3.徒労(3)
最近、僕は日記が気に入っている。別に、大したことを書くわけじゃない。それどころか一日の出来事を書くことも少ない。
気取ってみるなら、備忘録って感じだろうか。んー、いや、読み返しもしないからそれも違うかな。読み返すことができるような、そんな良い内容を書いてはいない。逆に読んだら色々崩れる気がするな。まあ、人に見られてもある程度大丈夫なことしか書いていないはずだから、そこは安心していいかもしれない。
ただ、自分の頭がちゃんと稼働するために、容量を超えないために書いている。吐き出さないと、どこかで壊れてしまいそうだから。あとは暇潰しだなあ。暇で暇で仕方がないから。ずっと部屋に籠っている僕は、いつも暇をもて余している。
ノートを前にして、頬杖をつきながらぼーっとしていると、窓の外を鳳蝶が飛んでいった。剪画のようにくっきりとした漆黒の縁取りは、僕が大好きな雰囲気を醸し出す。……そういえば何でこんなに鳳蝶が好きなんだろう。全く覚えていない。
こんなに文章を書き始めたのは2、3年前からだから、僕の性質に加えて、きっと年齢も影響しているんだろう。10代後半とは、こうも過ごしづらい。昔は別に、わざわざ文章にしたりはしなかったのに。全部自分一人の考え事で済ませていたはずなのに。ついでに言うと、この間買った分厚めのノートは、一向に埋まる気配がない。もう一度買うのも面倒だから、かえって良いんだけれど。
どんなに長い文を書き散らしても、何時間かけて書いても、全てを表せることはなくて。結局僕の考えは拡がるばかりだ。おまけに、綺麗な表現が使えても、読みとってくれる人は居ない。一人ぼっちな訳じゃないけれど。
それどころか、嘘の羅列になっている気がして。文字に出来るようなことは、真実なんかでは無い気がするから。
……違うか、たとえ万一だろうと誰かが読むなら、聞くなら、修飾しなければ気が済まないだけ。こうして紙という媒体に表す以上、いつか誰かが読まないとも限らないから用心してしまうんだ。
もし誰かが読んだとしても、何一つ分かってはくれないんだろうな、なんて。共感なんて要らないけれど、理解はせめてして欲しいなんて、下らない、叶わない願いを抱きながら。こんな本当の考え事も、様々な美辞麗句で誤魔化しながら。
熱にうかされたように、僕は今日もペンを握るんだ。いつか、褪せたページを捲ったその人が、ほんの一片でも何かを感じてくれるなら、と密かに願って。
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