高速道路整備員4
車の計器盤に人の肘くらいの大きさの娘が腰かけている。
作業着にヘルメットはワシらと同じだが、背中から蝶のような羽が生えている。
フェアリー族。
「ぷ、プリムさん!来てたんすか?やだなあ」ハセガワが必死に取り繕っている。「あたしは時間守るよ?誰とデートする時でもね」フェアリーの娘、プリムさんは
両手で頬杖をついてにやにや笑っている。
「前回も前々回も遅刻した。信用されずとも仕方あるまい」ワシがハセガワに味方すると「たくおじいちゃんてば昔話しかしないよね~。未来をみなきゃ未来を」口の減らない娘だ。じゃがこのフェアリーこそが、ワシらを迷子の危険から守ってくれる”強い味方”なんじゃ。
”フェアリーの道案内”といって、ファンタジアンでは森で迷った時、
フェアリーに贈り物をすると森の出口まで導いてくれる。
そのご利益はここ異世界トンネルでも有効だったんじゃ。
何周しても出られない無限道路、そのどこかでとん挫している車、
それをどんな魔法を使うのかフェアリーだけが「あとOO周で出られるよ」
「4km先にいるよ」と見つけることができるのだ。どうしてかわからん。
たぶん本人たちにもわからんだろうが。
というわけでワシらは無限道路に立ち入る時はフェアリーを連れて入る。
その昔、坑道で穴掘りをしていた頃、”息切れ病”の兆候を知るために
小鳥や猫を連れて行ったようにな。
「で、なにくれんの?ハセガワ」いたずらっぽく笑いながらプリムさんは
ハセガワに両手を差し出した。”フェアリーの道案内”が欲しければ”贈り物”を
しなくてはならない。もっとも、彼女もワシらと同じく会社から給料出てるはずなんだが・・・。
「え、え~とですね、じゃ、これ!」そういうとハセガワは作業車の天袋に
挟んである本を取り出した。「POPアイドル9月号」と書かれ、
何やらにやけた優男の写真が大きく載せられている。
「またこれぇ?しけてんなもう~ドームライブのチケットくらい持って来いよ~
ハセガワよ~」「す、すんません、妹にいろいろ見繕って貰ってるんですが」
ハセガワの故郷はニポンのチーバという場所だそうだ。そこに住む妹に
フェアリーの好きそうなモノを探して送ってもらっているのだった。
ワシにはとんと分からんが、いずれハセガワのネタが尽きたら、
ワシも向こうのハチョージに住む孫娘に相談しなきゃならんかもしれんなぁ・・・
ぶつぶつ文句を言いながら、そのくせフェアリーは本をめくっている。
「お♡?”STORM”のヒロくんじゃん!カッコイ~。まいいやこれで」
プリムさんは満足げに雑誌を抱きしめた。
「おい、受け取ったからには仕事してもらうぞ」ワシが言うと
「わかってるわかってるって!も~おじいちゃんてば疑り深いんだから~」
蝶のような翅をばたつかせた。「ナビより頼れるこのプリムちゃんの
お導きを信じなさぁ~い!で?どこ行くわけ?」
ワシは計器盤の上に置いてあった”勤務管理表”をめくる。
「区画2300から2600までの路面点検、あと区画2532で
先月接触事故が起きた、その際に壊れた側板の補修。」
「じゃ、行きますよ~」ハセガワは操舵を握り、”車のあぶみ”を踏んだ。
屋根にくるくる回る黄色のお知らせ灯が点り、後ろの板には”点検中”
の表示が出る。
プリムさんは正面を向いて目を閉じた、背中の羽も閉じられている。
額に指を当てて黙念していたが・・・ふいに目を開いた。
「見えた。区画2300。5周したら行けるよ!」
ワシらを乗せた黄色と黒の作業車は、加速帯で速度を上げ、
無限道路に入っていった。
つづく
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