誕生日

 私が今暮らしている家はそれほど遠くはなかった。街から離れ森の中にひっそりと建っている木造の家が私の家。これも魔法の力を頼って1人で作った。家の姿が見え、ドアの前まで行くと私はドアノブに手をかざす。


 「ここがレミアの家?」

 「そうよ」

 「レミアは誰と住んでいるの?」

 「1人よ。私以外誰もいない」


 ドアを開けると少し暗く前が見えずらいので、部屋の明かりをつけた。

 私の家はダイニングと書斎、寝室、洗面所と風呂場、そして未だ何も置いていない部屋の5つ。

 私はちょこまか付いてくるエヴァンズに部屋を案内する。そして、何も置いていない部屋に私が使っていたベッドを移動させると、エヴァンズに部屋に入ってもらった。


 「ここがあなたの部屋。自由に使っていいから」

 「分かった。ありがとう!」


 そう言ってドアを閉めようとするとエヴァンズはもぞもぞし始めた。まだ何か言いたいことでもあるんだろうか。


 「……何か私に用があるの?」

 「えーと、僕のママとパパは? どこに行ったのかなと思って」


 死んだよ。私が殺したよ。


 「……」

 「あ、もしかして……」

 「……」

 「ママとパパが仕事で僕が1人になるからレミアが来たの?」


 違うよ。


 「……そうよ」


 コイツをこの家に置くなんてありえない。


 「だから、一時ここで過ごしてもらうから不便なことは我慢してくれるかしら」


 私は嘘ばっかりだ。

 そして、エヴァンズの部屋となったドアを閉め、私はキッチンへと向かった。

 



 ★★★★★★★★




 「レミア」


 私がご飯を作っていると。エヴァンズがリビングの方にやってきた。鍋には真っ赤なトマトが入ったミネストローネがぐつぐつと煮込んでいる。

 暖炉の近くにソファがあるのだが、そこを通り過ぎてエヴァンズはダイニングテーブルの方の椅子に座った。

 ソファの方が楽じゃないかしら。わざわざこっちに近い方にきて。


 「何?」

 「レミアはさ。何歳なの?」

 「さぁ、何歳でしょうね」


 見た目と実際の年は違うわよ。あ、違うのは精神年齢か。


 「僕より上? 下? それとも同い年?」

 「あなたは何歳なのよ」

 「僕は6歳! 最近6歳になったんだ! ママとパパと一緒に誕生日会をしたんだよ! 美味しものもいっぱい食べたんだ!」

 「……そう」


 両親が殺される前に誕生日会ができてよかったわね。

 私は鍋の火を止め、出来立てのミネストローネを2つのお皿に次ぎ分ける。ミネストローネは鮮やかな赤になっていた。


 「うーん。いい匂い」

 「わっ!」


 隣にはいつの間にかエヴァンズがいた。幸せそうな顔でミネストローネに目を向けていた。

 驚かせないでよ。


 「美味しそうだね! これが今日のご飯?」

 「そうよ。ちょっと待ってて。パンも用意するから。これ、先にテーブルの方に持って行ってくれる?」


 私はエヴァンズにミネストローネが入った器を渡す。


 「気を付けて。まだ、熱いから」

 「うん!」


 エヴァンズは器に付いている取っ手を持つと、慎重にテーブルの方に歩く。私はパンの入ったバスケットとカップ2つを持ちテーブルに向かう。そして、スプーンと水を用意して私たちは席に座った。エヴァンズと私は向き合って座る。


 「もう食べていい?」


 エヴァンズはお腹が空いて仕方ないのかよだれを垂らしそうになっている。


 「いいよ」


 私はスプーンを手に取り冷めないうちにミネストローネのスープをすくった。エヴァンズもミネストローネを食べている。

 一時黙って食べていたが、ミネストローネを食べ終えたエヴァンズが口を開いた。


 「ねぇねぇ。さっき聞いたんだけど、レミアは何歳なの? 僕より身長が高いから年上?」

 「そうね。私の年齢は15歳と言ったところかしら」


 実際の年齢は知らない。レミア自身気づけば孤児院にいたので誕生日なんてなかった。そのためかいつごろから私の年齢は適当になっていた。

 私が今ここにいるのは復讐するためにいたのだから。年齢なんてどうでもいい。

 カラン。

 金属が落ちた音が響く。

 前を向くとエヴァンズがスプーンを落としていた。


 「何しているの、汚いじゃ……」

 「レミアは誕生日会したことないの?」


 エヴァンズは目を見開いていた。


 「ないわ」

 「レ、レミアの誕生日はいつ?」

 「知らないわ」

 「……そんな」


 私に同情でもしたのかエヴァンズは絶望的な顔をしていた。

 なんでそんな顔をするのよ。

 すると、黙っていたエヴァンズが「よしっ!」と意気込んだ。


 「ど、どうしたのよ」

 「レミア! 今日がレミアの誕生日にしよう!」

 「え?」


 何言ってるの?


 「今日、僕とレミアが出会ったから今日が誕生日! ね、いいでしょ?」


 誕生日なんてそんな簡単に決めないでよ。人の誕生日を。


 「そうね。いいかもね」

 「そうでしょー?」


 エヴァンズはさっきとは打って変わってニコニコ笑顔に戻っていた。

 つられて私も笑ってしまう。

 4月20日。その日が私の誕生日となり、エヴァンズの両親の命日となった。

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殺したい。でも、それ以上に せんぽー @senpo

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