夕食後

「 や だ っ て 言 っ た じ ゃ ん ! !」


 あたしは声を張り上げた。

隣の家に響いたかもしれない。構うもんか。知ったことか!

「ごめんよ、ルイ。でももう決まってしまったんだ」

パパの声が聞こえる。決まった?何が?誰が?あたしに何の相談もなく?


 顔を上げられない。目の前の皿、アジフライのしっぽが歪む。

「やだって・・・言ったのに」鼻の奥がつうんとしてくる。

何年ぶりだ?泣いたの?3年生だっけ?。「い、いっら、・・・のに」

うまくしゃべれない。胸の奥からこみあげてくるものを止められない。


ママを見る。目を伏せて、空の食器を眺めている。

ギブを見る。お茶碗に半分残ったご飯にふりかけがかかってる。


 あたしは息を整えた。よし!しゃっくりはおさまった!

「・・・言ったよね?あたしは行かないって。行くなら3人で行ってって」

パパが「ルイ、そういうわけには・・・」あたしは怒鳴った!

「行かない!ファンタジアンになんか、ぜったい!行かない!」


 椅子をけ飛ばすようにして食卓を離れ、リビングを駆け抜ける。

ベランダに出る窓を開けて、閉めた。

このマンションは4人家族が暮らすには手狭だ。

子供部屋は一つをカーテンで仕切ってギブと分け合ってる。

一人になれる場所はここしかない。


 冷房の部屋から出た私に8月夜の熱気がまとわりつく。

しゃがみ込んだコンクリ床の横でエアコン室外機が唸ってる。

軒下から洗濯ばさみをため込んだ物干しが風に揺れてる。


 ふざけんな。

 転校?しかも

 夏休みの間に転校?

 みんなに会えないわけ?

 二学期の始業式にあたしの席はないわけ?


 ふざけんな

 転校?しかも

 夏休みの間に転校?

 ファンタジアンの

 二学期の始業式にのこのこ入って行くの?

 一学期と夏休み、すっかり人間関係が固まっちゃったクラスに?

 ハーフエルフのあたしが?「ハ~イよろしくね~」って?


 ふざけんな

 イヤだよ。

 ミホちゃん、れいくん、ポッキン、ジョージ・・・


 長い耳を見て”ロバ女”

 緑と黒の髪の毛を”スイカ頭”

 そいうのかいくぐって生き延びて、やっと見つけた友達

 無くなっちゃうなんて、いやだよ。


 向こうに行けば100%イジメられる。

 他種族からエルフは嫌われてるって話だ。

 そのうえ自分は半分人間、ニポン人

 ファンタジアン人からニポン人は嫌われてるって噂だ。


  ・・・死にたい。




 その時、不快な音が耳元で漂う。あたしは思わず頬を叩いた!

もちろんスカだ。手のひらを見ても明らかだ。

ったく落ち込んでる時くらい、ほっとけよ! 蚊ども!


 「はい」虫刺されを差し出してくる手がある。

 ママだった。


 「ん~よっこいしょっと」ママは私の隣にしゃがみこんだ。

「3か所、いかれちゃたかな~?」薬を塗ろうとするママに

「平気。じぶんでやる」ぶっきらぼうに答えて、

早くも赤くはれてきた肘と足首にひったくった虫刺されを塗り込んだ。

ひんやり感とミントの香りが立ち上る。


 「行きたくない」膝を抱えて言う私に

「だよね」ママはぼそっと言った「えっ?」驚いた私にママはもう一度


「ママも、行きたくないよ。ファンタジアンなんて」


月明かりがママの薄緑色の髪を輝かせている。



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