2章14話 あたしのもう1人の幼馴染は侮れない。(2)
『こういう時、弥生さんがいたらもっと的確にアドバイスできるんだろうけど……』
「しょうがないよ。弥生さんが委員長ことを知ってるわけないし……」
こういう時、最も頼りになる人、弥代の姉である及川弥生さん。
昔からあたしたちのお世話をしてくれていた人なんだけど……なんか妙に万能感があるのよね。特に弥代がイジメられて、一時的に不登校になった時から。
訊けばなんでも答えてくれそうというか……。
本人でさえ知らないことさえ弥生さんなら把握してそうというか……。
最近は会っていないけれど、文化祭には来てくれるのだろうか? その時にはいろいろ喋りたいことだってあるし。主に弥代のことだけど……。
で、ふと一瞥すると、時計の針はもう11時を指していた。そろそろ睡魔が襲ってくるが……まぁ、まだ大丈夫。
『あのさ、茜ちゃん? ボク、そろそろお風呂に入りたいんだけど、最後に1ついいかな?』
「な……なんでしょうか?」
先ほどまでよりも圧倒的に増した真剣みを含む口調。それに対してあたしは思わず敬語になってしまう。
果たしてなにを訊かれるのだろう? あたしは互いに顔も見えない状況なのに、なぜか全身が強張った。
『あくまでも仮定の話だけど、弥代がホントに委員長を好きになったとするよ?』
「う、ぅん……」
『でも、さ? まだ付き合ってもいないのに、それぐらいのことで、茜ちゃんは弥代のことを諦めるの?』
「――――っ」
理央の声はあたしのことを励ましているようにも、あるいは叱っているようにも聞こえた。
けれど、まぁ、どちらにせよそう言われて当然だったのかもしれない。
この程度のことで諦めるということはあたしの弥代へのなんらかの想いはその程度だった、ということ。そんなこと、あるわけがない!
あたしと弥代の絆は……なんて言うんだろ。よくわからないし、あたしは弥代のことを恋愛的な意味では好きじゃないはずだけど……ポッと出の女子に後れを取るようなモノじゃない!
『弥代が誰かを好きになっても、それで茜ちゃんが諦めきれないなら、ボクはアタックし続ける方がいいな~って、そう思うけれど?』
「か、勘違いしないでっ!? あたしは弥代のこと、ただの幼馴染としか……」
『本人がいないところでツンデレムーブされても困るんだけどなぁ……』
「でも……」
『ん? でも……なに?』
「――でも! その幼馴染が女の子と仲良くしてデレデレしてるのが気に喰わないだけ! 仲のいい女子ならすでにあたしがいるでしょ、って!」
『あはは! そっかぁ……。だったらやっぱり、それを阻止するためには、茜ちゃんが委員長以上に、弥代に絡んでいけばいいんじゃない? ね?』
スマホの向こうで理央の小さな笑い声が聞こえた。
ん……なんだろう? まるであたしが理央の手の上で踊っているようだった。理央相手に口で勝てる気がしない。
『――でも、さ?』
理央があたしの思考を止めた。あたしは理央の言葉を聞くことにする。
そして咳払いすると理央は――、
『弥代が委員長のことを好きかもしれないなのは結局、ボクたちの想像、憶測でしかないんだけどね~』
あぁ、そうだった。理央が推測して、あたしが乗っただけで確証はなかったんだ……。
それでも、可能性が1%でもあるなら――、あたしは――
「うん――それでも励ましてくれて、ありがと。話したら少し気が楽になった」
『えへへ、どういたしましてっ』
照れくさそうに返事してくれる理央。やっぱりいい子だよね。
これでもし本当に理央が女の子だったら、外見でも性格でも敵わないよねぇ……。弥代が理央にデレデレしている気持ちもよくわかる気がする。
「お風呂に入るんでしょ? もう切るね?」
『あっ、茜ちゃん!』
「ぅん?」
『弥代と茜ちゃんが文化祭でデートできるように、ちょっと弥代に誘惑もどきみたいなことをしておくね?』
「…………はい? 誘惑もどき?」
果たして、男子が男子を誘惑なんてできるのだろうか?
ていうか、あたしにとって一番の強敵はやっぱり、委員長よりも理央なんじゃ……。
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