高速道路整備員3



 「ベルガフさん、はい!」

”ジハンキ”から戻ったハセガワが”カンコーヒー”を差し出してくる。

「おお、すまんな」ワシは缶詰汁を受け取ると蓋を開け、一口すすった。

かすかに苦く、甘い、うまい。部屋で書類書きに明け暮れる連中は”健康の為”

とか言って”茶”だの”甘くないコーヒー”だのを飲むらしいが、

外でつるはしを振るワシらには甘露の方が効く。

”カフェオレ”はワシの大のお気に入りだ。みるみる力が湧いてくる。


 ここは異世界トンネルSAのファンタジアン側。数千台は停められようかという

広大な円形の駐車場、その中心にでっかい城が建っておる。そこが”SA”だ。


 食堂に便所、土産店、役人の詰所、医者に宿屋・・・いろんな店が詰め込まれてて、その上人混みが絶えないもんだから、こりゃもう”城下町”と言ってもいいくらいだ。


 円形の駐車場の外縁は出口から”無限道路”へ繋がる加速帯となっている。

入出国手続きを終えて駐車場を出てゆく車は、ここから異世界トンネルの

本体”無限道路”へ入ってゆく。


 ”無限道路”。・・・これはワシの頭と言葉で説明するのはちと難しいな。

SAの便所の前に”きゃらくたぁ”とかいう人形の絵と共に説明図が

描かれているから、そっちを見てくれた方がいいかもしれん。


 なんでも東ファン高速道路の前身でもあった”リュウシカソクキ”が

関係しているらしい。巨大な円周の管があって、その中を”リュウシ”が

ひたすらぐるぐる回る、そんな機械だったという。そこが事故って生まれた奇妙な”道”それが”無限道路”なんじゃ。


 全て地底に埋まっている施設だから全体図を見ることはできん。

地面の中に造られた蟻んこの巣のようなものだから。だが説明図によると、

それは”立てた糸巻”に似ているらしい。ほら、糸を巻く軸があって、

その両端を糸止めの円盤があって、軸に糸が巻いてあるやつじゃよ。

両側の円盤がそれぞれファンタジアン側、ニポン側の異世界トンネルSA、

軸に巻かれている糸が”無限道路”、そう思ってもらえれば一番近い。


 ”無限道路”は、入ってしまえばひたすら円環道に沿ってぐるぐると

舵を切るだけの単純な道だ。じゃが、不思議なことに出るまでの長さが、


 走 る 車 ご と に ま ち ま ち なんじゃ。意味わかるか?


ある車は1周すればトンネルの向こう側に出られる。が、

別の車は100周しても出口が見えない。

先行車も後続車も見えず、ひたすらぐるぐると回り続ける。

そういうおかしな道なんじゃ。

だから東ファン高速道路の全長は”推定”100㎞とされとる。

ホントのところは誰にもわからんがな。

 

 そしてこれが厄介な問題を生む事になった。ニポン人の操る

”ジドウシャ”は”えんじん”という機械を積んで、

そこに”がそりん””けいゆ”という油を食わせて走る仕組みなんじゃな。

その油は無限ではない。手持ちの分を食わせ切ってしまうと”ジドウシャ”は、


 無 限 道 路 の 上 で 立 ち 往 生 し て し ま う 。

 

 ”迷子”と呼ばれとるが。そうなると助けを出さねばならず、大事になる。

週に数台はそういう迷子が出る。幸い、死人が出るほどの遭難事故は

今のところ起きていないが、気の毒に恐怖と絶望のあまりおかしく

なってしまった人はいたのう。

まあ、異世界への旅は決してお気楽ではないという事じゃな。

 

 他人事のように言ったが、無限道路で仕事するワシらも、もちろん

迷子の危険には晒されておる。ただワシらファンタジアンには

強い味方がおってな・・・。

 

 「ベルガフさ~ん!どうしたんすか~?」ふと気づくと、

目の前には黄色と黒の縞々模様の作業車と運転席に座るハセガワが見える。

「すまんすまん、ちと考え事しとってな。」ワシはごみ箱に空き缶を放り、

ヘルメットを被って車に乗り込んだ。手綱みたいな帯で座席と自分を縛り付ける。

そういう決まりだ。

 

 「プリムさんは?また遅刻か?」ハセガワに尋ねると、

「さっき向かってまーす♪ってメッセ来ましたけどね。

あの人気まぐれだから」

「は~せ~が~わ~!誰が気まぐれだって?」

耳元ででかく甲高い声がしてワシらは飛び上がった。


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