2章3話 俺も、朝原茜も、やはり本当のことはなにも言えない。(1)



「ではこれより、2年1組3班の文化祭準備を開始したいと思いまーす」


 投げやり気味に活動開始を宣言する。3班のリーダーは俺、及川弥代。班員は遠野理央、朝原茜、そして期待の新人、ノーパン娘こと星宮奈々で、合計4名だ。

 俺たちはチャイムが鳴って、先生がやってきて軽いHRが終了すると、窓際に集まり、ダンボールの上に座りながら活動することにした。


「確か3班は当日に占いをする班だったよね?」

「よく覚えているな……。ちゃんと委員長している委員長なんて生まれて初めて見たぞ……」


「えぇ……、やるからにはちゃんとやるのが普通じゃない?」

「嘆かわしいことに、世の中には本当の普通と建前としての普通の2種類があるんだぞ」


 このクラスの出し物は『占いの館』で、俺たち3班は当日に占いをする役割だ。

 つまりこの準備期間において、俺たちがやることは占いのスペースの飾り付けぐらいしかない。あとは占いの練習か?


「班長、1ついいですか!?」

「はい、なんでしょう茜さん!」


「今は文化祭の準備の時間ですけど、ぶっちゃけあたしたち、もうそんなにやることないですよね?」

「えっ? まぁ、そうだな。全くなにもしないでいると先生に怒られるし、またダンボールで占いのための個室でも作るか?」


「それよりもまず! 新しい班員とのコミュニケーションが必要だと思います!」

「いやいやいや……、俺よりも茜の方が星宮のこと知っているだろ……」


「でも、わたしは全然大丈夫だよ?」

「では弥代!」


「は? なんで俺? 星宮のことは星宮に訊けよ……」

「正直なところ、委員長のどこが一番いいと思ったの?」


「人の話聞けよ!」

「むっ、いいから答えて!」


 なんてワガママなヤツだ……。

 質問の内容は変わってきているけど、結局俺と星宮が恋愛的に仲良くなったという前提は変わっていない……。


「…………星宮とは本当に茜が勘ぐっているような仲じゃない。ただ、人の話を静かに聞いてくれるところは評価している」

「ぐぬぬ……」


「ていうか、なんで茜はそんなに星宮に敵愾心てきがいしん全開なんだよ……」

「やっぱり気付かないの?」


「仮に茜が俺のことを異性として好きなら理解できるけど、そういう類の感情はいつも茜自身が否定している。この前提がある以上、俺の頭では他の可能性が考えられない」

「ぐぅ~なぁ~!!! この頭でっかちめ!」


 なんなんだ、その奇妙な唸り声は……。


「さて、流石にそろそろ真面目な話をしよう。まずは今日なにをするかだ」

「えっ、準備じゃないの?」


「それの具体的な内容を決める。さっきも少し言ったけど、昨日はダンボールと黒い布で個室を作った。中々占いの館らしい雰囲気が出ているだろ?」


 俺が目を向けると、星宮もそっちに注目する。そこに立っていたのは真っ黒な円錐状のオブジェみたいなもの。

 中に入れるようになっていて、この中で占いをする予定だ。正直、かなりチープだとは思うが、準備の時間になりもしないよりはマシだと信じたい。


「脱線したな。では、今日行う具体的な内容について意見ある人~?」


 ビシッ――と真っ直ぐに手を上げたのは理央と茜だった。

 正直指名したくない。十中八九、俺と星宮の関係を問い詰めるつもりだろ。まぁ、そうじゃない可能性も否定できないから、一応指名するけど……。


「まず理央から」


「……まず、弥代って女子が嫌いなんだよね? 特に感情的になりやすいところが」

「あぁ、そうだ! あれは中学の運動会の準備をしていた時! 男子が倉庫から障害物競走に使う跳び箱とハードルとかを運んでいて、女子は運び出されたそれを雑巾で綺麗にする役割分担だったんだ」


「それで?」

「しかし! 女子は役割を放棄した! 理由を訊いてみると、女性なら雑巾を使って物を拭くべきなんて前時代的! って主張してきた! とはいえ主張そのものは間違っていないから、じゃあ、代わるから倉庫から道具を運んでくれ! って言ったら、今度は女子に力仕事を押し付けるなんてありえない! なんて言ってきやがった! どないせいゆうねん! 結局お前らが楽したかっただけだろ!」


「……ねぇ、遠野君? 弥代くんっていつもこんな感じなの?」

「委員長が弥代のこれを見るのは初めてか~。うん、3人でいる時は割とこのターンが発生するよ」


「弥代って中学の頃、男子から不死の生贄って言われていたよね。女子からの印象なんてお構いなしに、男子の文句を代弁できたから」

「よく考えたら中二病全開の呼ばれ方だったな」


「ところで弥代? ボクとだったら、そ、その……け、っ、結婚……も、一応はできるんだよね?」


 流石に恥ずかしがりながら、理央はまるで女の子のように艶やかで薄桃色の唇を小さく動かして訊いてきた。

 手を緊張のあまりかギュッ――と握り締めていて、瞳は潤んで不安そうに揺らいでいる。


 

 そんな天使みたいな理央の華奢な両肩に、俺は手を置いた。そして――、


「もちろんだ! 結婚に関してはあくまでも理央が望むならだけど、少なくとも、幼馴染だろうが親友だろうが、どんな形であれ、理央とはこれからも仲良くしていきたい!」


「でもさ、ボクが一番なのに委員長と仲良くしていちゃダメだよね? それに弥代は女子が嫌いなんでしょ? それならなんでで委員長と仲良くしてるの?」

「昨日も説明しただろ! 俺と星宮は誰にも言えない関係で! 秘密の内容は絶対にバラせないんだって!」


 理央がジト目で俺のことをジ――……と、睨んでくる。

 が、少ししたら溜息を吐いた。


「少なくとも、ボクはもう納得した。弥代はウソなんか吐いていない、って。だからまた新しい展開でもない限り、興味本位で訊かないことにする」

「流石理央!」


 となるとあとは――、


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