異世界トンネルSA

夕食前

　「どうも～ごぶおっくのゴブでーす！」「オックんでーす！」

TVに「7時だyeah！」のタイトルと共にスタジオ画面が映る。

観客席にひな壇のコメンテーターたち、その中央でMCを務めるのは、

お笑いコンビの”ごぶおっく”。

オークのおっくんがボケ、ゴブリンのゴブが突っ込みのお笑いコンビだ。

　オックん「じゃあさっそく新曲を」

　ゴブ「誰のだよ！早いよ！」（笑い声）

　オックん「あ、そっか、今日のゲストは」

　ゴブ「だから早いって！いないだろ！」（笑い声）

　オックん（前を指さし）「だってそう言えってカンペが」

　ゴブ「バラすな！それ言っちゃダメな奴！」ジャンプしてオックんの頭をどつく（笑い声）CMに入った。

　8月19日。午後7時過ぎ。家のリビングであたしは寝そべってTVを見ている。

ママはキッチンで夕食の支度。買ってきたアジフライに、冷凍枝豆を

茹でてるところを見ると”エルフ風ソース”かな？あれは美味しんだよね～

あたし大好き。パパは嫌いみたいですぐ醤油かけちゃうけど。

茹だった枝豆を裏ごし器にかけてつぶしている。ミキサー使えば

一瞬じゃね？と言ったんだけど「細かくなりすぎて糊みたい、キモイ」と

一蹴された。ママなりのこだわりがある模様。

　ママは黙々としゃもじを振るい混ぜている。・・・ヤバイ。いつもなら

よくわからない鼻歌の出番のはず。それがこの静けさとは・・・まちがいない。

お説教の兆候だ。学校から何か連絡行ったかな？夏休みなのに？。

それとも攻撃目標はあたしじゃなくて・・・

　後ろをチラ見すると、弟のギブは落書き帳に何か描いている。

細い首に広げた翼手、長い尾っぽ。”ワイバーン”飛竜の絵だ。

お盆に向こうで出会った”キューちゃん”の事が忘れられないらしい。

ほほう、黄色と茶色を組み合わせて”金色”を表現とな？・・・ふむ、

我が弟にしてはなかなかの画才。ぜひ将来は漫画家かイラストレーターに

なってこの姉を鼻高々にしてもらいたいものよ。おっとCMが明けた。

　ゴブがマイクを握る「さぁ～お待たせしました！本日のゲストはこの方！」

ファンファーレが鳴り、「来た！」あたしは飛び起きて正座する。

「STORMのみなさんでーす！」中央から五人の青年が走り出てくる。

　STORM。超人気アイドルグループ。クラスの女子でも派閥が分かれてて

”ヒロ君”推しがダントツなんだけど、あたしは”ユウ君”派なんだよね～。

イケメンなのに”もっさり”してるとこが癒されるっつーか、和めるつーか。

　それとまあ・・・なんだ、皆が熱中する”ヒロ君”は、髪がアクアグリーンで

耳がとんがってる、ぶっちゃけエルフアイドルなわけですよ。

そりゃー反則級のイケメンでしょうよ。でもガチハーフエルフのあたしにとっては、そこが逆に、・・・ね。

あたしは上川瑠衣。小学6年生。パパは人間、ママはエルフ、あたしと弟はハーフエルフ。

　TVではゴブがヒロ君に話しかけている。

「ところでヒロ君、新作映画ができたんだって？」

ヒロ「ええ、僕たちSTORMが主演、主題歌を歌う映画”ファンタジアン新選組”が今週から封切られます。みんな！見に来てね！」画面は映画のシーンに切り替わり、BGMにその主題歌が流れ出した。

ゴブ「これはどんなストーリーなのかな？」

ヒロ「はい！僕ら扮する幕末の志士新選組がファンタジアンに

タイムスリップ！イグドラシル維新のため立ち上がるという、

親子そろって楽しめるドキドキワクワクの大冒険です！」

　・・・あのさぁ。あたしは思った。小学生でも突っ込めるぞそれ。

まず新選組は反維新で幕府側の特殊部隊みたいなもんのはずでしょ？

そして日本とファンタジアンが出会ったのは令和18年の粒子加速器事故。

何年タイムスリップしようが、地球ですらない異世界と

接　点　が　持　て　る　わ　け　な　い　じゃん。

全く何でも”新選組”絡めりゃ売れると思ってない？これだから日本映画は・・・

ゴブ「・・・ユウ君は、何の役？」

ユウ君「はい！僕は土方歳三の役で」

ナニっ？ユウ君がヒジカタ？・・・これは見逃せないな。

ゴブ「それじゃ歌っていただきましょう！STORMで”ISSHINN同体！どうぞ！」

前奏が始まり、メンバー5人がステージに躍り出る。来た～！

ユウ君映せ！アップにしろ！

　「ルーイー、ギブ、ご飯できた～」ママの呼び声。げげ、マジか。

この大事な瞬間に。「3分、いや2分待ってママ！」「何言ってんの！早く来る！」

その時ドアホンがなった。「パパだわ。ルイ開けたげて」

・・・だめだこりゃ、ミホちゃんに後で動画メールしてもらお。

あたしは玄関のカメラを見てパパであることを確かめると、鍵を開けた。

「ただいま」げっそりやつれた顔が顔を出す。「おかえり～」

毎度お疲れ様ですお父様、今日も一日きつかったんですねお仕事。

パパのやつれ顔の原因が、仕事じゃないことが分かったのは、45分後だった。