3章2話 朝原茜はいつもツンツンしているが意外にチョロい。(2)
なぜかわからないが、茜が視線を逸らしている。
まるで気恥ずかしそうに……って、いや、待て。まぁ、たぶん、実際にそうなかもしれない。これは漠然と占いらしさとやら演出しようとしただけの特に意味のない行為だが……よく考えたら相手がこんな俺でも、茜からしたら異性と手を繋ぐことにカウントされそうだし。
で、そんな茜は俺の手の形、体温を確かめるように握る手の力に強弱を付けている。
こういうこそばゆいことをされるといくら俺でも羞恥心を覚えるが、やむを得ない。提案したのは俺だからな。
「最初に、これはもう断言できるけど、茜は今、人間関係で悩んでいるな?」
「えっ?」
「本物の占いとは言い難いかもしれないが、手を握った時の体温や脈で占いの真似事はできるんだぞ?」
「ウソぉ!?」
早速茜が食いついたが、ウソに決まってんだろ。
ただ、それでも茜は見事核心を衝かれたかのごとく動揺しているのだから、ここまで純粋だと友達として心配だ。俺が握る茜の手も、ホントに若干熱くなり、そして手から感じる鼓動も早くなっているし。
「確かに、茜の気持ちも理解できるよ。相談できる相手って中々限られてくるから、茜は相談相手を慎重に選んでいるんだよな? それに、人間関係の悩みって失敗したら元通りにならないこともあるから、どう対処するかも必死に考えている。こんな俺でもアドバイスを送らせてもらうが、まずは行動することが一番だぞ?」
「え!? あれぇ!?」
「茜は現状を変えたいと思っている。そのために行動し始めようとも思っている。それは素晴らしいことだ。問題はその行動が誰かに迷惑をかけないか心配、ってところじゃないか? 安心しろ。きっと上手くいくから」
「ちょ、ちょっと待って! なんでホントのホントにあたしの悩みについて知ってんの!?」
握った手を離して、勢いよく立ち上がる茜。顔を赤らめて、明らかに狼狽している。
う~ん、占いそのものには成功したが、ここまでチョロいと練習として難易度が低過ぎるような気もするな。
「そろそろネタバレするけど、俺は別に茜の悩みなんて1つも知らないぞ」
「そんなわけないじゃん! 見事に当たってるし! 一体どういうこと!?」
大声を出してしまったため、一瞬でクラスメイトの視線が集まってきた。で、茜は注目されて、恥ずかしそうに着席した。
そうすると茜はジト目で俺を睨み、トリックを明かすように無言で促してくる。理不尽だ。大声を出したのは茜本人なのに。
「ストックスピールって技術だよ。よく詐欺師やカルト宗教の勧誘が使っているヤツ」
「なにそれ?」
「よくプロの占い師が初対面の人を占って、話してもいないことを言い当てるだろ? あれは基本的に話術の賜物だ。その中の1つがストックスピールって技で、誰にでも当てはまっていることを、あたかも自分だけにしか当てはまってなく、それを的中させたかのようにみせる話し方だ」
「うん? ん~~~~?」
「たとえばだけど、人間関係に悩んでいるのは茜だけか? 人間なら誰しも、誰かしら他人のことで思い悩んでいるものだろう?」
「あ――っ!」
ここでようやく茜も気付いてくれたようだ。
両手で口を押さえて、やたら古典的な驚き方をしてくれている。
「相談したいことがある前提なら、その相手を選ぶなんて誰でもしている。なにか行動を起こして、誰かになにかを思われないかなんて、みんな不安がっている。ちなみになんで手を握ったかというと、それっぽく見えるってだけで、特に意味はない」
「それはもう占いじゃなくない!?」
「いやむしろこれ以上ないぐらい真っ当に占い師だっただろ!?」
「そうだけどそうじゃないでしょ!? うぅ~~っ」
なんか茜は妙に可愛らしく、小さく唸っている。しかも両手で朱色に染まった頬を隠して、俺のことを責めるように睨み始めた。
とは言っても、まるで怖くなく、むしろ子どものようで見ている俺としては大変微笑ましい。
「今の茜を見て思ったけど、やっぱ女子って非論理的だよな」
「あ……また女子のことを見下している!」
「占いなんて話術の結晶だ。していることが違うだけで、使っているテクニックは詐欺師やカルト宗教の勧誘となんら変わりない。結局、占いなんて人を騙す行為なんだよ。技術体系に興味を持つことを悪いとは言わないが、占いだけを神聖視するのは意味がわからない」
「弥代……女子に睨まれてるけど?」
「気にするな。騙された結果に幸福感を抱き、それは詐欺師やカルト宗教の勧誘と同じ技で行われる。となれば占いを信じている女子は詐欺に遭っても簡単に騙されるし、怪しげな宗教に勧誘されても、占いと同じ要領でコールドリーディングされて、あっという間に深みにハマる傾向にあるんだろうな」
「は? コールドリーディングって?」
「簡単に言うと、観察した結果に基づき人を信用させるように話す行為だ。ストックスピールもこれに含まれる」
ちなみに俺はこれを今の茜との練習で初めて使ってみたが、結構いけるものだな。
占いは人を騙して幸せにする行為と、少なくとも俺は考えている。だから俺は好きな異性のタイプを知りたいなら、占いよりも恋愛心理学をお勧めしたい。まぁ、そもそもコールドリーディングは警察官やカウンセラーも使っているから、結局は使い手の心次第なんだけど。
「でさ、これは割と真面目に、これでも一応友達として1つ、茜に訊きたいんだけど……」
「なに?」
「茜は何に悩んでんだ?」
「……どういうこと?」
「俺は今、どう取り繕ったとしても茜のことを騙したけど、なんでホントのホントにあたしの悩みについて知ってんの!? って言っただろ? ってことは何かに悩んでいるのは間違いないってことじゃん」
「言わない! 絶対に言えない!」
茜は両手を俺に対して突き出して、ブンブンと左右に振り始めた。
なんてわかりやすいヤツだ……。
「今日やけに俺に絡んでくるから、それに関係しているのか?」
「言わないって言ったでしょっ!?」
ビンゴか。本当に関係がないなら、俺に絡んでくる理由を教えてくれても問題ないからな。とはいえ、じゃあなぜ茜はいきなり俺に絡んでくるようになったのか? 謎だ。
正直訊いてみたいなんて、そう思ったが、それは俺の個人的な感情で、ワガママだ。茜も本気で嫌がっているように見えるし、これ以上は訊かないようにしよう。
「ところで」
「うむ」
「何で弥代は今みたいな技術を知っていたの?」
ケロっと表情を一転させる茜。こういう話に関心があるのか、ぐい――っと近付き、俺のことを下から覗き込むんできた。
まぁ、別に隠すようなことでもないし、教えてもいいか。
「文化祭の出し物が占いの館って決まった日に、占いの種類や方法を調べよう! って話になったのを覚えているか?」
「うん、覚えてるけど……。みんなでタロットカード占いとか水晶占いについて調べたヤツでしょ?」
「あっ……あの時間って一般的にはそういうことを調べる時間だったのか」
「そりゃそうでしょ! 今のリアクションで察したけど、こういうことを調べたのは絶対に弥代だけだから!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます