2章10話 及川弥生は星宮奈々に騙されない。(5)
なんか……星宮が灰のようになってしまっている。
痴女、エロゲのヒロイン、そして露出狂。3つも星宮が気にしていそうなことを口にしてしまった……が、しかしながら、これは何度も言うように事実なわけで……。
「そうだ! 星宮ちゃん、私と連絡先、交換しない?」
スマホを取り出した姉さんは画面を見せ付けるようにそう提案した。
けど、なんでだよ。俺でもわかるぐらい距離感の詰め方、ミスっていないか……?
それに対して星宮は俺の方に視線を寄こして……どうしたらいい? なんて感じのアイコンタクトを送ってきているし。
2人の共通の知り合い、架け橋になる人物は間違いなく俺のはずだが……残念ながら俺に姉さんを止められる自信はない。
で、なにも言わない俺の内心を察して、星宮は決意したのかもしれない。
スカートのポケットからスマホを取り出したが……あれだ。連絡先、交換するだけ交換して、あとはミュートでもいいと思うぞ。
「じゃあ、えと……よろしくお願いします」
星宮のスマホの画面に表示されたQRコードに姉さんがカメラをかざす。
そして星宮の方も友達申請を本当にOKしてくれたようだった。
「でも姉さん、なんで急に連絡先を?」
「ん? いや、ひょっとしたら、これから仲良くなるかもしれないじゃん? それに私の方がお姉ちゃんだし、なんかの相談相手になれるかなーって」
「ほーん」」
「そういえば弥代、あんたのとこの文化祭っていつだっけ?」
「今月の26日だけど……来るつもりか?」
「もしも暇ならね。でもたぶん、大学の課題があるから無理だとは思うけど」
だったらぜひとも課題を優先してください。大学の単位を落として留年なんてしたら母さんに怒られるぞ。
姉さんが残念そうに肩をすくめると、星宮が初めて自分から姉さんに話しかけた。
「わたしは……きてほしいです。弥代くんも班長で占い頑張ってくれますから」
星宮が淡くはにかむ。まだ姉さんに対して若干、どの様な態度をとっていいか迷っている感じがした。
別に、姉さんなんか相手に敬語を使わなくてもいいのに……。
「弥代、あんた占いできるの? 特に女子相手に」
「茜にも言われたけれど、マニュアル通りにはやるつもりだ。恋愛占いをせがんできて、挙句、結果に不満を漏らすようなやつなら、現実を叩き込んでやるけど」
「現実ってなにかな?」
可愛らしく、きょとん――と、星宮は目をぱちくりする。
小動物を彷彿とさせるその仕草に、俺は不覚にも可愛いなんて思ってしまった。
「現実って言うのはあれだ。占いよりも恋愛心理学の方が信憑性ありますよって」
「それは占いの館の店員が口にしていいセリフじゃないよね!?」
「あと、素人の占いなんて信じるな。占いの結果が気に入らないなら努力しろ。まぁ、そんなところ」
「ねぇ、星宮ちゃん? こいつを店員に、しかも班長にして大丈夫なの?」
「えっと……たぶん。それに、もう決まったことですので……」
はなはだ心外である。俺は事実しか言っていないのに。
なんで女子ってよく、事実を指摘されただけでキレるんだろうな。正論を言って逆ギレされたのなんて両手両足でも数えられないぞ?
「さて、お姉ちゃんはもう行くよ。2人はどうする?」
俺と星宮は目を見合わせた……が、どうするか。もともとこの寄り道は俺のために星宮がついてきてくれたものだ。
さらに本屋で買うものはなく、姉さんと同じく暇潰しできていただけ。マンガも新刊が出ていたら買おう程度にしか考えていなかった。
だから――、
「欲しいマンガもなかったし、俺はもう見るものないけど……星宮は?」
「わたしも大丈夫だよ」
「…………意味のない寄り道になって、悪かったな」
「ふふっ、そもそも、意味もなく友達と駄弁るのが寄り道でしょ? 気にしないで?」
本当になんの買い物、成果もなく寄り道に付き合わせただけなのに、星宮は嫌な顔ひとつせず、ニコリと笑ってくれた。
やっぱり、実際に接してみると、傾向から外れているな。他の女子との買い物だったら、男子を荷物持ちにさせて、女子が好き勝手に遊び回る可能性だって否定できなかったはずなのに……。
「じゃあ、帰ろうか?」
「そう……だな」
姉さんが先導してその後ろを俺と星宮が歩く。会計するものなどなにもなかったため、レジに寄らずにそのまま店から出て行った。
店から出ると、もう完璧に夜だった。秋の空は月が綺麗で、うっすらと月明かりが夜を照らしていた。すでに西の彼方まで夜の色に染まっていて、少し物寂しい雰囲気になってしまう。
「それじゃあ、弥代くん、また明日」
「あっ――――星宮」
「んっ?」
「また……明日な」
「うんっ、また明日、学校で。及川さんも、さようなら」
「バイバ~イ、星宮ちゃん」
駅の改札をくぐったところで、俺たちと星宮は分かれた。どうやら逆方向の電車らしい。
星宮は俺たちに手を振りながら、一歩一歩離れていく。
また星宮に会うのは明日か。
自分でも意外なことだが、星宮と別れて寂しい気持ちになっている自分が、心のどこかに存在している。否定できない程度には、自覚できた。
「行くか、姉さん」
「アイアイサー」
割とすぐに電車がきたため、俺と姉さんはそれに乗り込む。
帰宅ラッシュ本番にはまだなっていなかったため、幸いには2席連続で空いている席があり、俺たちはそこに並んで座った。
「弥代ってさぁ?」
「あぁ」
「星宮ちゃんのこと、どんなふうに思ってんの?」
そんなことを姉さんはいきなり切り出してきた。
そしてすぐに、色々な思考が思い浮かんだ。可愛いとは思う。綺麗だとも思う。一緒にいて落ち着くし、一緒にいて楽しいのも間違いない。
でも、絶対に、好きなわけがない。俺が女子嫌いだから。
俺のトラウマが消えない限り、女子を好きになるなんてありえない。
「ただクラスメイト、じゃないか?」
「疑問系なのは自分でもわからないから?」
「揚げ足を取るな。クラスメイトだよ。なんでもかんでも恋愛的な話に結びつけようとするな」
「真面目な話をすると、ね? 私は今、恋愛の話なんてする気がなかった。姉さんが恋愛的な話に結び付けようとしているなんて、弥代が勝手に思い込んでいるだけ」
「と、いうと?」
「友達になれたって、素直にそう言えるように成長できたかどうか、知りたかっただけ」
どこか寂しそうな
こういう時、姉さんはどこか大人びている。やっぱり『お姉ちゃん』を自称するだけのことはあって、こういう場合でも、俺自身わからない答えも知っているんだろうか?
「弥代……トラウマに負けちゃダメだよ? お姉ちゃんだけは絶対に、いつまでも弥代の味方だから。もしも困ったことがあったら、絶対に話を聞くし、駆け付けるから」
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