17.不充(21,32,41,46,99)

 T.O. XX/02/17

 ああ、久々に読み返した自分の散文がどうも良くなかった。だから、表彰されても頁を捲らなかったのに。このノートも、ここ数週間開かなかったのに。

 駄々の捏ね方ってどうだったろう。そんなもの棄ててきたから分からない。どうしてあんなに素直に助けを求められるんだろう。表層は語れたって、やっぱりどこか虚飾で。

 貴女は要らないと断言された気がした。刻み込まれた指針は消えない。本当に全て自分が悪いと思っていても言えない。独り懺悔して、独り傷付いてひた隠しにした。

 口からは結局ありきたりな音しか出なかった。一番だと言われても怖くなって。盲目的に信じられたら。孤独だと感じることこそ冒涜と分かっているのに。二度と傷付きたくない自分の卑怯さと臆病さが、深入りして面倒事に関わりたくない冷淡さが悪い。怒られたくない。否定されたくない。

 優里は気付いただろうか。もう呼び捨てなんて出来ないけれど。

 否定されるのが明らかな弱音を吐くことは否定されたい願望の現れなのだから言うべきではない。少なくとも自分に於いては。

 実家に連絡する訳にもいかない。連絡する友人も居ない。清を信じようとする心情を殺すんだ。自分が傷付かないために。眼前の綺麗な世界を否定するんだ。知識としては澱みしかないと知っているから。孤独だなんて皆嘘だ。恋人がいて、悩みを話せる存在が居て、それで孤独なんて嘘だ。状況を作り出しているのは自分だけれど。自分が治せない限りこのままなんだけど。

 一度箍が外れたらどうなるのかが怖い。平和ボケしてる自分が嫌だ。でも大人になんてなりたくない。今さら穢れに耐えられない。直視したくない。頼むからこれ以上幻滅させないで。現実なんて見せないで。信じられない安心できない状態が大嫌いだから。

 能力を自認していないんじゃない、人間性が高くない自分を認められない。自分の倫理観が自分の本性を責め立てる。ふとした瞬間、いやもっと頻繁に、信頼を自虐が上回る。常に自分の揚げ足をとって、何度だって同じことを否定する。

 知識も技能も足りなくなったら何が残ってくれるだろう。怯えるのか驕るのか、どちらかにすればいいのに。いつしか他人、特に同性への興味が消え失せていた。

 そういえば弟も何かを書き溜めているみたいだ。お見舞いに行ったとき、机に厚い日記帳が置いてあったことがある。姉弟はやはり似るんだろうか。

 私がこの手記を見せないのと同様に、覗き見るつもりはないけれど。

 私の全ては、あの子のために。

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