14.侵食(17,51,66,77)

「優里」


 私が呼ぶと、優里はびくっ、と振り返った。こんな所に、一体何で突っ立っていたんだろう。


「何読んでたの?」

「何でもないよ、暇潰し」


 笑いながら何だか有耶無耶にされて、そのままお昼ご飯を食べに行く。久々の晴天に気圧されて、まあ、何だっていいか、と私はあっさり忘れ去った。



 カフェを探したはずが、二人してお金が無いということで立ち寄ったファミレスの中。カルボナーラを口に運びかけたまま、また優里が固まっていた。雑踏を見つめて、虚ろな目になっている。


「ね、優里?」

「…………」

「おーい」

「……わ、え、何ごめん」

「パスタ、冷めちゃうよ」

「うん、早く食べる」


 そう言って何事も無かったかのように、黙々と続きを食べ始める。私も細く息を吐いて、自分のハンバーグを口に入れた。優里はすっかりいつも通りだった。



 その後、コンビニに入った優里を待っている間だった。ふと見慣れた顔を見た気がした瞬間、唐突に声が聞こえた。


「あ、実子ちゃん」


 よく見ると、去年知り合った同級生だった。


「偶然だね」


 彼女はやはり、大勢の友人に囲まれている。少しだけ一緒に遊んでいたこともあったな、と思い出した。


「この辺り、よく来るの?」

「ううん、初めて」

「なんだ、私たちもあんまり来ないから案内してもらおうかと思ったのに」


 ほわっと笑いながら後を続けてくれる。屈託のなさにどこか遠さを感じながら微笑んだ。やっぱりこの程度が心地いいのかもしれない。



 彼女らが去ってから、半ば不可抗力で失った、空っぽの連絡先を眺めて嘆息する。

 何となく安心するとは、自分でも多少虚しい。優里といると、全部克服したような気がするのに。……あいつ以外に楽な人なんて、ほぼいないけど。



「お待たせー」

「おかえり、何買ったの」

「明日のお昼」

「……クッキーじゃん」


 平然とした顔に呆れながら、ふと用を思い出した。


「……あ、懐人の家に寄らないと」

「幼なじみだっけ」

「うん、一応ね」

「なんか少女マンガみたい」

「やめてよー、まったく」


 珍しく悪戯っぽい表情の優里に苦笑しつつ、10年以上の付き合いになる危なっかしい青年を思う。まさか大学まで近所になるとは思わなかったけど、結局何かと理由をつけては押し掛けている。


『今から行くよ』


 それだけ送信して、優里と別れた。ものすごく名残惜しいが仕方ない。



 今以上なんて、何も要らない。二度と、邪魔するわけにはいかないんだ。

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