3章3話 星宮奈々は一刻も早くパンツをはきたい。(1)
「あれ? 弥代くんも学食でお昼ご飯?」
理央と茜以外から声をかけられるなんて珍しいな。
カレーうどんをすするのを一旦やめて、声がした方を向くが……やはり星宮か。トレイには……味もそこそこ、量もそこそこ、値段もそこそこのAランチ定食。
10月23日、木曜日――、
昼休みの学食にて――、
学食はそれなりに賑わっていて、男女、学年、あげくに生徒と教師すら関係なく、楽しげにお喋りをしながら昼食を楽しむ人が大勢いた。
そんな中、俺は一番隅っこのテーブルで独り寂しくカレーうどんを味わっていた。いやいや、別に寂しくなんかない。ないったらない。
まぁ、やむを得ない。理央と茜は教室で食事しているからな。2人は弁当持参組で、俺は普段お弁当を持ってきていないし。
決してはぶられているわけではないと信じたい。
「星宮もか?」
「うん! あっ、お邪魔じゃなかったら一緒に座ってもいい? 1人で食べるのも寂しいし……ダメ?」
「いや、構わない。俺も星宮に話があったし」
答えると、星宮は俺とテーブルを挟んで対面に座った。
で、トレイをテーブルに下ろして、箸を持つ。それで「いただきますっ」と挨拶してから白ご飯を頬張った。続いて飲み込むと、星宮は俺に――、
「それで、私に話したいことって?」
「あぁ、それは……」
一応見回して周囲を確認する。このテーブルに座っているのは一番右端に俺と星宮。一番左端に見知らぬ女子生徒が3名。距離は3メートル以上開いている。
また周りに気を配っても、俺と星宮のことを見ている人はいない。聞き耳を立てている人もいないだろう。
「すまない。あの約束のことで星宮に謝らなければいけないことがある」
「ほぇ!? や、弥代くんっ? 頭を上げてってばっ」
深々と頭を下げる俺に対して、星宮は両手をあたふたさせて、慌てた様子で頭を上げるようお願いしてくる。
俺としてはもう少し謝罪の気持ちを込めて頭を下げていたい……が、ここは学食だからな。注目される前に言うとおりにしておこう。
「それで、何か私に悪いことをしたの?」
「……順を追って説明するが、例の話で俺の姉さんが大学で、なぜか民族伝承を専攻しているって話をしたよな?」
「うん、覚えてるよ?」
「星宮には悪いが、姉さんにクラスの女子が〈屈折のデザイア〉を患っているって話をしたんだ」
「それは……どうしてかな?」
明らかに俺は星宮との約束に反した。
が、星宮は一向に怒る気配を表さず、内心で不満をくすぶらせているわけでもなさそうだった。
今回に関して言えば、非論理的なことをしたのは俺だ。
だから罵詈雑言を浴びせる権利が星宮にはあるはずなのに……。俺としてはありがたいけど、理解できない……。
「……約束を破るという非論理的な行いをしたことはどう取り繕っても事実だが、理由としては意見を聞くためだった。で、星宮の患っている都市伝説をどうにかする方法を聞いてきた」
「――――っ」
息を呑み、声にもならない声で星宮は驚く。当然だろう。思春期の女の子なのにノーパンを強制される。そんな屈辱的な現状から脱出できる手がかりを得られるのかもしれないのだから。
カレーうどんを頬張ってから、俺は続きを話す。
「まぁ、これは理屈ではなく俺の感情的な話で、だから俺は星宮に罵られても文句を言えない立場にあるんだが……一応、俺も星宮のことをどうにかしたかったからな。だが独断で約束を破ったわけだから、当然謝罪をしようと思った。それだけだ。……すまなかったな」
再び俺が謝ると、星宮は両手を勢いよく左右に振って返事する。
「ううん、気にしなくていいよっ! むしろ私のために動いてくれたんでしょ? だったら、むしろ私の方こそ謝らなくちゃ……」
「待て待て待て。論点が微妙にずれてるぞ? 俺が独断で約束を破った。重要なのはここだけだ」
「――ううん、それでも私も感謝している。ありがとね?」
優しく表情を緩める星宮。彼女の微笑みにはウソ偽りなく、心の底から笑っているようで、不覚にも可愛いと思ってしまった。
このまま片方が謝って、もう片方がそのことに対して謝って、更にどんどん繰り返していくと収拾が付かないので、申し訳ないが俺の方から謝罪の連鎖を抜けさせてもらう。
「本題に入る前に一応言っておくが、姉さんの前でも星宮の本名はぼかしておいたから、ある程度は安心してくれ」
「うん。それで……がっつくようでみっともないけど、私のノーパンをどうにかする方法っていうのは、どういうものなの?」
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