パパの話2


「いったい何者なのだ?この者は?」

「背丈は獣人だが、顔つきは我々に似ている」

「似ているものか。なんだこの醜い耳と、黒炭のような髪の毛は」

「巫女の清めに踏み込むとは不埒極まりない、

とっととゴルドルの実を埋め込んで殺してしまえ」

「待て、イグドラシルの力の及ばぬ所から来た者かもしれん」

「ディモンだというのか?だったらなおさら殺すべきだ」

「それは長老王が決める事。貴様は僭越が過ぎる。」

「・・・ん?おい、どうやら目を覚ましたようだぞ」



気が付くと、僕はどこかの部屋に寝かされていた。

窓はなく、あれ?扉もない?どこから出入りしてるんだ?

壁は一面の丸太だが、丸太小屋にしては変だ。

丸太がなぜか横でなく縦に並んでいる。

いくつかつるされたぼんやりとした光は

かなり暗く、昔の電球のようだ。

テーブル?のような木の台の上に寝かされた僕を、

ぐるりと取り囲んで見下ろしている顔がたくさん。

皆老人だが緑っぽい髪の毛(ない人もいる)

とんがった耳(力なく折れ曲がってる人もいる)は、

あの泉で見た少女と同じだ。


「あ、あの、どうもありがとうございます」僕はお礼を言った。

誰かはわからないが倒れて溺れかかった所をここに

連れてきてくれたんだ。命を救われたのは間違いない。

でも誰も答えない。老人たちはじっと僕を見下ろしている。


「すみません、電話、貸してもらえますか?。

警察か消防に連絡したいんです。スマホの電池切れちゃって・・・

あとここって山梨県ですか?それとも静岡県?」


「・・・お前は誰だ?」一人の老人が口を開いた。なんか口調が厳しい。

「え?あ、僕、かみかわしんやっていいます。応用理工大学の

学生です。実験のために粒子加速器を使おうとして事故っちゃったみたいで」

「わけのわからんことを言うな、貴様ディモンか?どこから来た?」

「大門?いやそんな都心じゃないですよ。アパートは町田で、実家は水戸」

「いい加減にしろ!イグドラシル様に仇成す者め!この大切な時期に

巫女を殺めに来たのだろう!」ひとりが杖を振り上げた。

「ち、違います!てかミコ?あの女の子ですか?確かに覗いちゃいましたけど、

わざとじゃなくて不可抗力ぐえっ」杖が軽く僕の腹を小突いたのだ。

ホントに軽く、それこそ撫でるくらいの勢いだったが、そこから体全体に

ものすごい痛みが駆け巡った!「あぐぅううっ!、ってえええ!、

な、なにすんだよあんた!」

僕はのたうち回ろうとして、そこで初めて寝かされた自分の体が

蔦だか縄だかそんな感じのもので縛られていることに気が付いた。


「言え!お前はディモンか?」老人は杖で僕を撫で続ける、

だがそれがものすごい激痛だ。チェーンソーで撫でられたらこんな感じか?

「わかった!わかったよ!僕はそのだいもん?そうですだいもんです!

だからやめ!いてえんだよもうおお」老人は杖を止めた。「ふん、

白状しおったか」周りを見渡し「聞いただろう。こいつはディモンの手のもの。

長老王に申し上げるまでもない。明日、処刑する」メキメキバリバリという音が起こったかと思うと。老人たちはいつの間にかいなくなっていた。

僕は台に縛られたまま放置されている。


いまあいつなんて言った?しょけい?

 処 刑 だ っ て ?

 

なんて夢だ。それも悪夢だ。

こんなに痛くて辛くて現実と区別がつかない仮想現実があるのか?

早く機械を止めてくれ。僕を起こしてくれ。

どうせ目が覚めたらなんかのポッドの中なんだろ?

秋葉かどっかのVRシアターなんだろ?

頼むよおい!

起こせって!




・・・覚めない。見上げた景色が歪むのはたぶん涙のせいだ。

21歳の日本男児がめそめそ泣いてるという事だ。当然だろ!畜生!

その時、壁の方でまた異音がした。


メキメキメリメリという、なんか木と木が擦れあうような音がしたかと思うと、

壁に並んでいる丸太が動き出した!生きてるみたいに?

いや・・・てかあれ丸太じゃない!よく見ると枝とか葉が出てる?生木だ!

この部屋は生えてる木で囲まれた牢屋なんだ!


人が通れるくらいの隙間が空いたところでウネウネゴキゴキとうごめいていた木は止まった。そして隙間から手足を出して一生懸命すり抜けようとしてる者がいる。胸を引っ込め、お尻を通し、何とか部屋に転がり込んできた。


白い服を着ている。濡れていた新緑色の髪は乾いてふわっとしているが、小鹿の尾のようにピンと立った両耳、紺碧色の瞳は見間違えようもない。




泉のあの娘だった。



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