2章4話 俺も、朝原茜も、やはり本当のことはなにも言えない。(2)
「次は茜。今日行う具体的な内容について、どうぞ」
「あたしのモヤモヤをどうにかしろ!」
「なら真面目に星宮とのことに言及するけど……茜にだって、俺や理央にさえ言えない秘密ぐらいあるだろ? 俺は他人の気持ちなんて全くわからない人間だけど、自分がされて困ることを他者にしてはならないという、対人関係の暗黙のルールぐらいは理解している」
「ぐぅ……、あたしに弥代にも言えない秘密なんて――」
ふと、そこで茜が言葉を止めた。
どうしたんだ? いつもならもう少し反抗するはずなのだが……。
「――あると明言することは避けるけど、ないとも一概には言えないわね」
「茜ちゃん!? 抗うなら最後まで抗おうよ!?」
「最後に、星宮はなにか意見あるか?」
「そうだねぇ……、えっと……」
俺に促されて、星宮は少しだけ悩む素振りを見せた。
理央と茜がなぜか暴走気味な今、唯一まともに考えてくれるのが俺にとって救いだった。
にしても俺……なぜかわからないけど、星宮となら意外と滞りなく話せるな。
と、その時、事件は起きた!
現在、俺たちは教室後方の床にダンボールを敷いて、その上で話し合っていたのだが、突如星宮が体勢、座り方を変えた!
ずっと正座で足が痺れたから体育座りに変えたんだろうけど……バカ! スカートで体育座りなんてしたら中身丸見えだろ!
スカートはいているなら、下着をちゃんと付けていても体躯座りなんてするなよ!
「星宮、すまん!」
「ほぇ? きゃ――っ!」
後先のことなんて、そんなものは考えていない。
本当に我ながらバカ丸出しだけど、考えるよりも先に身体が動いてしまった。
ただスカートの中身、星宮のノーパンを誰かに見られるわけにはいかなかった。そのためだけに、俺は――、
――星宮を押し倒した。
「ど、どうしたの!? 弥代くん!?」
「い、いや……俺も足が痺れて体勢を変えようとしたら、立つのに失敗してしまった」
いきなりの俺の蛮行に星宮は驚きを隠せないが、まぁ、当たり前か。
とはいえ俺が押し倒した結果、星宮は足を伸ばした状態でダンボールの上に寝転がることになったのだ。これで星宮のスカートの中を誰かに見られる事態は回避できたか。
(星宮は無防備すぎる!)
(なんのこと!?)
(体育座りしたら中身が見えるだろっ!)
(~~~~~~っっ!)
小声でそれを伝えた結果、現状を理解したのだろう。
星宮は顔をまるでリンゴのように真っ赤にして涙目になった。
それにしても、だ。
不本意だとはいえ、みんなの憧れの女の子を押し倒して、その子の紅潮した顔が、小さくて瑞々しい果実のように艶やかな唇が、あと少し動いたら触れ合える距離にあると思うと、流石にドキドキを否定できない。
ていうか、星宮の吐息が頬を掠めるたびにくすぐったい。
なにこれ、いくらなんでも俺まで恥ずかしいしこそばゆいぞ!?
「弥代ォ!」
「痛ぇ!? つーか危ねぇ!」
「委員長を押し倒すなんてどういうつもり!? 普段あれだけ女子をバカにしているクセに!」
茜のチョップによって、俺と星宮は現実に引き戻された。その際、俺の顔が星宮に近付いてマジでキスしそうになったが、なんとか回避できたのが不幸中の幸いだった。
で、お互いにキチンと座り直して、俺はあぐら、星宮は正座を崩したような、いわゆる女の子座りをすると――、
「……さて、星宮」
「は、はい! 弥代くん!」
「互いに足の痺れも取れたようだし、意見はなにかあるか?」
「ごまかせないでね、弥代?」
敵は茜だけではなかった。理央もだった。
いや、2人だけではない。理央の背後では星宮をアイドルのごとく慕う男子たちが首や指を鳴らしたりしながら、俺に殺意を向けていた。怖ぇよ……。
いや、しかし、どうする俺!? どんな理由があろうと、それを説明できない以上、傍から見たら俺は星宮を押し倒すために、俗に言うラッキースケベを意図的にやったようにしか見えないはず!
まぁ、意図的に起こしたラッキースケベをラッキーと言うのかは知らないけど……流石になにか言い訳ぐらいはしなくては!
「…………いや、無理だ。どんだけ考えても言い訳の余地ねぇわ、これ」
「この変態がァァァアアアアア! 地獄に落ちろ!」
「普段メチャクチャ女子のことをボロカスに言っているのに、結局それか!」
「懺悔の時間? 必要ないね! 殺人に必要なのは心臓を止める一瞬だ――ッッ!」
「ふぁ!? 待て! 人殺しは俺よりもマズイだろ!?」
「待てない!」
「みんな待って! 弥代くんも脚が痺れただけだよ!」
「星宮さんがそう言うなら……」
……おかしくないか?
俺が最初に言ったウソだけど、脚が痺れて女子を押し倒すとか、建前としてかなり無理があるぞ。星宮が言っただけでそれを信じるのか、お前ら。
「やはりなにを言うかよりも、誰が言うかの方が重要なんだよなぁ……」
「正しいだけじゃ人は付いてこないっていう良い例ね。あたしだって、暴力は振るわないけど納得はしていないし」
「弥代が委員長と話すようになってから、茜ちゃんの弥代への好感度の低下が著しいね」
「……割と本当に、いつか話せる時が来たらちゃんと話したい」
「……わかった。それは信じる」
「さ、さて、星宮、そろそろまともなっていうか、文化祭に関係ある意見を出してくれ……」
「えっと……わたしはこの占い、どんな衣装でやるのかなぁ、って気になったかな? せっかくの文化祭だし、雰囲気は大切にしたいなぁ、って」
流石星宮。
質問に対してちゃんと答えてくれる。
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