2章13話 あたしのもう1人の幼馴染は侮れない。(1)
「理央、相談があるんだけど……」
『ん? 相談? ボクに?』
あたし――朝原茜は幼馴染の1人である理央とスマホ越しに話し始める。
夕飯をすませて、お風呂にも入り終わって、それから明日の学校の準備を終わらせて、今は自分の部屋のふかふかのベッドに寝転がりながらリラックスしていたところだった。
『なに? 体重でも増えたの?』
「あたしの体重は50キロピッタリで普通だから!」
『ボクよりも重いじゃん』
「はぁ!? じゃあ理央は何キロなの!?」
『45kg』
「…………身長155センチのクセに」
『ホントは勝ち負けの問題じゃないけど、負けたからって勝負の項目を変えるのはズルくない……?』
「男子なのにアイドルみたいに可愛い理央の存在自体の方がズルイわよ……』
ハァ……、ホントに、さぁ。弥代じゃないけど、理央ってあたしから見ても顔がアイドルみたいに可愛くて、女の子よりも小さくて軽いんだもんな~。
実際、ホントのホントに学校でも、一部の層からの人気は計り知れない。そしてその層には微妙に弥代も含まれている。こんな現実、不条理だ!
「はぁ……、可愛さでも体重でも負けるなんて、乙女としてのプライドが……」
『女の子らしくなくても自分らしければいいんじゃない?』
「いや、あたしは誰かに強制されたわけじゃないけど、自分の意思で可愛らしくなりたいわけですよ」
『――弥代のために、だよね?』
「…………うん」
いきなり核心に踏み込んでこられた。
まるであたしが今、何に悩んでいるかを見透かすように。いや、まぁ、長年の付き合いだし、冗談抜きで本当に見透かしているんだろうけど。
『ボク、茜ちゃんからの電話で弥代のことを話さない通話は一度もない気がしてきた』
「まぁ、実際、あたし達って毎回、弥代のことを話してるわけだし」
『茜ちゃんが恋のお悩み相談をボクにするからでしょ?』
「こ、恋!? べ、別にあたしは弥代の、ことなんか……」
『え? そうなの? じゃあ相談は必要ないね。おやすみ~』
「いや切らないでよ! お願いだから相談に応じてよ!?」
『いやいや、流石にそっちこそ認めようよ!? いつまでその感情を否定し続けるつもり!?』
「弥代のことが好きかどうかはホントに自分でもまだわからないの! ただ、嫌われたら悲しいし、疎遠になったら絶対に後悔するって断言できるだけで……」
『じゃあ、もう、それでいいけど……弥代のことと言うより、今日に限っては委員長のこと、だよね?』
そう…………やっぱり、わかるよね。わかってないのは弥代本人だけ。
ここ最近、弥代と委員長の仲がすごくいい。最近と言っても昨日からだけれど……。
それでも女子嫌いの弥代が女子とメアドを交換したり、自分の班に迎え入れたり、押し倒したり(?)……とにかく仲がいい。
それを見て、あたしは……なんて言うか、うん。とても不機嫌だったりする。なんかムカつく。いや、委員長はもちろん、これに関して言えば弥代にも悪いところはないはずだけど……。
『昨日、弥代が言ったこと、覚えてる?』
「何個か覚えている弥代の言葉はあるけど……どれのこと?』
『仮定として結婚するならボクがいいってだけで、本当は独身でかまわない、みたいなこと言っていたよね?』
「それ、昨日に限らず頻繫に言っていない?』
『確かに……』
「まったく弥代ってば、理央にデレデレしちゃって……」
『なんかゴメンね……? それで話を戻すけど、ボクも弥代のことは好きだけど、それは当然親友としてなんで、気にしなくていいよ? だから茜ちゃんはライバルのことだけを考えて?』
「…………うぐ、あんがと」
やっぱり、これ、理央にしか相談できないんだよね……。
女子の友達に相談したら「なんで及川について悩んであげられるの!?」って驚かれるだろうし、男子に関して言えば、弥代と理央以外に友達いないし。
『それで、具体的には委員長のなにに悩んでいるの?』
「弥代が、委員長を好きになるんじゃないか……って」
『なんて言うか……相談開幕からずいぶんと根本的なことを言うね』
自分でも寂しそうな、弱々しい声を発したと思う。自分でもわかるとおり、いつものような、弥代と接する時のような、そんな明るい声を出せてないと実感する。
それも当然だ。委員長に弥代を奪われたくないから。だって、なんかモヤモヤするし。
「どうしたらいいと思う? あたし、弥代を委員長に取られたくない」
『……まず、弥代が委員長に対してどんな感情を抱いているかは謎だけど、それでも2人は付き合っていないと思うよ』
「どうして?」
『仮に2人が付き合っていたとしたら、少なくともボクたち2人には打ち明けるはずだよ。弥代は公然の秘密っていうのは連鎖していく、みたいなことを言っていたけれど、それでも十中八九、言うと思う』
「……根拠なくない?」
『仮に弥代と委員長が恋人同士だとしても、弥代にはそれを隠す理由がないじゃないか』
「えっ?」
『誰かに言ったら公然の秘密は連鎖していくっていう話の前に、根本的に秘密にする必要がないってこと』
「あぁ~~、なるほど」
『男子からは嫉妬されるかもしれないけれど、弥代はそんなの気にしないはずだし、それなのに2人の関係を秘密にする理由は――』
「――2人が付き合う以上に、事実がバレたらマズい関係だから?」
『……まぁ、順序立てて考えたら、それしか結論が出ないなぁ、ってボクは思う』
それはあたしにとって、希望でもあり、絶望でもある。弥代と委員長が付き合っていないなら、確かにそれはそれでホッとする。
けど、付き合う以上にバレたらマズい関係って、弥代と委員長はどんな関係なんだろう……?
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