同じ・・・・か・・・そうだな。同じだな」

僕はそう言った。多分今は嬉しいのだろう。だが、僕には感じ取れない。これは僕が本当に感じている感情ではない。

それだけが確か。

ほかに何か感じているのか、と聞かれたら、何も言えない。

「そうだ、部室に案内するよ」

「部室?」

「ああ、僕が所属している部活だ。と言っても問題児たちの巣窟だけどな。とりあえず来てみなよ」

「行きたい」

彼女はすぐに答える。表情が少し明るくなった。

「わかった。案内する」

そう言って、僕は部室に案内する。

ここで簡単の何の部活か説明しておこう。

僕が所属している部活は、教師たちから見て、問題児と判断されたものは、本人の許可など関係なく強制的にそこに入部される。強制入部だ。

僕もその一環だ。

僕は学校にペットを連れてきたことが原因で強制入部された。

連れてきたというより、勝手に付いてきたって言うのが正しい。

だが、教師にそう判断されたら、卒業まで教師からは問題児という目で見られる。

だから、通知表では少し下げられる。

ちなみに去年の通知表は五段階評価で、国語4、数学4、生物5と科学5の理科5。社会3、英語4だ。

実技教科は3段階評価で、技術家庭科3、美術2、保健体育3、音楽2だ。

強制入部されたがそこまで悪くない数字だと僕は思う。

そんな、問題児が集まるこの部活、名前はProblem child Correctedだ。

(問題児 修正)

