22.黙殺(29,55,56,94)

 高校に入ってから数ヶ月経った。お姉ちゃんも、今年からやっと大学生になった。姉妹揃って進路が落ち着いたので、家族も何だか安心した感じがする。


 ……ただ、今日はとにかく暇だ。家に誰もいない。予定も無い。暇だ、本当に暇。

 ぐるぐる考えて、結局、どすん、と椅子に座り、そのまま机に突っ伏した。


(することがない……)


 土砂降りの外を眺めながら私は、少し前の事を切れ切れに思い出し始めた。



 中学校に入学したばかりだった。近所の小学校が合併するような形で進学するからほとんどが顔見知りで、あまり新鮮な感じはしなかった。

 ただ、仁名とは離れたクラスになってしまい、かなり残念だったのを覚えている。今年こそはと期待していたのに。



「委員会、何にする?」

「放送とか」

「環境がいいなあ」



 何枚も詞を書いては破り捨てる。どこかで見たような言葉、物語。いくら飾り立てても、同じ苦味が顔を出していた。全部不確かなはずだった。ストリーミング再生で大量に流れていく音楽には、似たフレーズしか見あたらない。

 とっさにスマホを叩き付けた。鈍い音と共に画面に亀裂が入る。

 保護フィルムのせいで、ガラスは飛び散らず手は無傷だった。それが無性に腹立たしかった。


 一応学校には持ち込まないようにしていたけど、私は中学校の時点で携帯を持っていた。もちろんクラスのグループラインもあった。


「私が中学生の時はそんなの無かったのにね」


 お姉ちゃんがこちらを見ながら溢していた。



「たとえ仲の良い三人組でもね。もしも片方から打ち明け話をされたとき、もう片方には決して勝手に言っちゃいけない。何があろうと自分で背負う覚悟が無い限り、不用意に聞いてはいけないんだよ」



「ねえ、ちょっと話があるんだけど」

「この話、もうしたっけ」

「そうだ、那奈とあの話をしてた日ね、」


 一瞬戸惑い、何故かぞっとした。

 制御しきれないことなんか、分かっているつもりだった。誰が何をどこまで知って、誰と繋がっているんだろう。良い人が大勢知り合いなのは良いことのはずで。親しいつもりだったのに。数人に共有されるのが怖くなった。信用できる人なのに。



「那奈」

「ん?」


 振り返る度、背筋をなぞる感覚。



「那奈、優里はもう帰ったの?」


 お母さんの声に、欠伸をしながら背を伸ばす。まだ外は雨で薄暗い。



 すべてフィクションで終わらせられたなら、現実はどこかで美しいと、きっと信じられたのに。

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