13.矛盾(16,23,24,88)

――幕間――


「……ねえ、聞こえるかい」


「勿論、貴方の声だけは」

「君の声だけは」


「拒絶できず、直接流れ込む」

「そしていつも対立している」


「君には分からないだろう」

「貴方にも、決して分からないでしょう」


「だって、僕の世界は暖かくて何処までも綺麗なものだから」

「だけど私の世界は残酷で、何処までも冷たくて」


「僕にとってこの世界は紛れもなく味方だった」

「私にとってはどうしても敵だったのに」


「僕の周りで人々は優しく微笑んでいて、全ては清く美しかった」

「私は綺麗事だけ喚きたかった、出来るなら美しさを説きたかった」


「僕には闇が見えなくて、寄り添えなかった」

「そんなこと、私だって理論が破綻してもいいから、ただ心から叫びたかった」


「僕の世界はどうしても、美しい幻想だった」

「それは私の役目ではなくて、別の誰かのものだったけれど」


「僕も全て分かると言いたかった、支えたいと願っていたのに」

「そう、知ってしまった私には光を説くことは出来なかった」


「僕の世界は幸せで、僕の知識は夢だった」

「私の世界は荒野のまま、私の言葉は虚無だった」


「所詮、平和に酔った僕には無理な話だったんだ」

「現実から逃げている僕には土台無理なこと」


「私はもう、素直にいられない」

「矛盾を理解しながら御託を並べることはできないんだから」


「同じようにいられないだろう」

「幻想に守られて、徹底的に遮断して」


「何も知らない振りはできないわ」

「どう足掻いても自分のものではなかった」


「何か知っている振りをして、本当は何も知らないでいる」

「能天気なただの餓鬼なんだ」


「貴方は無自覚に甘やかされて」

「知りたくないから雑ざりあわない」


「私は正しさを説けなかった」

「僕には理解する素地がなかった」


「何も知らされない貴方には見えない」

「中途半端な君にも見えない」


「充たされているはずの僕ごときが」

「まっさらでない私などが」


「幸せな貴方がそうあるなど侮辱なのよ」

「ああ、穢れた君では照らせない」

「不健全な振りで健全なまま」


「どうして君には届かない」

「貴方には、何故届けてもらえない」


「私は一緒に在りたかった」

「僕は常に居られなかった」


「貴方には同情しかできない」

「君には誤魔化すことしかできない」


「矛盾した僕らは勿論正しくないだろう」

「ええ、そして二人とも消えられないの」

「絡みあったまま、独立できない」


「私たちは永久に一つ」

「僕らは何も組み上げない」


――誰のものでもなく、誰かのためになど成りはしない。彼らの桎梏に祝福を。

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