11.天秤(13,43)
銀杏が色付きかけ、薄手のカーディガンを無視して北風が吹き抜ける。マスク越しにも冷たい空気が掠めて、くしゅん、とくしゃみをした。
忙しなく夏は過ぎ去って、気がつけばもう日が短い。きっとあっという間に年も暮れてしまう。特殊な事情のせいか、それとも既に老成してしまっているのか。
随分肌寒くなってきたな、と思いつつ、私は暇潰しに図書館に立ち寄った。
今日の講義は終わってしまったけど、まだ帰宅する気分ではない。だからといってリュックを背負って街を歩くほど行動的でもない。ついでに言うと黄色い声をあげて買い物をしたりするような人間でもない。何より、2日前買い出しをしたばかりで食べ物とかは十分ある。無駄遣いはしない主義だ。
私は荷物を抱えたまま、うろうろと館内を歩き回ってみた。お昼時だからか、人の出入りが少し激しい。自然と足は、エントランスから遠ざかっていた。そのまま二階へ上がり、あまり人気のない掲示板付近の席に陣どる。
でも来てみたはいいものの、今急ぎの課題は無かった気がする。結局手持ちぶさたになってしまった。ほう、とため息をついて周りを見渡し、掲示板に目を留める。
図書館の隅の掲示板に、ひっそりと掲げられた一枚の広告。そのさらに隅っこ、端の端に私の受賞報告が記されていた。
先々月、気紛れに綴った散文を新聞のコンテストに送ってみたところ、なんと入賞してしまった。人生で文章を賞されたのは始めてだから、本当に驚いた。誰にも言っていないから多分気付いている人はいないけど、何だか落ち着かない。
まあひとまずは、将来の私が後悔しないことだけ願っておこう。でも読み返すのかも怪しいな、読み返さなくたって、それなりに記憶は残っているし。自然と沸く激情を、わざわざ自分で噴き上げるつもりもない。
『天秤』と題した短い文章は、新聞社のホームページに載せられているらしい。広告には簡略に『二年 淡海』とだけ書いてある。あとは何かの冊子にも。探せばここにも置いてあるだろうか。
ぼんやり眺めているうちに、ゆるゆると陽は落ちていく。まだ5時過ぎだというのに、薄暮で空はラベンダー色だ。でも正直、差し色の濁りの方が私の好みには合っている。
明日は弟のお見舞いに、久々に実家に帰る予定だった。ただの週末に戻るのは少し忙しいけど、混雑した時期よりはましだと思う。
ああ、弓輝にくらいは、教えてあげてもいいかもしれない。入賞したのは随分前だから今更だけど。最近ますます儚げな彼に、どうかほんの少しの気休めを。
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