31.反射(47,48)

 休日の昼間、俺は部屋の真ん中で何度目ともしれない溜息を吐いていた。また何週間か、幼馴染みの顔を見ていない。

 あの後バイトはクビになってしまった。奨学金を借りているから暫くは大丈夫だが、早めに次のバイト先を探さないといけない。

 ……余計に溜息が漏れそうだった。


 何だかんだ考えて、また実子のことへと思考が戻る。

 何で、俺と腐れ縁で居続けるんだろう。俺なんか付き合いが長いだけで、たぶん実子の知り合いで一番ろくでもないやつだ。昔からずっと、上手くやっている実子が眩しかった。

 ちゃんと否定しておかないと、我儘を言いたくなる。付き合いの長さに甘えそうになる。

 ……俺にも他の誰かがいれば、くだらないことなんか考えないんだろうか。


 負い目なんか感じるなと実子は言っていた。そして呆気にとられる俺を一瞥し、何も言わずに帰っていった。

 今更、何て無茶を言うんだろうか。劣等感はどうしたって付き纏うのに。



 ◇◇◇◇



 虐げられないほど、少しの瑕疵も赦されるくらい、秀でていないと。

 不真面目さを隠して、嘘で塗り固めた現実を泳ぎ続ける。

 非凡な振りをして身を守ってきたつもりだった。無能だと知れたらどう面倒なことになるだろうか。

 凡庸だと舐められたら、きっと厄介事しか起こらない。



 ◇◇◇◇



 夕方、コンビニに出かけた帰りだった。ばったり、実子と鉢合わせた。

 少し驚いたその顔に、俺は何も言葉が出ない。そのまま、実子は俺を置いて足早に立ち去っていく。

 つい追いかけようとして、足が止まった。

 ……だって、何を話せばいい。こんなことに困るのは初めてだった。



「……君は、どうしたいの」


 ばっと振り返ると、少し幼さが残る顔立ちの青年がいた。漆黒のローブに身を包み、物陰からこちらを覗いている。


「あの子が大事なんでしょう」


 実子の姿はもうかなり小さくなっている。人通りが少ないおかげでぎりぎり見えている程度だ。……もうすぐ、追いつけなくなる。


「僕はもう、思い出せないから。……君や先輩には後悔させたくない」


 一言も発せない俺に、青年は消え入りそうな声で畳み掛ける。


「……さあ、行きなよ。早く」


 見えない壁に押されるような感覚。俺の足は、勝手に実子の方へと走り出していた。

 青年の姿が少しずつ遠ざかる。


 ……どうしたいのか。そんなもの、1つしか思い当たらない。



 ――結局俺は、自分の傍にいてほしいだけだった。

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