3章1話 朝原茜はいつもツンツンしているが意外にチョロい。(1)
「よく言えばウソを吐かない。悪く言えば建前を使えない。そんなあなたが付き合うべき異性は同性の友達のように近しい人です」
「ふむ、同性の友達……やっぱり理央一択じゃないか! やっぱり俺は女子と恋愛するぐらいなら、理央とずっと遊んでいた方がいいというわけか!」
「待ってよ! 異性って部分はどこに消えたの!?」
「俺は同性愛者ってわけじゃないけど……別によくないか? 結局、性別とか恋愛とか関係なく、一緒にいたいヤツと一緒にいるのが人間として一番健全だろ」
「恋愛占いをしているのに恋愛を否定された!?」
10月22日の6時間目――、
学校の教室にて――、
どの班も文化祭まで4日ということで忙しなく張り切っている。
装飾班のおかげで教室は占いの館らしくなってきているし、接客班が持ち込んだタロットや水晶などでそれらしい雰囲気が溢れてきている。
まぁ、祭りの準備期間というのは人によっては当日よりも楽しいらしい。
誰もが活気付いて、楽しそうな空気が広がっていた。陽キャはもちろんだし、比較的日陰者の生徒だって、気の合う友達と和気藹々と作業している。
で……茜はさっきから占いの練習で、なぜか異性って部分をやけに強調してきている。
科学的な根拠なんて皆無だろうと、やるからには練習しておきたいという考えは理解できる。だが、別に恋愛占い一択である必要はないだろ……。
いや、もう、流石に疲れたという感情を否定できない。
しかも机を挟んで椅子に座り、真剣に向かい合っていると、受験の時の面接を思い出すのも息苦しい。
待て。根本的な話、占いの練習って客への対応を確認するだけで、実際に占いを複数回する必要性はなくないか?
そりゃ、いくら俺でも1回か2回はしておいて、ある程度滞らずにできるようになっておくべき……とは考えているが、占いなんて当然、科学的根拠はない。
血液型占いはDNAに関係しているから科学に基づいているし、信憑性高いよ!
なんて本気で言っている女子が小学校でも中学校でもいたが、そんなの当然ウソだ。水素水と同レベルだ。
「なぁ、茜、少しいいか?」
「いいけど……あたし、今、弥代にさせる次の占いを探してるんだからっ」
ようは喋ってもいいけど邪魔しないで、ってことか。
俺に背を向けて、占いの本から次の占いを探している茜。同じ班の理央は星宮を連れてどっかに行きやがった。理央め、逃げたな? 茜が被験者を欲していることを察していたのか?
「文化祭の出し物を決める時に、さ? 占いの館とメイド喫茶が残って、最終的に占いの館になったじゃん? 実は俺、それに納得していないんだよ」
なんて言うと、バッという音さえ出して茜は振り返った。その
あ~、たぶん、っていうか絶対にこいつ、勘違いしているな。
「意外だっ! 弥代が女子にご主人様って呼んでもらいたかったなんて!」
「ちげーよ。納得していないのは女子の態度に対してだ」
「あ~、はいはい、いつもの雑談ね」
「出し物を決める時、あいつらは『占いの館なんてやったらいいんじゃない! 好きな人のタイプもわかるし』ってほざいたろ? それなのに男子が『俺たちはメイド喫茶がいい!』って言った瞬間、ウジムシを見下すような視線を男子に浴びせたんだぜ。覚えているよな?」
「覚えているけれど……それがどうしたの?」
「おかしいとは思わないか? 2つの意見は異性に関わりたいって意味では一緒なんだよ。それなのに男子だけが責められていた! あまりに理不尽!」
「まぁ、弥代の場合、私怨が入っているけれど正論には変わりないから反論できないんだよね。でも弥代、正しく生きるな、賢く生きよって、昔の偉い人が言っていたよ? たとえ弥代がどれだけ正論を言っても、そんなんじゃモテないんじゃない?」
「女子のこと嫌いなのに、なぜ女子に好かれてもらおうと思う!? そんなのこっちから願い下げだ! そもそも占いになんか科学的根拠はないんだ。だから占いで意中の相手のタイプなんかわかるわけがないのに……」
気のせい……ではなく確実に、クラスメイトの女子からの視線が痛い。とはいえ女子から見たら俺は空気読めない嫌なヤツだし仕方ないか。
それにしても……今日になってから、やけに茜が絡んでくるな。
「次の占い、決まった?」
「決まった! 次は動物占いにする!」
動物占いか……小学校の頃に流行ったのが懐かしいな。そして女子が自分に当てはまる動物が可愛くないと泣き出すのも懐かしい。
もっと言うなら、動物占いでゴリラに当てはまった女子に「ゴリラなんて絶対に嫌だ!」「及川君よりはマシじゃない?」ってバカにされた経験も懐かしい。この場合、俺の当てはまった動物よりマシって意味ではなく、項目に『及川』ってあったらそっちよりマシって意味である。ねぇから、動物占いに及川って項目はねぇから。
「まずはイヌ、ネコ、ウサギ、羊、牛、馬、ペンギン、ライオン、トラの中から好きな動物を選んでください……だって」
「食えるから牛で」
「結果、あなたを幸せにしてくれる異性は幼い頃から一緒にいて気兼ねなく話せる人です。またあなたは明るくて元気な異性を引きつける魅力を持っています。幼い頃から一緒にいて、同性のように近くで接していると、あなたにとって一番の異性を見落としてしまいます。一度まわりの異性について考え直してみては? だってさ」
「ふ~ん」
「なんで興味なさ気なの!?」
「興味ないからだけど!?」
そこで茜はずいっ――と顔を俺に近付けた。制服の隙間から胸の谷間が見えているが、いくら俺相手でも少しは気を付けてほしい。ワザとかと思うほど谷間もブラも見ているぞ。
あと、少し近付かれただけで、女子特有のいい香りがする。流石に感覚を否定することは難しいので、まぁ、認めざるを得ない。
そして――、
茜の花の蕾のように可憐な唇が小さく開いて――、
「そこまで言うんだったら弥代がやってみてよっ!」
「なんで!?」
「興味ない相手に興味を持たせることも接客に必要な技術だと思います!」
「ぐっ……、なるほど、それは正論だ」
正直な話、メチャクチャメンドくさい。
だが、それは感情に過ぎない。確かにこれは茜の言うとおりだ。何かを否定するなら、自分はそれ以上でなければならない。
茜は興味津々な様子で瞳を輝かせている。
それに俺も一応、当日に占いをする班の班長だ。マニュアル外のことについてもある程度練習しておいてデメリットはないはず。
「わかった、やるよ」
「うんうん!」
「それじゃあ、手を握ってくれ」
「うんう……ん? えっ? いやいやいや! 待って待って待って! 心の準備ができていない!」
俺が占いの準備のために右手を差し出すと、茜は急に赤面した。周囲を見回して、教室で祭りの準備をしている生徒が俺たちに注目していないことを確認している。
そして、ゆっくりと手を差し出してきた。それはまるで小動物を初めて抱っこするような、そんな遠慮しがちさがうかがえる。
…………流石にじれったいな。
手を握るのがイヤというわけではなさそうなので、こっちから握るか。
「きゃっ――ちょっとっ、いきなり握らないでよ! ビックリするでしょ!」
「茜がじれったいんだよ」
茜の手を握ったのが初めてというわけではない。
それでも少しずつ大人になっていくにつれて、手を触れ合わせる機会は減っていった。これは何年ぶりの握手だろう。
「は、早く占いなさいよっ」
「わかってるよ」
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