聞いた感じカッコいいだろけど、これを日本語に訳すと問題児、修正って意味になる。そのままだ……

もっとカッコいい名前があっただろうに……

この部活は皆は修正部と言っているので、僕もそう言わせてもらう。

修正部はいろんなところに置いてある、お悩みボックスに頼みたいことを書いて、入れておくと修正部がその依頼を解決させる。

いわばボランティア活動みたいなものだ。

長く説明している間に部室についてしまった。俺は目の前のドアを開けて中に入った。

「後輩君!待っていたよ!この依頼どうする。私にはできないよ」

「今度はココアを探してくださいですか?詩穂先輩」

僕は入ってすぐに声をかけてきた詩穂先輩に言い返した。

「凄い、さすが後輩君!やっぱり私たちは運命の赤い糸で結ばれているんだよ!」

「それは違います。運命の赤い糸は仁さんとですから。そこ、間違えてはいけませんよ」

僕はあっさり、運命を断って、正しい繋がり方を、詩穂先輩に言った。

「そんなの当たり前だよ!後輩君!」

「さっき、僕とつながっているって言ってましたよね」

僕は詩穂先輩に聞き直した。

「えへ、そんな事言ったけ?それより、ココアをどうやって探すかだよ後輩君」

と誤魔化された。

犬のココアを探してください。犬種はチワワ。全身真っ黒で耳先だけが茶色。

なんとも定番的な事を書いているんだ。

俺は依頼を詳しく読んでみた。

俺はさっき座ったばかりなのに、すぐに立ちあがった。

「どこに行くの?後輩君」

「依頼主のところです。いつものあれです」

「ああ、なるほど。さすが後輩君は仕事が速いね」

「清水さんはどうする?」

僕はさっきからずっと、空気と一体化しそうな彼女に聞いた。彼女は

「付いて行く」

と言った。

「わかった」

僕はそれだけ言って、部室を出ようとした。けど、彼女はついてきていない。

「何してるの速く行こう」

さっきから何も動かない彼女。様子がおかしい。

「どうした?」

「お腹がすいた」

なるほど、先生よかったね。新たな領収書が出来たよ。これで二枚目だ。

「わかった。とりあえず付いてきてくれる?」

「わかったわ」

彼女はそう言って、僕の後ろに来た。

僕はそれを確認した後、すぐに依頼主のところに行った。多分、依頼主は今は部活をしているだろう。確か、テニス部だったはず。

俺はテニスコートに行った。もちろんそこには、依頼主、井上美幸さんがいた。

「あの、修正部です。探している犬の事について聞きたいことが有ります」

僕はそういうと、すぐに井上さんが来てくれた。

「こんにちは、修正部の吉田春樹です。お宅のココアちゃんについて聞きたいことが有るのですか、お時間よろしいですか?」

僕は丁寧に尋ねた。

「井上です。時間は全然、大丈夫ですよ」

「わかりました」

ここから、僕はいろんな質問をした。まとめると

ココアちゃんは二日前にいつもココアちゃんが過ごしている、リビングの窓から脱走。家の周辺は隅々まで探したが見当たらず、近所の人に聞いても、目撃情報はないそうだ。

最後に僕はこう聞いた。

「何か、ココアちゃんのにおいが染みついたタオルなどはありますか?よく使っている座布団とか」

そう聞いたら、

「ええ、有りますよ。ココアはお気に入りのタオルがあります」

「それはこの二、三日洗濯してませんか?」

僕が聞くと井上さんは

「はい、していませんよ」

これは速く依頼が解決しそうだ。

「それ、少し借りてもいいですか?」

「別に、構いませんよ。あ、でも部活の後で良いですか?」

「構いません」

僕はそう言ってテニス部の練習が終わるのを待った。彼女もお腹を鳴らしながら……

「すいません。遅くなりました」

「では、行きましょう」

僕はそう言って、あらかじめ待ってきた、カバンを手にして井上さんの家に行った。

そして、ココアちゃんがいつも使っている、タオルをもらった。

「そのタオル、どうするの?」

そう、尋ねてきた彼女に僕は

「ああ、これを」

「わかったわ」

まだ、何も言っていない。でも、彼女は分かったと言っている。なら、聞いてみよう。

「これをどうするの?」

「その、タオルを」

「おう」

「春樹が」

「その時点で違うが、一様最後まで聞こう」

「しゃぶる」

「全然、違う……なんで、僕が他人の犬のタオルをしゃぶらないといけないんだ」

僕は彼女に言った。彼女は

「春樹は趣味が悪いのね」

「いや、それは清水さんの想像の僕だよね」

僕は大きくため息をついた。

「ため息すると五年分の幸せが逃げるそうよ」

「その数字はどこから出てきた?」

「適当?」

「なんで僕に聞くの!」

ダメだ。彼女といると、僕がバカになりそうだよ。

この子はすぐに、修正部に入りそうだ。

「結局、それをどうするの?」

話が戻った。

僕がしゃぶるという想像は無くなっただろうか。

「まあ、見ているのが、一番早いだろう」

僕はそう言って、一旦家に帰宅した。

「ただいま」

ドアを開けながら、僕は家にいる母さんとペットたちに言った。

「チップ!」

僕は愛犬のチップを呼んだ。ここまで、来ると大体の人は分かるだろう。

