パパの話3
台に縛り付けられた僕を、彼女は樹の入り口付近に立ったままじっと見ている。
年は18,9くらい?そういえば大学の後輩がこんな感じだ。
でも今はそんなこと気にしてる場合ではない。僕は叫んだ!「助けて!」
とにかく今、ここで、知り合いと言えるのは(いやまだ口もきいていないけど)
この娘しかいないんだから。
「君のお風呂?を覗いちゃったのは謝るよ!
でもわざとじゃないし、それで死刑なんてあんまりだ!」
「長老たちは」彼女は初めて口を開いた。小鳥のさえずりのような可愛らしい声だ。「あなたがディモンだと」
「あんな拷問を受けたら誰だってそう言うさ!。でも僕はだいもんじゃない!
だいがくせいだ!研究のために東京からここへ来ただけなんだよ!」
彼女は少し間をおいて「トキョー?あなたはファンタジアンの外から来たの?」
妙な言葉を口にした。「ふぁんたじあん?ここはふじさんだろ?」僕
「ここはファンタジアン、神樹イグドラシルの恵みとご加護を受ける地」彼女の
口からわけのわからない単語がポンポン出てくる。
ファンタジアン?ディモン?イグドラシル?
突然僕の背中に冷や汗が流れた!
・・・わかった・・・・わかったぞ・・・まちがいない!。
カ ル ト だ。
かつて平成の時代、この国を震撼させたカルト教団によるテロ事件。
あれたしかこの富士山の近くで起こった事件だった。なんてこった。
似 た よ う な 奴 ら の ア ジ ト に
迷い込んでしまったのか。逃げなきゃ。助けを呼ばなきゃ。ガチで殺される。
「どうしたの?」紺碧色の瞳がのぞき込んでいる。うっ、か、可愛い。
けどだまされるな!カルト教団には美少女がいっぱいいるって話だ。
ウブな大学生を引き込むために。
「あ~その、いや、君が何を信じてるかは知らないけど」
僕は精いっぱい平静を装って話しかけた、新緑色の髪と紺碧色の瞳と
そして耳がやたらとんがってる彼女に。
「こういうのは駄目だと思うんだ。日本にいる以上日本の法律は守らなきゃいけない。こうやって人を閉じ込めたり、勝手に死刑とか、駄目だよ!」
彼女は黙っている。台に縛り付けられた僕をじっと見つめている。白い服を着ていても、たおやかな身体の線ははっきりわかる。泉で瞳に焼き付いた彼女の裸が頭に浮かんできた。馬鹿か!こんな時、こんな状況でさえ!このエロ大学生!
「あなたのこと、よくわからない。私達エルフとも、ドワーフとも、オークとも違う」彼女は言った。紺碧色の瞳には困惑と疑惑がないまぜになっている。
「だから僕は日本人の上川信也・・・」って今なんて言った?
エルフ?
ドワーフ?
改めて見る彼女の姿。緑色の髪の毛、細長い耳、人間離れした可愛さ・・・
ゲームやファンタジー小説で見る”エルフ”そのものじゃないか。
まさか・・・本当に?
あの粒子加速器の暴走?
あの事故が・・・僕を・・・
異世界に飛ばしてしまったというのか?
「ここ、魔法の国なの?」僕は子供みたいな間抜けな質問をした。
エルフ?の彼女は眉をひそめると、掌を差し出した。なんだ?
その上に小さな・・・光?それははみるみる大きくなり
色も共に赤から黄へ、そして白へ輝きを増してゆく
薄暗かった部屋が昼間のように 明るく照らし出されてゆく
「魔法のない世界なんて・・・あるの?」エルフの彼女。
「ない方が当たり前だよ・・・僕はそこで暮らしてる」
他に言いようがあるか。
途端に彼女の口元がきつく結ばれた。握った掌と共に光が消え、
薄暗い部屋が戻ってくる。
「・・・そんなの信じられない。イグドラシルの力の及ばない世界なんて」
「やっぱりあなた・・・ディモン」「僕は人間だよ!日本人!」僕は叫んだ。
まずい、かなり疑われている!
「”ニンゲン”?”ニポン人”?」彼女の瞳に疑いの色が深まってゆく。
くそっ。どう言えばいい?なにを伝えたら、彼女にわかってもらえる?
台に縛り付けられた僕は、深く深呼吸した。
かすかににらむエルフの少女を見上げ、口を開いた。
「確かに僕はエルフじゃない。それどころかこの世界の住人でもないようだ。
よそ者だ。異世界人なんだよ。だけど!」彼女の表情は硬いままだ。
「悪いことはしていないし、君たちに危害を加えるつもりもない!」
「自分たちと違うからって、悪者と決めつけるのは間違ってる!」
もう一度深呼吸する。
「” 種 族 と 善 悪 は 関 係 な い ”んだ!」
すると彼女の目が大きく見開かれた。驚きのあまり開いた唇に手を添えている。
「種族と、善悪は、関係ない」彼女は独り言のように繰り返した。
「そう!そうさ!」僕。
「種族と善悪は関係ない!」彼女はもう一度繰り返した。
そして、顔がみるみるほころび、開いた口から真っ白な歯がのぞく。
・・・保育園のユリ先生以来、今日までいろんな女の子に
ときめいてきたけど、記録更新級の微笑がそこにあった。
「・・・私も、そう思います!」
いうや彼女は踵を返し、木の隙間に飛び込むと、
胸を引っ込め、お尻を通し、出て行ってしまった。
「え?ちょ!ちょっと待って!エルフさぁん!」
台に縛り付けられたままの僕は情けなく叫んだ。
すると木の隙間から声が聞こえてきた。
「”エルフ”は種族の名前です。私は」
「リピア」
それだけ言い残し、走り去っていく足音が聞こえる。
”リピア”僕は心の中で暗記するように繰り返し、その10秒後、
明日死刑になるという運命は何にも変わっていないことを思い出した。
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