だが、分からない人はいるだろから、しっかりと説明しよう。

「チップ、僕を手伝ってくれ」

僕の言葉が通じたのかチップは「ワン!」と返事をした。

僕はチップにリードを付けて、家を出た。

「可愛い、豆柴?」

と家から出てきた、チップを見て、興味がすごく沸いてそうな彼女は僕に聞いた。

「豆柴よりの雑種。まあ、細かいことは気にしなくていいかな」

僕はそう言って、早速依頼を解決する事にした。

「チップ、これでココアちゃんを探してくれ」

僕はチップに借りたタオルを臭わせた。何かを感じたのかチップは川の方へ歩き始めた。

「チップが探してくれるのね」

「そうだ。人間の手だけで解決できないものは、解決できる動物に頼ればいいのさ」

僕は言う。彼女は納得したような顔をしていた。これで多分、変な僕は彼女の頭から消えただろう。

リードに繋がれたチップは地面や電柱を頻繁に匂い、僕たちを引いてくれた。

10分くらいだろうか、チップと歩き続けると、あるところに着いた。

そこは橋の下の川敷だった。

そこで、僕たちは朗報と悲報の両方が交えた、事実を知った。


翌日、土曜日だ。この日は僕は良い朝を迎えることが出来、昨日の依頼主の家へ向かった。

インターホンを鳴らしたら、井上さんのお母さんが井上さん本人は部活に行ったと、聞かされたので、僕は学校に向かった。

そして、僕が学校の敷地に足を踏み入れる前に、学校のベルが鳴った。

「二年二組、吉田春樹君。今すぐ部室に来てください」

と高橋先生に呼び出された。

「ここに僕がいなかったら、どうするつもりだったんだろう」

僕は一人で不意にそうつぶやいた。先生に呼び出される事なんて、僕には二つ思い付いた。だが、どちらかは分からない。でも、大体は分かっているけど‥‥‥。

僕は部室に向かった。

僕は部室のドアを開けて

「お呼びですか先生」

「春樹君!学校にペットを連れてきてはいけないと、何回言ったら分かるんですか!」

と僕を叱る先生。予想はあっていた。

「先生、僕は今、学校に来ました。放送も学校の外で聞いていたのに、それはおかしいと思います」

僕は言う。先生はキョトンとして

「え?なら、この犬の飼い主は誰。What your name?」(あなたの名前は?)

と犬に尋ねる。

「The dog's name is tippu. tippu is my family」

(その犬の名前はチップです。チップは僕の家族です)

僕は英語で尋ねる先生に英語で簡単に答えた。

「さすが春樹君、完璧ね。理科担当の私でも発音が綺麗と思うわ」

と僕をほめる先生。発音が綺麗でも意味が通じなけば、意味がない。

でも、国際科の人には意味が分かったみたいだ。

「先生!その犬、後輩君の犬ですよ」

詩穂先輩、ナイスです!意味が通じる人がいて、よかった。

「え?どういう事」

「だって、後輩君が自分で言っていたよ!」

「え?いつ?いつ言ったの?そもそも、言ったの?」

もの凄く焦る先生。

「はい、The dog's name is tippu. tippu is my familyとさっき言いました」

(その犬の名前はチップです。チップは僕の家族です)

先生は僕が何を言っているのか、頑張って日本語に訳そうとしていた。

「先生、春樹後輩は、その犬の名前はチップと言いました。そこまでは大丈夫ですか?」

と優しく言う、仁先輩。それに対して先生は

「そこは分かったのよ、でも、その後なんて言ったの」

これは教師失格レベルだが、大丈夫か……

大体の人には分かると思うけど、これほど英語ができないとは

「京子、春樹はチップは春樹の家族と言ったのよ」

さすが国際科、こんな普通科が作る、英文を朝飯前かのように訳してしまう。

そして、日本語に訳すことが出来た、清水はドヤ顔をしていた。

いや、多分中学生の問題だと思うよ。

でも、その中学生の問題を解けていない先生は、英語に関しては重症的だ……

「つまり先生、チップは僕の家族ですが、僕が連れてきたわけではありません」

「あ、そうなの。じゃあ、誰が連れてきたの?」

「多分、自分でここまで来たのだろう」

と僕の代わりに言ってくれた仁先輩。

「昨日、岸川橋の下の川敷に護衛として、チップに仕事をさせたんです。

もちろん、僕も近くにいたんだが、朝になって、いなくなってしまったんです。

でも、チップは賢いから、お腹が空いたら家に帰るか、僕が学校に来ることを分かっていて、学校に行っているかのどちらかだろうなと、僕は予想していたんですが、予想どうりです。チップ、報酬のおやつだ」

と僕はカバンの中から、チップの好物のおやつを取り出し、食べさせてあげた。

チップはおやつに食いつく。

清水はおやつに夢中のチップの頭を撫で始めた。

「でも、なんで犬に護衛なんてさせたんだ」

と疑問を抱いた仁先輩。その疑問に対し、僕は

「さすが、仁さん。鋭いですね。その答えはすぐに分かるでしょう。では行きましょう」

僕はそう言って、その場にいた全員を連れて、テニスコートに行った。

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